フォルテシモ第六十七話「トモダチ」 


水の龍がその身をくねらせる。 
無数の刃がそれを追う。 
フリーダは自分で飛ばした刃を足場にして空中を走る。 
あんなの普通の人できねえよ…… 
龍の中のミナセは当たり前の事を思った。 
心の中の歓喜を感じながら…… 
だって久しぶりなんだ…… 
俺が本気を出せる相手。 
俺の本気を受け止めてくれる相手は…… 
俺の本気を許してくれる相手は…… 
俺の中に入ってこれる相手は…… 
いつのまにか昔とは別の意味で孤独になってしまった…… 
山の頂上は空気が薄くて住みにくかった…… 
人は寄り付かない。 
それは俺が心のどこかで望んだ事だったのかもしれないけど…… 
でもどこかで誰かを待ってたんだと思う。 
そう。 
今の俺とトモダチになり得る誰かを…… 
フリーダの顔が見えた。 
まだ笑っている。 
彼女の期待に応えたい。 
幻滅されたくない。 
俺を見てほしい。 
俺を理解してほしい。 
そんな事考える俺は弱い。 
だけど、 
そんな汚物まで愛して…… 
彼女もそんな気持ちだろうか? 
ここからはよく見えないや。 
もっと近くに。 
もっと近くに。 
彼女の近く、 
彼女の深淵に…… 
「水龍公使……向きを変えろ……」 
ミナセは水の中で呟く。 
逃げてばかりでいいわけがない。 
踊りってのはコミュニケーションだ。 
違うかもしれないけどそういう事にしとく。 
こっちから働きかけないと意味をなさん。 
龍の口がカパッと開く。 
「てっ!」 
口から水弾が乱射される。 
フリーダは刃の上を超スピードで渡ってそれを避ける。 
怖いなこの娘。本当怖い。 
フリーダは踊っているようだ。 
馬鹿にしているのでなくてそれがフリーダのスタイル。 
生き方……か。 




相手のいない踊りは楽しくない。多分ね…… 
フリーダだってそう思ったから俺と踊りたいと思ったんだろう。 
俺は期待に応えるだけ…… 
期待に応える相手がいる事って多分幸せな事だから…… 
「水の道化師!」 
くねった龍の体から小さな蛙が無数に飛び出す。 
全方向からフリーダを囲む。 
「やだ……嫌いよ両生類……」 
フリーダは呟く。 
逃げ場は無い。 
「カオスボール!」 

シュパアアアアア! 

蛙が全て水の飛沫になって霧散した。 
刃がフリーダを中心に全ての蛙を撃墜したようだ。 
「えへへ……」 
まだフリーダは笑っている。 
本当に勝てるのか? 
ミナセは不安になってきた。 
原子力は5年前以来何故か使えないし…… 
プラトやムスイの声も聞こえないし…… 
水の道化師で相殺しながら青極でいくか…… 
すっげえ嫌な予感。 
切り刻まれる自分が見える。 
やるしかないよな。それでも。 
俺大人だもん。 
ルナも命をかけて戦ってる。 
やるか! 
「水の道化師!」 
龍が分裂し無数の刃をもった球になる。 

バシャシャシャシャシャシャ! 

刃と相殺する。 
道はできた。 
何も無い空の空間。 
逝くぞ! 
「死にぞこないの青!」 
100メートルほどの水の刃が邪宗門から伸びる。 
フリーダがにっこり微笑む。 
余裕だな。 
むかついてきたぞ。 
ミナセは氷の足場を踏んでフリーダめがけて駆け出す。 
距離が50メートルまで近づいた。 
「青極!」 
「冷静と情熱の……間!」 
フリーダも同時に叫ぶ。 
テレポン舞姫が急速に整列する。 
それは今度は全長100メートルの巨大な刃の形をとった。 



目をむくミナセ。 
大迫力! 

ドゴオッ! 

刃と刃が激しく打ち合う。 
威力には自信のあるミナセだったがフリーダの方が威力が強い。 
咄嗟に水を変形させ力を逃がす。 
「おろっ」 
フリーダがぐらつく。 
こりゃまともに勝負したら負けるな…… 
いくらテレポンの相性が良くても…… 
ミナセは判断した。 
得意のせこい手で乗り切る! 
刃が重なった部分の圧力を下げる。 
フリーダの刃がすり抜ける。 
またぐらつくフリーダ。 
もらった! 
刀を振るミナセ。 
フリーダは超速でスピンし始めた。 

バシャアッ! 

根元から水の刃が砕け散る。 
フリーダの攻撃のせいだ。 
やっべ! 
でも楽しい! 
何回でも際の際を見せてやる! 
その倍見せられそうだけど…… 
「悲の器!」 
巨大な水の器でフリーダの追撃を防ぐ。 
そうだ! 
俺! 
君にだけは本気! 
ミナセの目が青く輝く。 
「うふふ……」 
フリーダの声が聞こえた。 
笑ってる。 
その笑顔、絶やさぬために…… 
俺は戦ってもいいかもしんない。 
ミナセは思った。 

「はっ……はっ……」 
「ぜっ……ぜっ……」 




ルナとスカイクロラ達、一進一退の攻防は続いていた。 
このガキ速くなった……なんてもんじゃない……! 
本当に近縁種? 
世界の違いを感じる…… 
私だって少しはやる筈なのに…… 
ジュペリに較べれば…… 
モアは神経をかき乱された。 
「畜生!」 
電磁鞭の攻撃。 
不規則に動く鞭を避けるのは至難の業…… 
ルナの姿がブレて何人にも見える。 
鞭が当たらない。 
なんでだよっ! 
こんなガキに翻弄されてる! 
小学生だぞ!? 
こんな事ってあるかよ! 
「落ち着けモア!」 
ジュペリが口を挟む。 
「黙れ役立たず!」 
モアが声を上げる。 
すぐ前にルナ。 
「紫極!」 
「くっ!」 

ガキィ! 

ジュペリが腕に巻いたガラクタノカミサマの部分で防ぐ。 
ジュペリの顔が痛みで歪む。 
なんて威力だ……! 
「ああっ!」 
そのまま後ろのモアごと吹っ飛ばされるジュペリ。 
くそっ…… 
武器の力試しならもうこれで十分か? 
こっから先は死人が出る…… 
「モア。帰ろう」 
「はぁっ!? 馬っ鹿じゃないの!? うぐっ!」 
ジュペリはモアの腹に一撃いれて黙らせた。 
「帰るぞクローン!」 
ジュペリが号令する。 
生き残っているクローン達は飛び立つ。 
「フリーダ! 帰るぞ!」 
「ちぇー。良い所なのに。ミナセ。また今度が本番ね。すごくすごく期待してますわ!」 
フリーダは言ってクローンと同じ方向に駆け出した。 
ジュペリもミナセを一睨みしてからモアを小脇に抱えて飛び立った。 
ルナは一息つく。 
ミナセは内心命拾いしたと思っていた。 
もう二度と戦うのなんて御免だ。 
俺は戦いは嫌いなんだよ…… 
ああそういや俺戦い嫌いだったよ…… 
ミナセは思い出した。