フォルテシモ第六十九話「集結」 



此処は魔界のパラレルワールド。亜空間。 
鴉のような翼を生やした女が二人談笑している。 
「マジでー? 暇だねカンパスも」 
「だよねー! 絶対馬鹿だよアイツ等!」 
空が青や赤や黄のサイケデリックな模様を作っている。 
あたりは岩場ばかり。生物の気配は無い。 
片方の赤い羽根の少女はフェノメナという名だ。 
白いスカイクロラと同じようなギリシャ神話っぽい服を着ている。 
薄い栗色の髪をセミロングにして青い眼をしている。 
もう片方の黒い羽根の少女はマテリアという名だ。 
黒髪をショートカットにしてフェノメナの物と同じ構造の黒い服を着ている。 
「魔界のレッドラム……だっけ? 亜人間。そいつ等のテクノロジーが 
 うつらの異能の力レベルに近づいてるって事ね」 
「そうそう。大脳特化型レッドラム。トランプのジョーカーみたいな存在よ。 
 迫害されんのか思ったら重宝がられてるみたい。そんなもんかね〜」 
フェノメナが欠伸した。 
「うちらも召還されるかもね。そのうち。ウザいな」 
「本当に〜!? アドベンチャーに期待しちゃってるんじゃないの? マテリア〜」 
「カントとパスカルは絶対やる気ないよ。私利私欲の為に動いてる。 
 世界を無駄に引っ掻き回して優越感に浸るつもりよ」 
「話そらすなよ! でもまぁね。力を持ったら。使いたくなる。 
 優越感に浸りたくなるよね。アイツ等性質悪いからな〜。 
 世界に対して苛めっ子になるよ。絶対」 
「後始末つけなきゃならん事態にならなきゃいいけど。あいつ等ホンット 
 餓鬼なんだから。きっとただ戦いたいだけよ。一方的に苛めたいんだ」 
マテリアがきゃらきゃら笑った。 
「なんか面白そうかもって一瞬思ったよ」 
「悪女♪」 
二人はひとしきり笑った。 
「何の話してんだ?」 
後ろから突然声がする。 
マテリアの後ろにパスカル。 
フェノメナの後ろにカントが居た。 
カントはくせっ毛の白髪で黄色い眼をしている。凄い美形だ。 
パスカルは眼が隠れるくらい黒髪を垂らして眼鏡をかけている。 
二人とも目の前の二人と同じ構造の白服を着ている。 
「来たな悪戯っ子二人」 
フェノメナが言った。 
「何言ってんだよ。仕事だ仕事」 
カントが言う。 
「正直に白状した方が気が楽になるよ?」 
マテリアが言った。 
「で、ファウスト博士の調子はどうだった」 
フェノメナが言う。 
「生意気な女だったよ。なかなか可愛いけど。頭もお前らよりずっと良いし。 
 テレーゼって言ったかな。金髪のなぁ。いやぁ可愛かった」 
カントが言う。 
「馬鹿みたい! 劣悪民族に恋しちゃったの?」 



マテリアが言う。 
「馬鹿言え。でも抱き心地は悪くなさそうだったな。お前らと違って」 
「セクハラ」 
「俺は特に今回の件を仕事だとは思っていない。 
 最低限必要な事は事を最後まで見届ける事。俺達、魔界の門番は 
 徹底した非登場人物。部外者だ。入れ込んじゃ駄目だ。死んでも駄目だ」 
パスカルが静かに口を開いた。 
マテリアがうんうんと頷く。 
「さすがパー公。良い事言うね」 
「俺達って超越者のくせに基本馬鹿だよな」 
カントが言った。 
「だがそこが良い」 
フェノメナが言った。 
4人で一斉にケラケラ笑った。 
超越者、魔界の門番はテレーゼの開発した術式によって無理矢理魔界に 
呼び出されるようになった。交渉の結果、レッドラムの生産を 
地上のレッドラムを全て殲滅できたら中止するという盟約を結んだ。 
だがこの時点で彼らはそれを守る気はあまりなかった。 
ハムスターが車を回すのを見守るように彼らは魔界の民の 
浅はかさを嘲笑った。そして不要な介入を計画していた。 
全ては快楽の為に。 

