フォルテシモ第七十二話「勝負は一瞬」 人殺し以上の罪を犯した者がたどり着く場所。 それが魔界。 魔界は超越者によって作られた少数のレッドラムと多数の人間が同居している場所だ。 両者は互いの存在を許さない。 魔界はいつでも戦闘因果にしばられている。 両者に本当の意味の幸福が訪れる事は難しい。 それが罰。 の筈だがそのような機能が作用しない者もいる。 そういった存在を魔界を管理する超越者、魔界の門番は許すわけにはいかない。 だからそういう場合は魔界の問題に介入する事が許される。 今回のような場合、レッドラムがこのまま勝ってしまうと またしてもレッドラムの天下になってしまう。 既に人間達は大多数が南極に引き篭もってしまったからだ。 前回はレッドラム同士が争い続けていたので大脳特化型レッドラムの テレーゼを投入するだけで見送った。 テレーゼは期待した以上の成果をおさめ、レッドラムを絶滅寸前まで 人間の手で追い込んだ。 まぁ、とにかく今回は魔界の門番自身がスカイクロラ側の戦力になろうと画策している。 レッドラムを倒したら魔界にレッドラムを送り込まないようにするという 約束だとそんなもの最初から守る気は無かった。 なんたって魔界の門番は超越者。 事が終わればアマントを殺して証拠隠滅してしまいだ。 ちょうどお役御免でテレーゼも殺すつもりだ。 強すぎる力は扱いに困るものだ。 そんなわけで…… カント、パスカル、フェノメナ、マテリアはまた魔方陣で呼び出された。 もう戦争の最中だ。 テレーゼが仁王立ちしている。 「私達もレッドラムぶっ殺すの手伝うよぉ♪ 理由?理由は楽しそうだから♪」 フェノメナが言った。 魔界の門番は超越者だが命は持っているし殺す事も可能だ。 まぁ、それくらい制約が無いと勝負事は面白くない。 せいぜい命のやり取りを楽しむつもりだ。 なんたって俺達もレッドラム共と同じバトルマニアだから。 カントは思った。 「超越者がそんなんで良いの?」 テレーゼが聞く。 「ちゃんとした仕事だよ。気にしないで」 フェノメナが言う。 「俺達が介入するからには絶対勝つからさ」 カントが言う。 そしてアンタは必ず死ぬ。 「ああ、もう死にたい」 フェノメナが言った。 「脈絡無い事言うなフェノメナ」 パスカルが諭す。 「アンタは何するんだ? テレーゼ」 カントが言う。 「何も。息子に助けてもらうのを待ってるわ」 「夫さんも来てんだろ?知ってるぜ」 「む」 テレーゼはムッとした。 嫌だな超越者って。 「私に夫なんていません」 テレーゼは言った。 4人はケケッと笑った。 「まぁ、それはこの話の肝だからな。大事にするが良いぜ」 「何言ってるのか分かりません」 「さぁてと。俺達は情勢が悪化するまで高みの見物だ。外に出るか」 カントが言った。 「そうしよう」 フェノメナが言う。 テレーゼがため息をつく。 魔界の門番の4人は飛んで天井をすり抜けて飛び出していった。 何でも有りだな…… 大乗かなネプト…… それと…… ああ、いかんいかん。 ウィンダム達と大人しくしてるか…… ネプトと…… アイツと…… もう一度話したいな…… テレーゼは言う。 「ぶっ殺してやる!」 モアが吼えた。 「ん……」 ルナは意に介さない。 「はああああ! こんなイライラしたの初めてだよ! 私の努力が私に応えない!」 「応えてるよ」 ルナが言った。 あんちくしょう…… ガキのくせに…… なんだよ……この精神性の違い…… 荒んで荒んで荒みまくって…… ジュペリに告白した…… 何言ってるのさ……! そんな当たり前の事したって私は嬉しくない。 自分より強い者に……勝ちたい! 「ピンクハイデガー!」 電磁鞭がバチバチとスパークする。 ルナが剣を構える。 ミナセの役に立ちたい! こんな所で…… 立ち止まっていられない! 「生意気なんだよ!」 この人も強い…… 勝敗は五分と五分だ! 「ビーィム! 紫極!」 ドジュパッ! 「あ……」 モアの口から最後の嗚咽がもれる。 ルナがカチンと刀をおさめた。 モアは頭から縦に真っ二つに切り裂かれた。 モアの思考は完全に停止する。 最後に思った事は、ジュペリへの懺悔…… ネプトと戦うジュペリの後頭部がチリッと痛んだ。 「何……?」 ジュペリは振り向く。 そして見た。 真っ二つに切り裂かれて崩れ落ちるモアを。 ジュペリの目が見開かれた。