第三話 「第七管区」





「マジやばいって。頼むから思いとどまってくれよ」 
天国の門番コンスタンが風見と水前寺に懇願している。 
コンスタンは無造作にセットされた空色の髪と銀色の翼で他と同じように白装束を纏っている。 
「んな事言ったて好奇心無くしたらクリエイターとして失格だろ。 
 俺、自分の命なんかそんなに重くみてねーんだよ」 
風見がいう。 
「私は風見さんが心配だからついて行くよ」 
水前寺が言った。 
「ちぃっ。知らねーぞ。もう」 
コンスタンが吐き捨てた。 
第七管区に入る事は原則禁止されているがその端の方の 
監視ビルという50階建てのビルがあり其処には行って良い事になっている。 
風見と水前寺はそのビルに向かっているのだ。 
「あのな。第七管区がどんだけヤバイか説明してやるぜ。 
 基本的に飽和した退屈で腐った天国の生活に飽き飽きした奴等が 
 好き勝手に戦争やって命を散らしてる所だ。 
 自殺の名所みたいなもんだな。皆生きた顔して死んでいきやがる。ああそうだ。 
 この天国だって死のうと思えば死ねる。現世と同じだ。死ねば無になる。 
 それだけじゃねえ。今は人の入れ替えをスムーズにする為に当て馬が 
 投入されてる。魔界から招待された激ヤバの化けもんだ。 
 レッドラムって言ってな。プレデターの万倍性質が悪い連中だ。 
 だからもう一回言うぞ。やめとけ。平和を甘受しろ!」 
コンスタンはそれだけ一気に喋った。 
「レッドラム? 何か楽しそうねそういうの。 冒険の匂いがするわ」 
水前寺が言った。 
楽観的な娘だと風見は思った。自分もだが。 
エレベーターに乗って最上階を目指す。 
コンスタンがイライラしているのがよく伝わる。 
「それよかさ。アンタ風見さんを監視する任務って言ったけどそれって超失礼よね。 
 私その方が気になるわ」 
水前寺が言った。 
「馬鹿野郎。俺は今世界的に重要な任務をこなしているのだ。それをお前等が……」 
そんな事を話していたら最上階に着いた。 
階の360度がガラスになっている。 
遠くまでよく見渡せる。 
人は30人くらい居た。皆望遠鏡にはりついている。 
青い生物のような曲線の前衛的な望遠鏡が50台そこそこ設置されている。 
「ほら! 勝手に見やがれ!」 
コンスタンが言った。 
「わあわあ!凄い!」 
水前寺が駆けていって望遠鏡を覗いた。 
風見もその隣の望遠鏡を覗き見る。 
既にピントが合っていて30人くらいの闘う旧日本軍の軍服を着た兵士達が見えた。 
どうやらビルのすぐ前からずっと続いている砂漠で闘っているようだ。 
これだけ科学が発達した世界なのに何故か武器は旧態依然とした物の様に見えた。 
爆発が起こり視界が煙で妨げられる。 
ズームさせると血飛沫が見えた。 
誰かが日本刀で闘っている。 
というより何十人もの兵士を一方的に狩っていっている。 
しかし動きが速すぎてよく見えない。 
人間の動きじゃない……風見は思った。 
一瞬動きが止まって見えた。 
黒服の肩まで髪が伸びた紫髪の少女だ。 
まさかコンスタンの言っていた魔界から来た化け物か……? 
風見が思った瞬間、視界の中の緑色の軍服を着た茶髪の男と目が合った。 
男はトンファーを持っている。 
男は一瞬で視界から消える。 
何処に行ったのか探す事10秒。 
その刹那、天を貫く轟音が轟く。 
風見がバランスを崩す。 
水前寺が悲鳴をあげる。 
最上階全体が斜めになる。 
「爆破された! 言わんこっちゃない!」 
コンスタンが喚いている。 
なるほどそういう事か……風見は思った。 
その次の瞬間、コンスタンの肩の上に担ぎ上げられる。 
水前寺を左肩に、風見を右肩に担いだコンスタンは叫ぶ。 
「逃げるぞ! お前等は絶対殺させねえ!」 
コンスタンは硬質ガラスを蹴破る。 
激しい轟音が響く中コンスタンは二人を担いで飛び立った。 
炎と煙とガラスやコンクリートの破片の中で水前寺と風見は咽ぶ。 
コンスタンは上へ上へと上がろうとする。 
「ぷはっ!」 
ようやく煙の中から脱出した。 
上に青い空。 
その刹那、 
コンスタンの頭がペキョッと音を立てて吹っ飛んだ。 
血飛沫が風見と水前寺の顔を濡らす。 
「コンスタン! ああああああ!」 
水前寺が悲鳴をあげる。 
全体がバランスを崩しかけたその時、 
違う腕が風見と水前寺を両脇に抱えた。 
水前寺はショックで気を失っている。 
風見は顔を上げて自分を抱えている者を見た。 
さっき目が合った緑の軍服の男だ。 
そのまま自由落下にまかせて3人は下に向かう。 
燃えるビルから遠ざかり前の砂漠の方に向かう。 
脳が上に向かうような感覚を覚え風見は眩暈がした。 
男は膝を使って上手く砂漠に軟着陸した。 
やはり人間ではないと風見は思う。 
風見が反応を返せずにいると前からてくてくと黒服紫髪のさっきの少女がやってきた。 
「今日は。風見さん。私ビョウドウイン・ルナって言います。その人はホシマチ・ライマ」 
少女は言った。 
「アンタ、元プレイヤー2の雲林院のチューバの師匠だろ?俺達なんでアンタ見つけて 
 会いに来たかって言うと……アンタと友達になりたかったからなんだ」 
ライマが言った。 
「此処だとすぐ天国の門番が来ちゃうわ。第七管区の深部に案内さしあげます。 
 其処でお話しましょ。私達あなたに興味が有るの」 
ルナが言った。 
また雲林院がらみのアレか……風見は思った。 
しかし取材は面白い展開を見せていると思った。 
「分かったよ。手荒な事はしないでくれよ。特にそっちに」 
風見は反対側の水前寺を顎でしゃくって示した。 
「分かってるよ。さぁ行こう」 
ルナが拍子をとった。