フォルテシモ第六十六話「感覚の天使」 


ミナセとルナが戦っている反対側の砂漠。 
カンジとネプトの前にホメロスとアマデウスとバルトークの連隊が降り立った。 
カンジの威圧感が増した。 
ネプトは狼狽する。 
やはり自分も戦わなければいけないのだろうか。 
器じゃないのに…… 
「ネプト。お前は天パーとヤれ。あとは引き受ける」 
カンジが言った。 
向こうにもソレは聞こえている。 
「俺が一番弱いってか?」 
天パーのアマデウスが言った。 
バルトークがククッと笑う。 
クローがしゃらんっと音を立てた。 
カンジが両手の人差し指と中指を立てる。 
その先端がボウッと赤くなる。 
ホメロスが両手に銃をかまえる。 
空気がピンと張り詰めた。 
アマデウスがザッと前に出た。 
ネプトを狙っている。 
カンジは動かない。 
マジかよ! 
ネプトは後退する。 
「車海老の章!」 
腹からジェットが噴出して機動力が増す。 
変なテレポン使ってんな…… 
アマデウスはレディオヘッドをかまえる。 
さぁて、どう使うのかな?これは。 
「裸鰯の章!」 
ネプトの右腕が銃になり青い光球が乱射される。 
高級なテレポンだ…… 
アマデウスは俊敏な動作で全て避ける。 
ネプトは愕然とする。 
こんなに見事に避けられたのは初めてだ! 
「竜宮の使いの章!」 
左腕に竜宮の使いの頭が生え口に中から刀が飛び出る。 
おいおい……あのテレポン欲しいぞ…… 
レディオヘッドが1メートルほどの長さにカシャカシャ音を立てて伸びる。 
刀と激しく打ち合わせる。 
なんだ?ただの長物なのか?なわけねーよな。なわけある? 
一瞬の隙をついて赤と黄色の帯がアマデウスの両腕両足を拘束する。 
「うおっ!?」 
「ステム! バースト!」 



緑の閃光と刀がアマデウスの腹めがけて飛んでくる。 

バチイッ! 

ホメロスの弾丸が刀を弾いた。 
アマデウスは目をつぶる。 
「ボサッとすんな!」 
声が飛んでくる。 
面倒見が良いな……。良い奴だ……。 
次は足に動力を置いてくるか……。 
ネプトの足が緑色に輝く。 
速度が急激に増した。 
あれ? 
俺今なんで分かったんだ? 
たしかにアイツの足が光る前に足に来ると分かった……。 
後ろに回りこんでくるか……。 
あれ? 

ゴッ! 

竜宮の使いの章の後ろからの攻撃をレディオヘッドで防いだ。 
うわっ……マジではええ。保育園児くらいなのに…… 
おじちゃんちょっと押され気味かな…… 
しかし何故か反応できたぞ? 
来る前に来る方向が分かった…… 
まさかコレが…… 
この指揮棒みたいなレディオヘッドの能力か……? 

ゴッ!ガッ!ドゴッ! 

ネプトの攻撃がことごとく完封されていく。 
くそっ! 
この人恐ろしく勘が鋭いんだ! 
天才肌ってやつ!? 
器じゃないよやっぱ! 
俺は負ける……! 
「はっ!」 
アマデウスが力に任せてネプトを吹っ飛ばす。 
間合いがあいてお互い集中を解く。 
俺には経験も勘も才能も無い…… 
あの人の防御を切り崩す術は…… 
母上の最強のテレポンを頼りにするしかないかも…… 
そうだ。目の前の人の持っている得物もテレポンだ。 
それより俺の得物の方が強いって母上が言っている。 
俺は母上を信じる! 
ネプトの右腕に白い亀の甲羅のような構造が出現する。 
人間テレポン……テレポン人間だなありゃ。 
アマデウスは目を細める。 
次は……何か大技が来る…… 
不味い……避けなきゃ…… 



「うおおおおおおおおおおおお! 抹香鯨の章!」 
ネプトが叫ぶ。 
そして飛び立つ。 
アマデウスの真上。 
ネプトを中心に全長10メートルほどの巨大な光の抹香鯨が出現する。 
押しつぶす気だ! 
アマデウスは咄嗟に後ろに下がる。 
しかし鯨のスピードが速い。 
「うあああ!」 
間一髪避けきれた。 
しかしあまりの事で頭が回らなくなった。 
集中力が途切れる。 
巨大なクレーターの中心にネプトの姿はない。 
後ろ! 

