フォルテシモ第七十話「死ぬのは怖い?」

 

「レッドラムが集まってる。報復するつもりだ」 
欧州巡回中のオセロがレッドラムの集まった反応を感知した。 
「私達だけじゃ相手にならない。一旦、帰投するわ」 
「了解」 
ガロアが短く答える。 
自分はエルサレム基地にいる。 
テラスで携帯で喋っている。 
こっちも総力を結集して迎え撃つしかないかな…… 
これは戦争になる。 
第三次レッドラム大戦と言っても良い。 
なにせこっちの総力は20万。 
勝ち目は十二分。 
自分も敵幹部に実力負けしないくらいの力をつけた。 
そう。例えあの爆発使いと戦ったとしても…… 
というかずっと相手を爆発使いと想定して修行してきた。 
ジュペリもモアも強くなった。 
アリスとフリーダは言わずもがな。 
あの二人は敵幹部数人を相手にできるほど強い筈だ。 
「ふんっ」 
ガロアは鼻で笑った。 
野良犬どもの最後のあがきだ。 
相当、面白い祭りになるだろう。 
後ろにバルトークが立っている。 
「ホメロスの奴、死にやがって……」 
「まだ言ってるのかバルトーク。いい加減そんな不合理な思考排除して 
 明日の事を考えろ」 
バルトークはキッと眼をむく。 
「誰に殺られたんだよ……」 
「俺が知るかよ。敵幹部だろうぜ。多分な」 
「よし、じゃあ殺す」 
単純だな…… 
まぁ普通に良い奴だけど…… 
「ホメロス。オセロを守れ。俺は死ぬかも分からん」 
バルトークが言った。 
ガロアは内心ビクッとした。 
「いちいち言うなよそんな事……。それに俺だって死ぬかも分からんし」 
「死ぬなって言ってんだよ馬鹿」 
バルトークはケッと笑って 
背を向けた。 
「勝ち逃げしろって言ってんだ」 
バルトークは言ったがガロアは意味が分からない。 
言動も不合理だな…… 
コミュニケーションなんだから伝わるように言わないと…… 
「てか、俺は多分死ぬ。そういう風に生まれついてるから」 
バルトークは言ってテラスをあとにした。 
そうだな。 
死ぬのは……怖い。 
俺達ホントは山奥の村で一生地味に生きる筈だったんだぜ? 
そしてそれは望んだものではなかった。 



俺は広く世界に飛び出して色んな本を読みたいっていつも思ってた。 
果ては数学者になる事を夢想していたものだ。 
それが世界には飛び出したが首輪のついた不毛な戦争ごっこしてるときてる。 
やるせねーよ。やるせねーな。 
俺達には生きる理由があるのだろうか? 
ボブスレーに乗ってるみたいで上手く考えがまとまらない。 
周りの景色が高速で行過ぎていくけど俺自身はあまり歩いていない気がする。 
ただ倒したい相手ができた。 
なんで倒したいって思うのか理由はよく分からない。 
不合理だな。数学者が聞いてあきれる。 
でも無駄な思考な気がしない。 
なんだろ。 
なんか大事な事な気がする。 
まだまだ未熟だな俺…… 
ガロアは思った。 

エルサレム基地の屋上でジュペリがラジコン飛行機を飛ばしている。 
彼が山を降りてからの唯一の趣味だ。 
少し後方でモアが飛行機の行方を追っている。 
飛行機のブーンという音がやる気なさそうに聞こえてくる。 
ジュペリはモアなどそこにいないかのように振舞っている。 
「ジュペリ……」 
モアが呟く。 
ジュペリは反応しない。 
「楽しい?」 
「ああ」 
思いがけずジュペリが返答した。 
オタクだな…… 
モアは呆れた。 
自分だって音楽好きだけどなんか違うんだよな。 
没頭のし方とか。 
今なんか戦争が始まるちょっと前だってのに。 
おかしいんじゃないかな。 
「死ぬのが怖い」 
「ああ、そうだな」 
ジュペリは短く答えた。 
飛行機が旋回している。 
ブーンという間の抜けた音が聞こえる。 
モアは自分の口から出てきた言葉が意外だった。 
怖い? 
死ぬのが? 
何故ジュペリに言う? 
モアは掌を広げて自分の口の前に持っていった。 
もしかして私、格好悪いかな。 
「一人で死んじゃうのはずるいよ」 
「何故?」 
冷静に切り返された。 



