フォルテシモ第六十八話「追い詰められれば」 「また全滅?」 「ああ。こっちも相当数狩ってるんだがやっぱ何人もくそ強い奴等がいるらしい」 モアとジュペリが話している。 ここはスカイクロラのニューヨーク基地。 オリジナルのスカイクロラはまだガブリエル以外死んでいない。 クローンの連隊は闘争本能が発達しているから退く事を知らない。 その辺で差がでてきて何個ものクローンの連隊が全滅している。 順調に狩られるレッドラム達がこのまま黙っているとは思えない。 分からないが徒党を組み統率された軍隊となる事も考えられる。 まぁレッドラム全体の性格上、あまりそうなる可能性も無いような気もするのだが。 「フリーダもいれて10人で一緒に行動しましょう。もうこれ以上誰かが死ぬの見たくないよ」 モアが言った。 「駄目だ。毎日レッドラムは増えてる。そんなちんたらやってたら 全滅させる事は不可能だ」 ジュペリが言う。 「毎日増えてるんだったらそもそも絶滅させれないんじゃないの?」 「アマントが魔界の門番を呼び出して交渉してる。一回レッドラムを根絶やしにしたら この魔界は人間の土地になるように……」 モアが目をパチクリさせる。 「何それ。初めて聞く。魔界の門番?」 「俺もよく知らん。テレーゼとアマントが話してんのを立ち聞きしただけだ」 「大丈夫なの?うちの大将。副村長も知ってるよね多分。今度聞いてみよう」 ジュペリはため息をついた。 「死んじゃ駄目だよ」 モアは言って、駆けて去っていった。 アフリカ、の真ん中あたり。 砂漠地帯。 総勢300体のスカイクロラが地に倒れ伏している。 ほとんどの個体が砂に埋もれている。 「良かった。生きてた」 ユアイが半分砂に埋もれたスカイクロラを見つけて言った。 後ろでライマが無言で立っている。 逆光でよく顔が見えない。 「こら。いきなり人襲って、何の為にしたの?説明を要するもんよ」 ユアイが親指を握ってポンと叩いた。 「うご……うごうご……」 クローンのスカイクロラは声にならない声を出す。 「なんだぁ? 小学校で言葉覚えなかったの?」 ライマがじゃりっと音を立てて横を向く。 「その通りだろうぜ。そいつらは模造品だ。頭は戦闘意欲だけ」 「そうなの? じゃ話聞いても無駄なのかな」 すっくとユアイが立ち上がる。 「調子良さそうじゃない。ライマ。ずっと戦ってなかったのに」 「ふん」 ライマは鼻で笑った。 「悪くない。この感じ」 ライマが言った。 ユアイがふふっと笑う。 ユアイはこの五年で変わった。 世界を旅して人と関わる事で人間らしい感情を取り戻した。 ライマとは違って人間を好くようになったらしい。 口数も多くなったし表現も柔和になった。 ライマは今もその変化に少し戸惑っている。 ユアイの首筋から鵺の頭が生える。 「小僧。次はこんな程度ではすまない。奴等のオリジナルが来るだろう。 こいつ等はクローンだ。せいぜい逃げ回ってユアイを生かせ」 「こら鵺。ライマに命令するのやめてって言ったでしょ」 「ふん」 ライマはちらと空を見やる。 「俺だけじゃ無理か……ならやる事は決まってる」 「そうだね。皆元気かな……」 「お前は……変わったよな……他の奴……見たら驚くぜ」 ユアイはふふっと笑った。 「貴方は変わってないの?」 ライマは一瞬ハッとした。 なんだろう。 「ふん」 ライマはまた鼻で笑った。 ユアイに背中を向ける。 ユアイは笑ってその背中に飛び乗った。 「小僧。貴様はユアイを生かす事だけ考えてれば良いのだ」 「へいへい」 「命令しちゃ駄目だって!」 深夜特急はユアイを乗せて走り出す。 腕がなまってる…… まぁ、それも良い。 俺は生きる目的を得たのだから…… 背中にユアイの重みを感じる。 悪くない…… 超高速で2人はその場を後にした。 「ぷはぁ!