第二話 「由良との再会」





フォレストスケープから北西に3キロの岩石地帯。 
霧が立ち込めている。 
イリスは岩山の一角に腰を下ろして街の方をじっと見つめている。 
時々胸のロザリオを弄くる。 
両膝に額を押し当てて頭を振る。 
一陣の風が吹く。 
「やほっ! いーちゃん! 仕事休み!?」 
ルーランが前方に突然現れた。 
イリスは多少狼狽するが直ぐにまた無表情を顔に貼り付ける。 
「休みだよ……当たり前だろ」 
ルーランはパッと笑顔になる。 
「そーだよね! いーちゃん仕事熱心だもん! 今何考えてた!?」 
イリスはまた少し表情を変える。 
痛い所を突かれたようだ。 
「……」 
イリスはだんまりを決め込んだ。 
「当ててあげようか! 風見さんの事! じゃなかったらサイレンちゃんの事!」 
イリスがルーランを恐ろしい形相で睨む。 
しかしルーランは少しもたじろがない。 
何知らぬ顔で悪魔のようにケタケタ笑っている。 
「あはは! 当たりだ! 2つ言うのは狡かったかな? あはははは!」 
イリスは顔をまた無表情にして溜息をついた。 
「死んだ人の事考えてても儲からないよ。いーちゃん」 
ルーランが言う。 
イリスは膝に額を押し当てて反応を返さない。 
ルーランは酷くつまらなさそうな顔をする。 
「ちぇー。 喧嘩買ってくれないんだ。 いーちゃん強いから暇つぶしになると思ったのにな。」 
ルーランはイリスに背を向けてピタリと止まる。 
「少しは面白くしてみせろよ。この腐れ天国」 
ルーランは強い口調でそう言った。 
毅然とした態度が感じられ、イリスの深い青色の瞳がちらと動く。 
「私は私の事しか考えてないよ」 
イリスが言った。 
「けっ」 
ルーランは吐き捨てて一瞬で何処かに飛んでいってしまった。 
イリスはまた膝に自分の額を擦り付ける。 
「何かしなきゃ……何か……」 
イリスは呟いた。 

フォレストスケープの繁華街。 
その片隅にタイムスケープというジャズ喫茶がある。 
風見幹也はその店を拠点にして作家活動を進める事に決めた。 
雰囲気が気に入ったのだ。 
其処に毎日通っているウェイターのオルガは風見が書き始めた小説のファンになってしまった。 
「続きが楽しみですわ。風見さん。」 
その日も風見のテーブルに両肘をついて頭を支えながらオルガは言った。 
「ちょいとスランプなんだよね。今日は。」 
風見は実感を話した。 
「考えてみたら天国に来てから一つもアクションを起こしていない。 
 このままじゃ感性が腐っちまうな。うん。」 
「まぁっ! 感性に触れる経験をなさりたいのですわね! それなら良い所が有りますわ! 
 第七管区! アソコなら命の遣り取りが直に見られますわ!」 
オルガは言った。 
「第七…? 其処はたしか戦争してる所じゃ…」 
「うぃーす」 
声が風見の言葉を遮った。 
「あ……」 
風見は呆然とする。店に入ってきた者は…… 
「先輩ーーー!」 
鬼太郎カットの紫髪を肩まで伸ばしてゴスロリの服を着ている。 
水前寺由良だった。 
「あら……由良ちゃんとお友達ですの?風見さん」 
風見は酷く狼狽している。 
「ああ……中学の時の後輩でな……そういやお前……この前死んだんだったな。 
 葬式にも出た。」 
「忘れらしてたんですか!? 辛いですよ私! でも会えて良かった……」 
由良がポロポロと泣き出す。 
「泣くな泣くな。良かったよ。本当会えて良かったよ」 
風見は由良の方に歩いていって肩に手を置く。 
オルガはそんな二人を顎に手をやってじっと見ている。 
「二人で第七管区に見学に行かれたらどうですの?風見さん。由良ちゃん」 
オルガが空気読まずにそう言った。 
呆然とする二人。 
「戦争だってさ。水前寺」 
風見は言った。 
「あは♪戦争ですか。先輩」 
由良のノリは良さそうだ。 
そんなわけでその次の日第七管区に取材に行く事になった。 
その時は全くの軽い気持ちだったのだ。