フォルテシモ第七十四話「後ろの誰か」 



連続する爆音が近づいてくる。 
オセロは固唾を飲んだ。 
熱風が顔に焼きつく。 
いつまでこんな危ない橋渡り続けなきゃならないんだ。 
ガロアだって本意じゃないよ。 
いくら爆発野朗と戦いたいって言ってても…… 

ドオオオオン! 

岩壁とスカイクロラ数体が吹っ飛んだ。 
噴煙が晴れる。 
軍服の男、ホシマチ・ライマが立っている。 
「お前か」 
ライマはガロアを見て言った。 
ガロアが緊張しているのが伝わってくる。 
威圧感が半端ない。 
長く野で生きてきた人だ。 
自分なんか……ガロアの力になれるのだろうか? 
ライマはニコッと笑った。 
あ…… 
何これ…… 
凄い笑顔…… 
この人は…… 
「悪くないと思うぜ? お前。さぁ勝負だ」 
ライマは言った。 
なんで……? 
なんで精神を保っていられるの……? 
私はこの人が…… 
嫌いではない…… 
「フンッ!」 
ガロアは鼻で笑って首をコキコキいわせた。 
勝算はどれくらいなんだろうガロア…… 
オセロはマインドマスターを動かし始めた。 
マインドマスターは確定した人物の活動を制限するテレポン。 
攻撃を実際に受けるのはガロアだ。 
ガロアは理論派だけどテレポンはバリバリの武闘派。 
テレーゼはライマのテレポン爆音夢花火と対になるテレポンだと言っていた。 
プレゼンス。 
爆発を喰い爆発を吐き出す腕につけて戦うテレポンだ。 
自分の力を加えれば五分以上に戦える事が道理。 
でも、そうと言い切れないのが不思議。 
世界には道理が通じない事が溢れてる。 
目の前の悪魔みたいな明るいレッドラムなんかそうだ。 
そうに違いない…… 
「サポート頼むぜ、オセロ」 
ガロアが言った。 



オセロは現実に引き戻される。 
「う……うん!」 
ライマが酷く顔を歪めて笑った。 

「うわああああああああああ!」 
ネプトが電流を流され苦しんでいる。 
「粘るなガキ! そろそろ灰になれ!」 
ジュペリが叫ぶ。 
横でミナセに煙にまかれたアマデウスが戦っている。 
「遅いよジュペリ! 何そんなガキに手間取ってんだ! モアは死んじまうし……」 
ジュペリが言葉にピクンと反応する。 
電量が増す。 
「か……かかかか……」 
ネプトの両腕がダランと下がる。 
ようやく終わりか…… 
ジュペリは一瞬力を抜く。 
いつの間にかジュペリの左腕に白い亀の甲羅のような構造ができている。 

ピーピロリロリロ!  
危険を感知しました! 経験値が一定以上溜まっているので段階ミシスに移行します! 

機械音声のそんな間抜けな声が聞こえた。 
ネプトの全身が突然緑色に光る。 
「なっ!」 
ジュペリが狼狽した瞬間、マシンアームが破壊された。 
ネプトの背中から無数の触手が伸びる。 
「あれは……ベーゼンドルファー?」 
アマデウスが声を漏らす。 
ネプトは着地する。 
「ひゅうううう……ひゅうううう……」 
眼が緑に常時輝いている。 
意識が残っているようには見えない。 
「やばいぞ……やばそうだぞ……」 
アマデウスが言う。 
ジュペリのマシンアームはちょうど自己修復が終わった。 
「でもそんなの関係ねえ!」 
ジュペリはマシンアームを飛ばす。 

ザシュッ! 

緑の残像を残してネプトは横移動する。 
テレポンが動きを補助しているらしい。 
なんだこのテレポン…… 
なんだか知らないが俺達のとは明らかにレベルが違う…… 
「ギイイイイイアアス!」 
ネプトは奇声をあげて右腕を前に出す。 



一瞬で巨大な竜宮の使いの顔に手が変化する。 
その口から禍々しい形の刀が突き出る。 

目標補足しました。使用者の意識が戻るまでハルマゲドン・モードを維持します。 

また間抜けな機械音声が響く。 
「いよいよやばいぞオイ、ジュペリ。逃げるぞ」 
「なんでだよ……相変わらず感覚で生きてるなお前……」 
「俺の勘はよく当たるんだよ!」 
瞬間、ネプトの全身から小さな光の裸鰯が乱射された。 
「ステム! バースト!」 
同時に竜宮の使いから緑の熱線が発射される。 
「うおおおおお!」 
ジュペリとアマデウスは必死で避ける。 
何発かかすって肉が焦げる。 
「だから逃げろって!」 
「ええい!」 
二人が問答した時にはすぐ後ろにネプトが迫っていた。 
「ギイイイイイアアス!」 
二人の目が見開かれた。 

ヒュンヒュンという音が聞こえてきた。 
フリーダの舞姫が耳元を掠めている。 
でも当たらない。 
それが自分でも分かる。 
どうやら燕を使った修行が効いているらしい。 
戦えないってわけでもなさそうだ。 
「戦えないってわけでもなさそうだって思ってる」 
眼前のフリーダが言った。 
ルナは多少動揺する。 
一字一句間違ってない。 
こんなの有り? 
確かに割と喋ったけど…… 
フリーダは手を口に持っていって笑う。 
「う〜ん。どうしよっか。私から逝こうか? それともルナちゃんから?」 
言ってろ!糞ババア! 
「私から逝くよ……」 
ルナが呟きフリーダがクスッと笑う。 

ブンッ! 

ルナが一瞬消える。 
次の瞬間、フリーダの周りを十数人のルナが取り囲んだ。 
すごいな…… 
また速くなってる…… 
この歳で本当に世界最高レベルに近づいてる…… 
ぐるぐる回りながら距離をつめる。 



どうしよっかな…… 
ためしに一人のルナを斬ってみる。 
刃はルナをすり抜けた。 
ルナがニヤッと笑う。 
可愛くないな……本当…… 
少しやってみようか…… 
「カオスレギオン……」 
ルナは威圧感の上昇を感じる。 
これは…… 
どう避ける? 
ルナは一人になって飛び立つ。 
「紫極球!」 

ヴン! 

ビームサーベルとなった刀で全方位を一瞬で斬りまくる。 
紫の巨大な球体が姿を現した。 
刃はことごとく弾かれる。 
「ほっほーう」 
フリーダは感心した。 
これなら大勢相手にしても戦えるだろう。 
フリーダの舞姫との相性も良い。 
子供はいつだって頭を捻っているんだ。 
こんなに早くお披露目するとは…… 
相手がフリーダじゃしょうがないけど…… 
「本当に面白いね。ルナちゃん。母君の顔が見てみたかったわ」 
フリーダが言った。 
「フンッ!」 
ルナは鼻で笑う。 
その高潔な振る舞い。 
フリーダはルナの後ろに紫髪をロングにした黒服の女性を見た。 
ミナセと同じ鬼太郎カット。 
憂いを含めた佇まい。 
経験に裏打ちされた自信。 
ため息が出るような美貌。 
ミナシタ・ナナミ。 
「やっと会えましたわね!」 
フリーダは手を打ち合わせた。 
「あん?」 
ルナは怪訝な顔をした。