フォルテシモ第八十六話「緑の帰還」 



第三次レッドラム大戦から14年後。 
月基地。 
月生物学研究所。 
緑髪の白衣の男が机に突っ伏して寝ている。 
いびきが聞こえる。 
ウィンダムとアシモは無視して電子機器に向かっている。 

緑髪の天パーの男ネプトは夢を見ていた。 
とても綺麗な所、夏草の舞う草原に立っている。 
ずっと遠くに花束を持った女性が立っている。 
顔はよく見えない。 
髪が光を透過して紫色の光を作っていた。 
その女が手を振るのが見えた。 
「ネプトー!」 
そんな声が聞こえた。 
俺を呼んでいるのは誰? 
俺が俺の名前を呼ばせているのは誰? 
俺は誰を求めているんだ? 
それはきっと……多分…… 

パタパタと足音が聞こえてきた。 
扉が開く。 
銀髪の黄色い目の白衣の女が入ってくる。 
女の名はパンセという。 
早くに産まれた大脳特化型レッドラムで17歳だ。 
ネプトとウィンダムとアシモの上司にあたる。 
パンセは苦虫を噛み潰したような顔をして 
ツカツカとネプトの所に歩いていく。 
丸めた研究雑誌でスパーンとネプトの頭を叩く。 
「いって!」 
ネプトが飛び起きる。 
「賃金泥棒! さっさと働け!」 
ネプトは頭をかく。 
ウィンダムがくっくと笑った。 
その後すぐパンセはネプトに顔を近づける。 
「まぁ、それはそれとして仕事終わったら食事でもしない?」 
ウィンダムとアシモに聞こえない小声でそう言った。 
ネプトはまだ夢見心地だ。 
「それはそうと……」 
ネプトは話しはじめる。 
「俺、寝ている間に閃いた事があるんです」 
パンセは多少苛立った。 
「何?」 
「約束を忘れてたんだ。俺は地球に行く。だから研究所辞めるよ」 
パンセは呆然とした。 
ネプトはその間にサラサラと紙に字を書いた。 
「辞表!」 





バンッと辞表を机に叩きつけた。 
「気が向いたらまた帰ってきます。まぁ此処にはもう就職できないでしょうが」 
「駄目だ!」 
パンセが言う。 
「いや駄目なのは俺の方です。力ずくでも出て行きます。俺はレッドラムですよ?」 
アシモがあたふたしている。 
ウィンダムはニヤニヤしている。 
「好きにするが良いさ。それも漢道だ」 
「行ってくるよ! アシモさん! ウィンダムさん! ボス! 
 本当に欲しい物を見つけにいく!」 
ネプトは走って外に出た。 
パンセは呆然と突っ立っている。 
「ボス。生きてますか?」 
ウィンダムが尋ねる。 
止める事ができなかった。 
負けた…… 
パンセの人生で最初の決定的な敗北は 
こんな風に突如として訪れた。 

さらさら…… 
さらさら…… 
地球。 
ロシアの山奥。 
清水が湧き出ている。 
ルナは小川のほとりに屈みこんで水をすくって顔を洗った。 
水滴がキラキラ舞ってルナを輝かせた。 
ホシマチ・エマはそれをうっとりして眺めている。 
背中にヒマツリ・ラックルを背負っている。 
ラックルは寝ている。 
ルナは14年前とほぼ同じ黒装束で髪をチョンマゲにしている。エマはボロボロの 
ゲリラ兵のようないでたちでラックルは赤が基調のアイヌの民族衣装を着ていて 
背中に黒い翼が生えている。 
ルナは23歳。エマは15歳。ラックルは4歳だ。 
3人で2年間旅してきた。 
ルナはその前の10年間はずっと一人旅だった。 
「西に行くかな……次は……」 
ルナが呟いた。 
「ガッテンです! ルナさん!」 
エマが言う。 
「ふあぁ……」 
ラックルがようやく起きだした。 

空間移動でネプトは一瞬にして地球にやってきた。 
此処はインドだ。 
街は人で溢れかえっている。 
「さーて。地道に情報収集するか。ルナを探すんだ」 
ネプトは腕をブンブン振り回しながら言った。 
人が一杯だ。 
こうゆうの久しぶりなんだよな。 
なんか楽しくなってきたぞ。 
ネプトはしばらく街を歩く。 





