フォルテシモ第七十六話「ずっと見てたよ」 



水のワーム状の流れが上空を疾走する。 
「でっけえ基地だな。いない間にむっちゃ増設されてるっ」 
ミナセは水の流れの上で呟く。 
スカイクロラが多数攻めてきたが水の道化師で 
羽虫を作り自分の周りに飛ばせて撃墜させた。 
彼らは脆い。いつの間に自分はこんなに強くなったんだろう。 
ミズエさんやナナミの元を離れてルナと一緒にあてもなく旅してきた。 
自分が生きる理由もこの年になって分からないまま…… 
本当、自分みたいな器の小さい男が何をやってるんだろう。 
世の中の役に立たず、 
そもそも何をすれば世の中の役に立つのか分からず、 
女を好いて、 
子供を守り、 
可愛がり、 
自分の能力に限界を感じ、 
どこか昔別れた女に憧れを感じ、 
そもそもマトモに別れてなどいないが、 
俺は、 
これから何処か向かう所があるとしたら何処に行くんだ? 
ミナセは思考を振り切る。 
久しぶりの戦場があまりにも退屈なものだったから油断したのだ。 
ネプトも二の足を踏んでるみたいだし、 
俺がテレーゼを助けるか。 
どんな顔して会えば良いんだろう。 
ネプトは適当に流したけど…… 
というか正式に向き合うのを先延ばしにしたというか…… 
ああ、戦う相手以外に怖い相手が一杯だ。 
自分に近しい存在って、基本、怖いよね。 
親父とオカンが生きてても怖かったんだろうなぁ。 
人間って何処で道踏み間違ってるのか分からないな。 
本当言うと俺、3歳で父母がいなくなった時、絶対俺終わったとか思ったんだけど。 
それ言ったら最初からナナミいなかったルナの方が終わってるよな。 
ナナミは生かしてやりたかった。 
本当言えばイザヤもミズエさんも全員生かしてやりたかったんだ。 
なんで皆皆死んじまったんだよ。 
戦闘因果か。 
俺達に課せられた罰だな。 
ルナもネプトもこれから先ずっとその罰を背負って生きていくんだ。 
せめて楽しく生きてくれよ…… 
せめて俺以上に…… 
「この辺かな……」 
ミナセは白いドームの上で静止する。 
水で大きな弓矢を作る。 
「逝くぞ……無能の人……」 
ドームの天井に狙いを定める。 
気力を充実させる。 





矢が輝きを増す。 
てっ! 

バシャアッ! 

水の矢がドームにたどり着く一瞬前、水の矢は霧散した。 
「なんだ? またバリアーか?」 
「感覚的に分かってるんだね。自分達の罰、業。さっすが」 
耳の横で女の声がする。 
「一度会ってみたかったんだ。こんにちは」 
別の女の声がもう一つの耳の横で聞こえる。 
「語ろうぜ! ミナセ! 今宵は心行くまで!」 
男の声が上から聞こえる。 
「お前は少しは面白い男だからな。良いデータがとれる事を期待している」 
下から理知的な男の声が聞こえる。 
「誰だよ!」 
ミナセがつっこむ。 
瞬間、前方のドームの上の景色が歪む。 
次元が歪んでいる……? 
「きゃらきゃらきゃら! 降りてきなよ! ミナセ!」 
一番最初に聞いた女の声が聞こえる。 

ブン! ブン! ブン! ブン! 

小さな細かい粒子が無数に現れたと思ったら 
それは4つの人型になり、整列し、本物の人間になった。 
スカイクロラと同じような格好をしている。 
「ずっと見てたよ。ミナセ」 
2人目の女が優しく言った。 
少女の姿をしているが自分より年上な気が直感的にした。 
「そうだ。ミナセ。俺達は観察者で超越者。ずっと見ていたぞ!」 
白髪の端正な顔立ちの男が言った。 
「ずっと見てたんだよ……」 
もう一人の女が言った。 
「観察のし甲斐はあった」 
眼鏡の男が言った。 
「なんだよアンタ達」 
ミナセがしごく当然の質問をする。 
「俺か? 俺は魔界の門番カント! よろしくな!」 
白髪の男が言う。 
「私はフェノメナ! ずっと見てたよ。ミナセ」 
栗色の髪の女が言った。 
「私はマテリア。ずっと見てました。ミナセ」 
黒髪の女が言った。 
「俺はパスカル。お前は観察対象として興味深かった」 
黒髪眼鏡の男が言った。 
「何なんだよお前ら」 
ミナセが質問する。 





「ああ。俺達は魔界の門番。お前達を作り、管理する存在だ」 
カントが言った。 
「存在くらいはうすうす感じてたんじゃない?型にとらわれない貴方だから……」 
フェノメナが言う。 
あん…… 
魔界の門番……? 
なるほど。レッドラムが魔界に入る前に改造されたただの人間だという事は知っている。 
その為には改造する人間が必要なわけで…… 
その改造してるのがこいつらか。 
管理もしてるってわけか。具体的に何してるのか知らないが。 
「なるほど」 
ミナセは頷く。 
4人は一斉にケラケラ笑い出した。 
心外な…… 
「分かったのかよ! スゲエな! 仲間にしてやろうか!」 
カントが言った。 
「ま、全ては……実地でヤってみてから決めようかね」 
「神になるのか! ビョウドウイン・ミナセ!」 
「君なら『器じゃない』って言うだろうね」 
また4人は一斉にケラケラ笑いだした。 
子供みたいだな…… 
でもなんか魅力的な神様だ…… 
悪魔みたいに狡猾で…… 
子供のように無邪気だ……。 
まだヤりあってもいないのにミナセはそう感じた。 
神になるか!ビョウドウイン・ミナセ! 
「俺に何の用はわけ?」 
ミナセは核心の質問をする。 
カントが笑うのはやめる。 
「レッドラムにスカイクロラに勝ってもらったら俺達の仕事上都合が悪いんだよ。 
 だから主力の君をここで足止めしようと思った。 
 必要なら……」 
「力づくで逝くよ……!」 
「はは〜ん」 
「できれば話し合いで決着した所だがな」 

ゾオクッ! 

4人の威圧感が急激に増す。 
なんだ。 
パスカルの言は完全な嘘だ。 
こいつらもバトルマニア。 
神となるか!ビョウドウイン・ミナセ! 
器じゃないですよ……ホント。 
4人はニタニタ笑っている。 





「ここまで来いよ! ずっと待ってたんだ! 君が気付くのを!」 
カントが叫んだ。 

ゴゴゴゴゴゴゴゴ! 

ミナセと4人の間の次元が歪み巨大な腐敗したような腕が出てくる。 
「俺も構造はレッドラムとほぼ同じだ! 頭を潰したら死ぬぜ!?」 
「ずっと見てたんだよ」 
「会えて良かった」 
「君、正念場だよ」 
パスカルが眼鏡をくいっと持ち上げる。 
えらいこっちゃ…… 
ミナセは邪宗門をかまえる。 
龍のイメージ。 
器じゃないけど龍のイメージ。 
水の龍がミナセのまわりにまとわりつく。 
試してみるか…… 
自分の存在…… 
ミナセの目がキッと青く輝いた。