フォルテシモ第八十三話「強い爺さん」 



「ゼッ……ゼッ……」 
リュイシュンは刀を地面に突き立てた。 
「さすがに二人相手は分が悪かったみたいだな」 
ジュぺリが言う。 
「こんな奴にばっかかまってられないよ。知らない間に勢力が拮抗してきてる」 
アマデウスが辺りをキョロキョロ見ながら言った。 
その時、ドームの方から拡声器で声が轟いてきた。 
「えー! クローン以外のオリジナルの皆さん! 重大発表です! 
 貴方達の首の爆弾は今、解除しました。もう戦う理由は無いと思うので 
 謝って許してもらいましょう! 俺とアシモはこれからアマントその他を 
 拿捕しにかかろうと思います! 情がある人は手伝ってほしいです! 
 以上でーす!」 
ウィンダムの声が響く。 
「なにぃ……」 
リュイシュンがニヤッと笑う。 
「神様は粋で狡猾アル。テレーゼさんは抜け目ないアルよ」 
ジュぺリがリュイシュンを振り返る。 
「お前には興味がねえ! 副村長に会いに行くぞ! アマデウス!」 
「なんとなく分かったよ。そうだな。行こう」 
アマデウスが同意する。 
二人は飛び去っていった。 
リュイシュンはペタンと膝をつく。 
「悪運強いアルな俺……」 
そのまま頭をガクンと垂れた。 

バッハはウィンダムの声を聞いて眉ひとつ動かさなかった。 
ルナは荒い息をしている。 
「爺さん。もうやめにする?」 
バッハはフッと笑う。 
「わしはあの小僧に感謝している。死に場所を与えてくれた事をな。 
 ずっとあの閉塞された村で弾圧に怯えながら生きてきた。 
 夢も希望もない。ただの平坦な息苦しい大地。 
 クローンどもは戦闘本能だけの存在だから何も聞きはしない。 
 オリジナルの連中も簡単に言を聞き入れるとは思わない。 
 爆弾が外れたとて大した意味は無いのだ。神と小僧に感謝して、 
 わしはお前を殺そう。後の事は知らん」 
ルナはフッと笑った。 
「そう言うと思ってたよ」 
そう言うとルナはステップを踏み始めた。 
トントントトントン。 
それは、フリーダの踊りだ。 





ところどころにルナらしさを加味してある。 
もうすっかり夜で月明かりに照らされている。 
白い糸がフワフワ舞っている。 
西洋の妖精を思わせる情景だった。 
隙が無い…… 
バッハは手をこまねいた。 
「遊ぼう。最後まで。もう少しだよ。でも結果は見ないよ。今を生きる。 
 ミナセは私の胸で生きてる。ずっとずっとずっと……」 
ルナは歌うように言った。 
袖から何かがバラバラ飛び出す。 
それは大気中で増殖する…… 
これは…… 
威圧感がしだいに大きくなる。 
空だ。 
空で何かが舞っている。 
ルナがニコッと微笑む。 
「私も初めてお母さんに会えたんだよ。ネプト」 

ザンッ! 

超速の何かがバッハの右耳を吹っ飛ばした。 
ルナは跳躍する。 
「舞姫……カオスダイバー!」 
フリーダの舞姫……! 
無数の斬撃がバッハを襲う。 
喝! 

ガキキキキキキキキキキキキキキキ! 

マタイの連続攻撃で刃を弾きまくる。 
凄い…… 
全部撃ち落してる…… 
ただの剣じゃ私にはできなった…… 
なんという奴だ…… 
フリーダしか使いこなせなかった繊細なテレポンを…… 
おそらくほとんど練習せずに…… 
天才というレベルではない…… 
超天才というレベルでもない…… 
超々天才か…… 
「カオスソルジャー!」 
刃の塊が襲う。 
バッハは飛んで避けた。 
ルナは着地する。 
それと同時にバッハは懐に飛び込んだ。 
「!?」 
「はぁっ!」 
掌底をルナの腹に向けて完全にいれる。 
ルナは超圧力を感じ真上に吹っ飛ばされた。 
凄い……この人フリーダより強いかもしれない…… 
痛みに顔を歪めながらルナは思った。 
頂点に達するよりも前にバッハはルナの上に跳躍していた。 
満月をバックにバッハはハンマーパンチする。 