こいつはラジコンつついてる時は冷静になる傾向にある。 
でもなんでだろ。 
貸しがあるからかな。 
貸しってなんだろ。 
「なんとなく」 
「そうか……」 
何が言いたんだ自分…… 
なんか喉まで出かかってんだけど…… 
なんだろ。 
「なんか言いたい事あるんだけど……」 
「言えば?」 
くっそー。 
馬鹿にしてるな? 
頭かち割ってやる! 
「好きだよ。ジュペリ」 
ジュペリは返答しない。 
あれ? 
これで正解? 
どうもそうらしい。 
そうだったのか自分。 
ジュペリはまだ黙っている。 
なんだ……興味無しか…… 
最低……自分…… 
最低だ…… 
言わなきゃ良かった…… 
その時、ラジコン飛行機がブルブル音を立てて階下に突然落下していった。 
あれ? 
ジュペリが振り向く。 
無表情だ。 
どうした? 
「死ぬのは怖いよな」 
ジュペリが言った。 
モアはなんだか嬉しくなってきた。 
一足にジュペリに抱きつく。 
ジュペリは無表情を崩さない。 
涙が溢れてきた。 
ジュペリの肩をボロボロ零れ落ちる涙が濡らす。 
おかしいな。 
こんなに感情押し殺してたのか私。 
格好悪いな…… 
「怖い……」 
モアが儚く呟いた。 
「どこまで飛べるかな……」 
ジュペリが言った。 



そのまま10分くらい動かないでいた。 

散開してできるだけ速いスピードでレッドラム連合軍はエルサレムを目指す。 
ルナとネプトが喋っている。 
「ルナの親父さんってさ、スゲエ強いんだろ?」 
「当たり前よ。私が100人束になっても敵わないわ」 
「さすがにそれは子馬鹿だろ」 
ネプトはちらっと先頭を走るミナセとライマとカンジを見やる。 
「なんで鬼太郎カットなんだ? ルナも親父さんも。俺は母上にそうしろって言われたから 
 そうしてるんだけどさ」 
「私は少しでもミナセに近づけないかって思ってやってる。まずは形からってね。 
 ミナセの右眼には何か秘密があるらしいの。詳しくは知らない。 
 『期待するほどの物じゃない』ってミナセは言ってたけど」 
「ふーん」 
ネプトは言いたい事が他にもあったがそれが何かよく分からなかった。 
モヤがかかったように分からない。 
「斥候から情報が入った! 敵の戦力は約20万! 
 こっちは2000だ! 1人100殺で勝ちだ! 
 俺か!? 俺は万人殺す! 気合入れていけー!」 
カンジが叫んだ。 
「うおおおおおおおおおおおおお!」 
野太い声が響いた。 
100殺か…… 
自分にできるから……器じゃないし…… 
ネプトは心配だった。 
「ねぇ、ネプト」 
ルナが言う。 
ネプトが振り向く。 
「私達、もう親友でしょ?」 
「え……」 
ネプトは面食らう。 
そうかな…… 
もうそうなのかな…… 
確かに世界でたった一人の友達だと思ってたけど…… 
「勝手に死ぬのなんて許さないよ」 
ルナが続けた。 
胸が早鐘のように鳴る。 
繋がってる…… 
この人と繋がってるよ…… 
生きてるってこういう事か…… 
何度目かの実感を噛み締める。 
「ああ。絶対死なない。約束する」 
「ホント? ゆーびきーりげーんまーん嘘つーいたーら針千本飲ーます」 
ルナが指を動かしながら言った。 
体の奥から力が湧き出てくる。 



「いいか! 野朗共! 明日の早朝から侵攻開始だ! 先手必勝! 
 ぶっ潰してやろうぜ!」 
カンジが叫ぶ。 
「うおおおおおおおおおおおお!」 
野太い声があがる。 
「ちょっとカンジ。確かに器じゃないけど一応俺がマトメ役で……」 
ミナセが言う。 
「ハハッ! わりぃな! せっかちでよ!」 
カンジが返した。 
高揚感が段階的に上がっていく…… 
これぞ生の実感! 
おれぞ際の際! 
ネプトは胸の高鳴りを感じながら思った。 
やってやるぜ! 
レッドラムの大隊はドロドロと砂漠を疾走した。