「死ぬかと思った」 
テレーゼが実験室にへたりこんでいる。 
アマントが後ろで腕組みしている。 
「別に私達とあまり変わらないようだな。彼らも」 
アマントが口を開いた。 
「豪胆ですね。私なんか気圧されちゃって」 
「ふん。レッドラムを絶滅寸前まで追い込んだ女がよく言うな」 
実験室の下には魔方陣が描かれている。 
言葉では言い表せないサイケな形象だ。 
「白髪の彼、美形だったわ。今度お茶でも飲みたい……」 
「ふん」 
アマントは踵を返して部屋を後にする。 
入れ違いにウィンダムとアシモが入ってくる。 
「大丈夫かよボス! こっから先に踏み込んでも本当に良いのか?」 
ウィンダムが言う。 
「うん……でもこれしか方法が無いでしょ? レッドラムをこの世から消す方法。 
 できるの私しかいないし……」 
「ボスもレッドラムです。お子さんも……。どうするつもりですか?」 
アシモが言った。 
「私はもう子供産まないから……。ネプトは……きっと私を助けてくれるよ」 
ウィンダムとアシモが顔を見合わせる。 
「あんな餓鬼が?」 
「無理ですよ」 
テレーゼは首をふる。 
「私の息子に限って……そんな事はない……。 
 私は手え抜いたら殺されるから仕事してるだけ。ネプトも私が死んだら 
 哀しむわ。まだあの子にも教えないといけない事が一杯ある」 



ウィンダムとアシモはまた顔を見合わせる。 
テレーゼはくっくと笑った。 
この人本当に正気なのかな? 
アシモは心配になった。 

魔界の地下世界でビラが飛び交っている。 
「集えレッドラム!天使狩りじゃー!」と文字がうってある。 
ペコリと頭をさげたルナが「いらっしゃいませご主人様」と吹き出しで言っている。 
「ロリコンが集まりそうだな」 
誰かが言った。 
ヤマギワもそれを手に取った。 
「はん。あいつ等か。まぁ、せいぜい俺の手助けをするが良い」 
ヤマギワは言って、召集に応じる気は無かった。 
レッドラム達は召集場所であるベルリン地下に続々と集いはじめた。 
荷車を押しながらキタテハとヨナタンがたどり着いた。 
地下空間の入り口にルナが立っている。 
「ナ……ナナミさん?」 
キタテハは呟いた。 
ルナはくすっと笑って 
「どうぞ。この中です」 
と言って手招きした。 
中は真っ暗だ。 
大勢の熱気と汗が充満している。 
人が大講義室10個分くらいの大きさの空間にギュウギュウに詰め込まれている。 
講義室のように岩場が斜めになっている。 
教壇のような構造も見える。 
「よう。キタテハ」 
そこに居たミナセが声をかけた。 
キタテハの顔がボウッと赤くなる。 
ヨナタンが後ろから小突いた。 
「役者は揃ったかな? そろそろ始めっか」 
暗闇から明るい声が響く。 
カンジだ。 
「ああ」 
ミナセが答える。 

ボウッ! 

カンジの掌の上で火が点る。 
光量が激しく岩場全体が鮮明に浮かび上がる。 
総勢約2000名のレッドラム達が浮かび上がる。 
ライマやユアイやリュイシュンの顔も見える。 
皆、大体ボロボロの服装だ。 
生きるのに苦労している様子が伺える。 
キタテハはため息をつく。 
そして壇上のミナセを見やる。 
マイクを持っている。 
「えー。皆さん。来てくれて有難う。俺はミナセ。 
 今回の皆のマトメ役をする事になった。器じゃないんだけどね。」 



ミナセは言った。 
その場がシンとなる。 
「君達も連日の手羽先共の強襲でフラストレーションがたまっている事と 
 思う。こういう時はやっぱお祭りだよね。皆で力を合わせてチキンを 
 一網打尽にしてしまおう。俺達は強い! できるったらできる! 
 俺は器じゃないけどね。決起は一週間後だ。皆、俺は器じゃないけど 
 俺についてこい!」 
「うおおおおおおおおおおおおおおおお!」 
野太い声があがった。 
ルナがパチパチ手を叩いている。 
ネプトは乗り切れずにオロオロしている。 
カンジがからから笑っている。 
ライマもユアイもリュイシュンも笑っている。 
キタテハもくすりと笑った。 
また一緒に夢を見れるんですね? 
眼から涙が零れ落ちた。 
カンジとライマが教壇に寄ってくる。 
「よう大将! 全てお気に召すままにだ!」 
カンジが言った。 
「お前と初めて会った時から、まさかこんな事になるとは思いもしなかったぞ」 
ライマが言う。 
三人で腕組みした。 
「皆、逝っくぞー!」 
ミナセが叫んだ。 
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」 
さらに歓声があがる。 
乗り切れないネプトの肩をルナがポンポンと戦う。 
「貴方は強い。大丈夫」 
ルナが言った。 
ネプトは罰が悪そうに笑った。 
本当は嬉しいんだ。 
生まれて初めてこんなに仲間ができて。 
スカイクロラに感謝したいほどだった。 
生きてるってこういう事かな…… 
ネプトは世界に飛び出してから何度目かの思いを抱いた。 
……にしてもあのリーダーの人、俺に似すぎじゃね? 
器じゃないってフレーズとか…… 
流行ってんのかな…… 
ネプトは頭を捻った。