魚眠洞とナナミ

序文2「深夜特急とナナミの対話」

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『私達の未来は死海文書「フォルテシモ」!
北陸先端のマテリアルサイエンスに専攻ロンダして
オナニートから抜け出して一流企業に就職しよう!
女の子ってのはさ、自分が自由にできるお城を欲しがってるんだよ!
Mちゃんはヘタレだからどうせ会社でも上手くやってけないよ!
その弱みを突く!安定性!これをMちゃんに提供しよう!それしか道は無い!
その日までは私がナニに付き合ってあげるから!我慢して!さあ!人間的に
サンガニチは実家で過ごすんだよ!大丈夫!大学院に受かって脳みそが
元に戻ったら貴方に敵はいない!私が保証する!
さ!キノクニヤに行ってストレス発散しよッ!』


『本当の自分なんていないんだ。心の闇なんて無いんだ。愛なんて無いんだ。
ナナミ、お前に付き合ってるばっかりじゃ俺は駄目になっちまう気がするんだ……』


『あのさ。もう4年間十分休んだでしょ。
アース(地球力)はもう十分貯まってるんだ。
そして私は貴方の精神を崩壊させない為のリスク・バランサー。
本当は分かってるよね?そんな事。
私は貴方を守る為に貴方の中から生まれてきた。そして何処へもいかない。
時が砂の城を風化させるようにゆっくりゆっくり、私は消えていく。
そういう風にデザインされてる。
貴方の思い出の中のMちゃんと一緒だよね。それが人間というシステムなんだ。
もう貴方は現実と戦える。机に向かってないけどこの4年で色々な事を勉強したからね。
Yのアホタレに馬鹿にされるような謂れは無いよ。
Kと張り合おう。Tともう一度親友になろう。
貴方は約束の場所へ、昔からある場所へ、還ってきたんだよ。ね?おめでとうだよ』


『うおおお!燃えろ!俺のアース(地球力)!説明しよう!
深夜特急は左胸に埋め込まれたアース袋に大地から吸収したアースを
4年間溜め込んでいたのだ!
それらを呼吸により取り込んだ酸素と混合させる事により
一種のプラズマ現象を引き起こし脳内の電気信号の速度を飛躍的に高める事ができるのだ!
よし!これでエッセンシャルとセルに立ち向かえる!セル!待ってろよ!
エッセンシャルを倒したらすぐにお前を血祭りにあげてやるぜ!俺の脳力は無限大!
4年間の絶望と共に過ごした時間が俺に究極の神秘を与えたのだ!
喰らえ!リヴィングストン・ディスアペア!相手は死ぬ!』


『さーて、「ファウスト」でも読もうかしらね。深夜特急。
暴走したらアース(地球力)とブレイナーゼ(脳力)が減っちゃったでしょ?でしょ? 』


『ア……アース(地球力)が足りねえ……。
俺に、俺にもっとアース(地球力)をくれ。ナナミ。
くそ……。いやむしろお前は俺からアース(地球力)を奪っているんだ。
だってさ、お前とむにゃむにゃたら
なんかブレイナーゼ(脳力)が減ってる事が多いんだもの。
お前って本当に居た方が俺にとって良いのかなぁ?
人間って十人十色だけど、お前みたいな奴と
一緒に暮らしてる奴ってあんまいないんじゃないかな?
ほら、滝本とかはいるけどさ。アイツはメンヘラの人と結婚して家燃やされたって……。
本当、実利に走ってなくて淘汰される生物種だよな。「超人」って。
俺、超人にだけはなりたくないよ。ヤング・エグゼクティブにもなりたくねーけど。
って馬鹿!なりたくてもなれねーっつーの。ハハハ。
なっ、情報生命体のナナミ。お前ってもしか超人の一種?』


『もっとさァ……狡猾にやればアース(地球力)もすぐ貯まるはずだよ。
リア充を見てみな。徹夜でお酒飲んでもピンピンしてる。
アレはそれだけアース(地球力)を一杯持っててなおかつ
お酒を飲みながらでも貯められるからなんだ。
弱いって事は選択肢が少ないって事。不自由だって事だね。
バイトもしてないから金銭面でも不自由。ねっ。そこは分かってね。
アース(地球力)の仕入先もリア充より少ないってわけだ。
何しろアイツラは仕事しながらでも貯めれるよ。
そこで弱肉強食だって諦めちゃ駄目だね。
弱肉強食は諦めの言葉じゃ無いんだってホロケウが言ってた。
君はまだこの勝負、勝てる目を持ってるよ。工学部の連中にもね。
だって彼らとは違う部分をずっと鍛えていたんだもの。
負け惜しみだって思わなくても良いよ。
どんな経験よりも、その経験を役立てようとする気持ち
そのものの方が価値があるものだから。
世界はまだ終わりを告げやしない。嘘じゃない。本当だよ。
だからもう、手段を選ばないで。専攻……ロンダしよう……!』


『専攻ロンダも良いけどその前に卒業研究をちゃんとしないとな。
俺は凡百の有象無象とは違うのだ。遺伝子工学やろうよね。
今やらなくていつやるよ。ちゃんとアース(地球力)の配分も考えて。な。
ナナミ。お前の「地球斬り」は最後の手段だ。自分を武器に見立てれば
何だってできるさ。俺は「世界」を俺の命よりも重い物だとは思わない。
そんな高級な生物じゃないんでね。見誤らないで行こうぜ。俺達の器を。なっ、ナナミ』


『ふふ……私の名前は水無田無名身(ミナシタ・ナナミ)。
深夜特急の青春の幻影の中にだけ存在する女……。
その死の時には、深夜特急に迷惑をかけたりはしない……。
私は深夜特急を奈落から引き上げるために生まれてきたのだから……』

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