ザシュッ! 

ネプトの手に手ごたえがあった。 
アマデウスの血のついた背中の衣服の一部がハラリと落ちる。 
いてえっ! 
保育園児に傷つけられた! 
これだから世の中嫌なんだ! 
もっと適当に生きたかった…… 
明るく地味に慎ましくカントリーで僻地で一生を送りたかった…… 
それをこんなちゃちな爆弾のせいで…… 
ネプトの目が緑に輝く。 
あーあ本気になっちゃってるよこの僕ちゃん。 
本当ならママと一緒にねんねしてるような年齢なのに…… 
因果なもんだね世の中。 
戦闘因果に支配されてんだ。 
アホらし。馬鹿丸出し。 
ろくな大人にならないねこの子。 
ネプトは考える。 
俺の動きは予測できるようだが 
この魚眠洞の能力を完璧に把握する事はできないだろう。道理的に。 
俺の武器は変幻自在だ。 
いちかばちか、試してみよう! 
アマデウスは目を細める。 
またなんか変わった事してくるな……何かは分からない…… 
アマデウスがかまえる。 
はぁーめんどくせ。帰ってゼロカロリーコカコーラ飲みてえ。アレ最高。 
今だ! 
アマデウスの一瞬の隙をつく。 
「提灯鮟鱇の章!」 

ビカァ! 

右腕の銃から物凄い光量が一気に放出される。 
「うわっ!」 



アマデウスは目を覆う。 
視力と思考力が一瞬ゼロになる。 
「はぁっ!」 
ネプトは飛び出し剣を振る。 
こりゃ駄目かも……! 
いや……皮膚感覚が生きてる! 

バウッ! 

ネプトの一撃は大きく空振りした。 
アマデウスは視力を失っているのに皮膚感覚だけで剣を避けた。 
こいつ……どんだけ〜! 
スゲエッ。俺って才能ね? 
アマデウスは自分で思った。 
「畜生!」 
ネプトは突きを連打する。 
アマデウスはその全てを紙一重でかわす。 
口笛を吹きたくなる。 
爽快だぜ! 
視力がだんだん戻ってきた。 
こんな上手くいかない事ってあるのか!? 
ネプトは苛立った。 
いくら俺が器じゃないからってこんな事する神様なんて神様じゃねえ! 
ネプトの目が緑に輝いた。 
アマデウスは高速の突きを避けながら頭に爽やかな風を感じた。 
世の中、上手くいけば割と面白いかもな。 
アマデウスは思った。 

「だぐはっ!」 
バルトークが吹っ飛ばされた。 
ホメロスは立っているが右腕が焼け爛れている。 
カンジがかまえて立っている。 
鋭利な刃物を思わす表情だ。 
こいつはアリスが言ってた炎使い。 
あのアリスが強いって言ってただけあって半端ねえな…… 
一時撤退した方が良いかもってくらい強い…… 
しかもまだこいつ本気出してないみたいだし…… 
背中の剣とメインのテレポンをまだ使ってない…… 
「若造共! 俺はお前らは殲滅する事に決めたんだ。余力のあるうちに逃げるのも一手だぞ」 
カンジが言った。 
殲滅するつもりなのに何故そんな事を言う……? 
ガキが負けそうだからか…… 
そうだな…… 
逃げた方が良いのかも…… 
ホメロスは思った。 
「逃げるぞ! バルトーク! アマデウス!」 
ホメロスが号令して飛び立った。 
カンジは追おうとしない。 
「ちっ!」 
舌打ちしてバルトークも飛び立つ。 
「お前なかなか面白かったよ」 
アマデウスはネプトに言って飛び立った。 
ネプトはしゃくぜんとしなかった。 
腹の底で何かがふつふつと燃えている。 
器じゃないのに、 
この感情は何? 
ネプトは戸惑った。