町の中心部にたどり着いた時に急に物凄い威圧感を感じた。 
これは……この感じは…… 
「よう。俺のテリトリーに入ったのはお前か」 
後ろから声がする。 
ネプトは驚愕する。 
髭を生やしたインド風の衣装を身に纏ったヤマギワだった。 
ルナによく似た顔のサリーを纏った茶髪の美人を連れている。 
「父さん。誰? この人」 
「古い知り合いだ」 
ヤマギワは言った。 
父さんと呼ばれているようだ。 
ヤマギワの娘……? 
「何しにきやがった?」 
「ルナを探しに」 
本音を言った。 
ふんっとヤマギワは鼻で笑う。 
「アイツならロシアにいるぜ。魔界道具で俺には分かる。 
 俺もこれから会いに行こうかって所だ。お前も一緒に行くか? 
 俺がいないとすれ違うかもだぜ」 
ネプトは多少ためらう。 
「ああ、頼む。俺、どうしても今ルナに会わなきゃなんだ」 
ヤマギワはニッと笑った。 
「この世も捨てたもんじゃないぜ」 
ヤマギワは言って、振り向き、ネプトについてこいと手で促した。 

スウェーデン。 
郊外の占い屋。 
カウベルが鳴って客が二人入ってくる。 
店主のユアイは煙草をキセルで燻らせている。 
入ってきたのはアリスとカンジ。 
アリスは黒髪が腰まで伸びている。 
虹色のグラデーションのかかった服を着ている。 
14年前とは印象が全く違う。 
アジア系の非常な美人となっている。 
カンジはあまり14年前と風貌が変わっていない。 
ユアイもそうだが。 
「久しぶりだね。カンジ。あーたん」 
「寂しくしてるんじゃねーの?ライマ似の息子が旅に出ちゃって」 
カンジがケケッと笑う。 
「そっちこそ。あんた等の幼児連れ去られて戦々恐々じゃないの?」 
「それくらいでヘコタレルような子はいらねーよ」 
カンジはカラカラ笑った。 
アリスもくすっと笑った。 
ああ、こいつマジで可愛くなった。 
ユアイは女ながらにそう思った。 
「最近、あれよ。物騒よ。魔界の門番が何の為にか知らないけど 
 方々でレッドラム狩ってるらしいよ。私達も子供達も気をつけなきゃ」 
「あいつ等はアレで俺等と強さに遜色ねえよ。心配すんならテメエの 
 心配しろよな」 
カンジがツンと上を向いて言った。 
「オセロは今も少しずつ産まれてくるスカイクロラを集めて 
 元の村で村長やってるみたい。あの娘ならなんとかかんとか 
 子供達を守れると思う。今の所、スカイクロラは抹殺の対象に 
 なってないみたいだし」 
「本当ウゼエよな。魔界の門番は。自分達を何だと思ってんだよ」 
カンジが頭の後ろで腕を組む。 




「あんた等の仲は大丈夫なの?結婚してないんでしょ?」 
カンジとアリスはキョトンとする。 
「私達、一緒になんかするって事ほとんどないから。 
 いっつも別行動。解りあえてもいないし。これからも関係は変わらないよ」 
「はーん」 
ユアイは煙を吐き出す。 
「ま、なるようになるさ」 

ロシアの砂漠地帯。 
突如としてルナ、エマ、ラックルの三人は50メートルはあろうかというという 
巨人十数体に取り囲まれた。 
「はーん。何コレ」 
巨人達は灰色の体が筋骨隆々で鎖や魔界の門番の服を簡素にした感じの物を纏っている。 
一番前の巨人の口から魔界の門番が出てくる。 
涎がダラダラと体に纏わりついている。 
そいつは巨人の頭の上に立つ。 
金髪を逆立てている健康的な美形だ。眼が爛々と輝いている。 
「よーっす! 俺は魔界の門番フーコーだ! お前は前大戦の生き残りの 
 ビョウドウイン・ルナだな!? はっきり言ってお前は魔界の調和を 
 乱す危険因子だ! 他の奴等も良からぬ事を考えていそうな奴は 
 かたっぱしから殺してる! 新しく魔界に入ってくるレッドラムにも 
 洗脳教育を徹底するようになった! あとはお前等を駆除するだけだ! 
 大人しく無に帰せ!」 
そう叫んだあとフーコーは巨人の口の中にせかせかと入った。 
どうやら中で操縦しているらしい。 
「巨神兵『狂気の歴史』! 去ねや! 劣悪種族!」 
フーコーの声が響く。 
「ミナセと私が劣悪種族……?」 
ルナはピクンと反応する。 
紫の光が瞳に集まる。 
エマは寒気を覚えた。 
「まず二人でやってみて。頃合を見計らって加勢する」 
ルナが言った。 
「ガッテン!」 
ラックルを背負ったままエマは突進していった。