フォルテシモ第七十三話「不惑の白VS最強の紫」 


「ははは……」 
ジュペリが急に笑い出した。 
眼前のネプトも動きを止める。 
「ははは……はははは……お……おぉ……おぉあ……はぁぁぁぁ」 
不気味に嗚咽する。 
ジュペリの目が黄色に輝く。 
「う! お! おおおおおああああああああ!」 

ゴッ! 

ジュペリの腕から伸びたマシンアームが急に巨大化する。 
こいつのテレポンも成長型……! 
使用者の精神状態、内蔵エネルギーに応じて姿を変える……! 
ネプトの目が呼応して緑に輝く。 

シュゴア! 

気付いた時にはマシンアームに捕まっていた。 
ジュペリがニヤリと笑う。 
こんな血塗られた戦場で、 
俺に何を望めって言うんだ? 
俺だってモアの事は好きだったんだ。 
ずっとずっと前から…… 
でも、応えられないよ。 
俺なんか……俺なんか…… 
こんなに弱小で卑小で…… 
俺に一体何ができるってんだ…… 
「うおおおおおおらぁ!」 
ジュペリが力を込めて電流が一気に流れる。 
「ぐあああああああああ!」 
ネプトがもがき苦しむ。 
良いよ。モア。 
答は出なくたって、俺達は生きねばならん。 
お前が死んだってそれは変わらない。 
変わらないよ。 
裏切り者は、俺の方だ。 
ジュペリは念じた。 

「水の道化師!」 
数百匹の水の蛇がアマデウスに向けて飛び立つ。 
「レディオヘッド!」 
アマデウスは全ての攻撃の一手先を見透かし避ける。 
相当の運動が必要だったが瞬発力はアマデウスの得意分野だった。 
「やろう。すばしっこいな。こんな所で時間ロスしてられんのに」 
ミナセは100メートルの水の刀を作る。 
アマデウスは畏怖する。 
あれが噂の…… 
死にぞこないの青……! 
「逝くぞ!」 
ミナセが刀をかまえる。 



アマデウスの眼が銀色に輝く。 
「らあっ!」 
刀が振られる。 
「くっ!」 

バシャッ! 

水の刀はレディオヘッドと打ち合わされる寸前で散開した。 
水はアマデウスの周りを覆って膜を作った。 
水の膜の中にアマデウスが居る。 
さらにソレは外側から凍りだした。 
「ちょっと複雑な動きは予測できないらしいな! そこで大人しくしてろ!」 
ミナセは言った。 
アマデウスは水の膜を得物で激しく打ちつけた。 
しかしヒビも入らない。 
「くそっ! くそっ!」 
はめられた! 
この俺が! 
何てこった! 
アマデウスはそれからしばらく奮闘する事になる。 

ドーム型基地の上。 
フリーダが呑気に踊っている。 
自然のエネルギーと同化する事、 
ミナセの呼吸を感じる事、 
舞姫の操作性を向上させる事、 
全て一つの事だ。 
私はミナセとはもう戦わない。 
私にとって日常とは違うもっと神聖な存在だから。 
神聖? 
それも違うかな。 
あの子達との約束、義に背く事はできないし、 
真面目に戦う事ができるとも思えない。 
だってミナセを愛してるから。 
一度手合わせしたアレで十分。 
もう戦う必要は無いんだよ。 
私とミナセはちょっとだけ恋人で、 
そしてトモダチだから。 
マイナスイオンを含んだ。 
風が運ばれてくる。 
来たっ! 

ビュンッ! 

ミナセが邪宗門に乗って横をすり抜ける。 
「愛してる!」 
フリーダが言った。 
ミナセが笑ったのが見えた気がした。 
これで良いんだ。 
これで…… 



私が相手をするのは…… 
前方から凄い勢いで黒い塊が走ってくる。 
「おっと、そこまでだ!」 
フリーダが制止する。 
ルナが立ち止まる。 
「よくバリアー抜けられたね」 
ルナは一瞬言いよどむ。 
「ガチンコで一発よ。お粗末様」 
フリーダはニッコリ笑った。 
「一緒に踊りましょ? 昔の私」 
フリーダがゆっくり手を上げた。 
ポケットやそでから気配が空中に散布される。 
それは増殖し巨大な威圧感となった。 
くっ…… 
勝てるのか……? 
普通…… 
勝てないよ…… 
「意味分からない事言うんじゃないよ」 
ルナが言った。 
この人からは変な匂いがするんだ。 
まだ知らない匂い。 
失くしてきた匂い。 
これからの私の匂い。 
ルナは刀を柄におさめる。 
ビーム紫極で一気に決める。 
それで決まらなきゃアレで逝く……! 
フリーダはふわふわ笑っている。 
神様みたいだな…… 
戦いの…… 
ルナは思った。 
私の全て……ここで出せる…… 
今日という日は得難いんだ…… 
この世に生まれた意味が少し分かるような日…… 
私だけじゃないくて……誰にとっても…… 
つかがヴヴヴと音を立て始めた。