死ぬかと思った!」 ヨナタンが地に両腕をついて言った。 ここはオーストラリア。 横でキタテハがため息をつく。 周りに300体ほどのスカイクロラのクローンが散乱している。 「やばいよキタテハ! 今同じ奴等来たら殺されるよ!」 「そんな早く来ないよ」 キタテハは屈みこむ。 「まったくカンジさんも殺されちまったのに誰に頼れば良いんだよ!」 「ミナセさん」 キタテハが即答する。 ヨナタンが狼狽する。 「なんだよキタテハ……お前まだ……」 「生きてるよ。ミナセサンは絶対生きてるよ」 ヨナタンが釈然としない顔をする。 なんか最低だ。 「あんなヘタレの何が良いのかな〜」 「アンタよりマシだ」 キタテハが鋭く言い放った。 ロシア。 岩場の上でカンジが胡坐を組んで左手の人差し指を右手で握り締めている。 眼下が火の海になっている。 400体のスカイクロラが全て黒い焦げになっている。 その中からネプトが飛び出す。 「うわっちいいいいい!」 尻に火がついている。 「最低ですよカンジさん! なんで俺が逃げ切るまで待ってくれないんですか!」 「あれくらい避けられんとこの先ついてこれんぞ」 カンジは言った。 ネプトは尻をはたいて火を消した。 「たかが400体。あれくらい一人で捌いて当然だ」 「自分の物差しで言わないでくださいよ。俺、器じゃないわけだし」 カンジはきっと目を見開いてネプトを殴りつけた。 ミナセはエルサレムに帰ってきていた。 家のハンモックの上で寝ている。 「はっ……はっ……」 ルナが外で荒い息をしている。 目の前でスカイクロラ500体がバラバラになっている。 血の海が砂漠を塗らした。 「ひゅうっ」 ペタンとその場にへたりこむ。 「すっごい疲れた……。でも弱っちかったな……」 私もずいぶん強くなった…… ネプトの所にも行ったかな? あの子大丈夫かな…… ミナセ呼ばなかったのはちょっと悪い事した気分だな…… でも経験値上がったもんね。 あの技ももうほぼ完成だ。 ルナは嬉々として家路についた。 家ではまだミナセがマジで寝ている。 「だぐはっ!」 ホメロスはビルの壁に叩きつけられた。 右脇腹の傷が深い。 血がドクドク流れ出した。 畜生……なんだよコイツ…… ってかフリーダが殺った筈なのに…… 目の前でヤマギワが剣をブンブン振っている。 「悪くないな。『人間失格』」 ヤマギワは呟いた。 ヤマギワは3本刀をさしている。 死ぬのか俺は…… こんな所で……? ホメロスは二丁拳銃を握り締める。 「おっと!」 瞬間、ホメロスの両腕が吹っ飛んだ。 ヤマギワはホメロスの方を見ていない。 延々「人間失格」を見ている。 「綺麗だな……その切っ先……ナナミみたいだ……」 ヤマギワは空ろな眼をしている。 コイツ……イカレてやがる……! その内、ホメロスの両腕はまた生えてきた。 せいぜい自惚れてろ!馬鹿が! ホメロスは吹っ飛ばされた銃を取りに行く。 ヤマギワが剣を振る。 左腕が肩口から吹っ飛んだ。 右手で銃を取る。 構える。 瞬間、ヤマギワの刀が深々と左胸に突き刺さった。 血が噴出す。 ああ……俺の命が…… 「つ……つええ……」 ホメロスは呟く。 「ほーう。割と良い声で啼くじねえか。初めて気に入ったぜ。 良いか。よく聞け。一度でも俺に屈辱を味あわせた一派は この天と地の間に生きる場所を与えてやんねー。俺に不可能は無い」 ヤマギワは刀をひめる。 「ぐふっ!」 ホメロスが吐血する。 「『人間失格』……良い名だろ? 使わせれなくて残念だったな」 ヤマギワは刀を力を込めて刀を引き上げる。 ホメロスの上半分が真っ二つになった。 「はんっ! 手応えが無さすぎるぜ!」 やはり標的は……あの売女か…… ヤマギワは刀をおさめてその場を後にした。 800体のスカイクロラの死体の山が累々と積み重なっている。