背中を思いっきり強打されルナの背骨が悲鳴をあげた。 
「うぐあっ!」 
次の瞬間、大地に叩きつけられた。 
ルナは吐血しバウンドする。 
強い……この爺さん……! 
死ぬ……! 
「はああああああ!」 
バッハが剣を突き刺しにかかる。 
このままじゃ串刺しだ……! 
ルナの眼が紫に輝く。 
「紫極……球!」 
反動をつけて無茶苦茶回転する。 
紫の光は剣で貫き通せない。 
ルナはそのまま転がっていって距離をとった。 
体勢を立て直す。 
今のコンボはやばかった。 
爺さんホントに元気だな……。 
バッハは首をコキコキ言わせた。 
「面白いなぁ……嬢ちゃんは……」 
目元に皺を作ってバッハは笑った。 

「人間失格……」 
ヤマギワが呟くと空間が歪んだ。 
空間に働きかける能力…… 
テレーゼの技術力は本当に異能の力のレベルに…… 
ヤマギワの眼がチカチカ茶色に点滅し髪が逆立つ。 
不気味な笑みを顔に浮かべた。 
「開眼だ……」 

ドキュン! ドキュン! ドキュン! 

空中に無数の邪悪な瞼が現れる。 
それは少しずつ開いてくる。 
「さぁ、これはどんな能力でしょう!?」 
ヤマギワの笑みが大きくなる。 
刀をシャッフルして二刀流になった。 
そのまま飛び掛る。 
パスカルも刀を抜く。 

ガキイッ! 

組み合わさったパスカルの刀はそのままボロボロ錆びて崩れた。 
瞬時に右腕を刀に変える。 
再度、刀を交差させる。 
今度は錆びない。 
「おいおい反則だぞー! まぁ良いか!」 

ガキキキキキキキキ! 

互角の剣舞が続く。 
「ビンゴ!」 
空中の瞳とパスカルの眼が合う。 
右足の感覚が無くなった。 
転倒しかけるパスカル。 



「バッドエンド!」 
ヤマギワの刀が頭上に振りかざされる。 
微粒子に変化して急激に移動してかわす。 
「おいおい! 足以外で動けるのかよ! 反則も度が超えるぜ!」 
どうやら瞳と瞳が合うと神経が撹乱されるらしい。 
ドグラ・マグラの亜種のような刀だ。 
ヤマギワはまた刀をシャッフルする。 
さらにポケットから小刀を取り出す。 
小刀を空中に投げるとそれは無数に増えた。 
「グッドバイ!」 
お手玉のように小刀を弄ぶ。 
「しっ!」 
連続で投げつけた。 
避けまくるパスカル。 
瞳の延長線上に導かれる。 
「やろう……」 
パスカルの腹に丸い穴が開く。 
「プロンヴァンシアル!」 

ドドドドドドドドドドウ! 

空中の目玉が全て爆破された。 
ヤマギワは多少狼狽する。 
パスカルの腕の刀が伸びる。 
「ちっ!」 
ヤマギワの脇腹が切り裂かれた。 
プロンヴァンシアルはエネルギーの消費がでかい…… 
早めに勝負を決めないといけないのは変わらない…… 
「なかなか良いぜお前! だが俺に不可能は無いのだァア!」 
ヤマギワの眼鏡が割れて吹っ飛ぶ。 
瞳の輝きが増す。 
ヤマギワは三本の刀をお手玉のように飛ばす。 
「まどろみ消去!」 
三本の刀は光の刃となりパスカルに向かっていった。 
「チィッ!」 

バシュ! バシュ! バシュアッ! 

右頬、左脇腹、右足に裂傷ができる。 
血が噴出す。 

ドクン! 

パスカルの心臓が大きく脈打った。