フォルテシモ第六十五話「踊りませんか?」 フリーダがニコニコ笑って一歩一歩後ろ歩きしている。 空気がピンと張り詰める。 ミナセが戦闘態勢に入ったのだ。 ザッと音がしてジュペリとモアが砂漠に降り立つ。 次々と同じ顔のクローン達が砂漠に降り立つ。 クローンは白い簡素な衣服を身にまとっているので見分けられる。 その数総勢30体ほど。 しかしミナセが見ているのはフリーダだ。 「えっ? なんで? ミナセ? フリーダは……」 ルナが戸惑う。 「アイツはもともとあっち側の人間だ。言ってなくて悪かったな」 ルナがハッとする。 頭が混乱してきた。 ミナセは知ってた? 知っててなんで…… 大人ってわかんない…… フリーダは今まで見た事がないような輝いた顔で笑っている。 なんで……? 2人とも…… ならなんで今まで…… 「御免ねルナちゃん。君達の事、大好きだから」 フリーダの声が聞こえた。 わかんない! バッと剣をかまえるルナ。 分かんないけどフリーダはミナセとヤる気満々らしい。 私は30人抑えなくちゃ。 なんかミナセにとってこれが神聖な一戦であるような気がする。 ミナセにとって大事な物は私にとっても大事な物。 私も死力を尽くす。 この世に絶対理解しなきゃならない事なんて少ないよ。 特に他人の事なんて……! 「……っこおおおお!」 ルナが体全身に気をこめる。 大気がビリビリと振動するような感覚をそこに居た者が覚える。 「うっひゃぁ! あのチビちゃん威圧感がダンチで上がってる!」 モアが声をあげる。 「フリーダ。久しぶりだな。なんでこんな所にいる?」 ジュペリが近くまで寄ってきたフリーダに言う。 「サボテン集めてたらこんな所まで来てしまったの。他意はありませんわ」 フリーダはそっけなく言う。 目下ミナセの事で頭がいっぱいらしい。 フリーダはイカレてる! ミナセもイカレてる! 面白い! 私もイカレてみよう! 「雑魚ども! 私が相手だ!」 ルナが声をあげる。 「馬っ鹿じゃないの!? アンタこの前負けたじゃない!」 モアが声をあげる。 「しかもこの前より条件悪いのよ。生意気なガキだわ……」 モアが鞭をかまえる。 「レッドラムは皆殺しだ……」 ジュペリも両腕を突き出す。 手に「ガラクタノカミサマ」が巻かれている。 「ミナセ! 愛してる!」 フリーダがよく通る声で言った。 「俺もだフリーダ!」 ミナセが返す。 ルナはあきらめて思考をシャットダウンした。 逝っくぞ〜! ビッ! 最初にルナが消えた。 速い! モアが左手で刀を抜く。 後ろ! 刀は空を切った。 ルナはその時にはもう目の前の上空にいた。 「ビィィーム! 紫極!」 完全にチャージしたビームサーベルの一撃。 モアは反応が追いつかない。 「てっ!」 ジュペリがワイヤー付きのマシンアームを咄嗟に飛ばす。 刀身を掴んだ。 「らあっ!」 一気に電流を流す。 ルナは咄嗟に刀を放す。 マシンアームに刀が奪い去られていった。 そこをクローンが一斉に襲う。 砂漠に着地するルナ。 サマーソルトキック! クローンが5体いっぺんに吹っ飛ぶ。 狼狽したジュペリの隙をついて刀を掴む。 間髪いれず電流を流したが遅かった。 刀を奪い去るルナ。 もうテレポンの能力が知られてしまった。 やはりまだ使い方に慣れていない。 というかこのチビ速すぎだ。 前も速かったが成長速度が尋常じゃない。 自分達も鍛えている筈なのに…… これが才能ってやつか? 天才じゃねえ。 超天才だ。 クローンはまったく相手にならない。 前より条件が悪いのはむしろこっちなのか…… でも初陣で負けられねえよ! 「っこおおおおお!」 ルナがまた気合を入れた。 ジュペリは汗を流す。 ガロアの言葉が蘇る。 世界制覇は俺達が思ってるよりずっと難しい……! フリーダとミナセはルナが戦っているところからかなり離れた所まで 併走して走っていった。 ミナセが止まるとフリーダも止まった。 「ふうっ……。お父さん、ルナちゃんは一人で大丈夫?」 「死んだらそこまでの奴だったって事さ」 ミナセが答えた。 「うふふ……鬼畜……大好きよ……ミナセ……」 フリーダが片手を天に掲げる。 袖口やポケットから気配が天に向けて放たれる。 それは大気中で増殖する。 テレポンだ。 「SHALL WE DANCE?」 フリーダは言った。 やばい……早く対処しねーと…… ミナセの眼が青く輝く。 大気がギュンと音を立てさらに遠くの雲までもがミナセのもとに一瞬で吸い寄せられる。 「はっ!」 一気に砂漠の上に湖のような量の水が出現した。 ミナセは邪宗門に両足を乗せてその上に浮遊している。 「スッゴイ!」 フリーダが嬌声をあげる。 ミナセは一抹の不安感を覚える。 こうつは本当に強いぞ…… 割と長く一緒に居て分かった。 俺とは違う…… ルナのような天才タイプだ。 努力せずに感性感覚が研ぎ澄まされている。 さあてどう料理するか…… ベッドの上では何度も料理したが…… 頭上に悪寒。 来る! 「カオスダイバー!」 無数の刃が天から降ってくる! 無数の糸で操作しているのはフリーダの指! これは…… 「水の道化師!」 水の塊が不定形に変わる。 全体から無数の鯉の形をした水が飛び出す! 「うおおおおおおお!」 バシャシャシャシャシャシャシャシャ! 鯉で刃を相殺する。 さらに水の膜を球形に自分の周りに張り巡らし二重のガードとする。 何発か弾幕をかいくぐった刃がバリアーに当たる。 凄い量だ。 雲が割と多くて良かった…… ってゆーかテレポンの相性がかなり良いな。 いや、凄く良い。最高だ。 例えば剣士ならナナミやヤマギワのクラスでもこの攻撃回数に対処できないぞ。 やっぱ俺は運は良いんだ。 器じゃないし。 「さっすが! じゃ次はこうだ!」 フリーダが言う。 刃物はキラキラ輝きながら整列する。 それは巨大な球形に変わっていく。 あれは…… やばい……! 「カオスソルジャー!」 球形の刃物の塊が一気にミナセに襲いかかる。 「ラーンナウェー!」 水を全部推進力に使って避ける。 塊はずっと追ってくる。 しかしミナセのスピードの方が速い! ふふふ……俺は俺の避けテクニックだけは人様にお見せできると踏んでるんだ! 誰にも避けでは負けねえ! 球体からビュンと刃物が数十個飛び出す。 「これでどうだ! カオスダイバー!」 塊で追いかけながらの頭上からの攻撃! 「避けテクニックの見せ所だ! 全部避けてやる! ひゃっほう!」 水で道を作りさらに水を噴出して推進力にして空中を縦横無尽に駆け巡る! それはまるでゴキジェットから逃げ回るゴキブリの様相を呈した。 フリーダは眼を爛々と輝かせた。 やっぱミナセは凄い! 「ハハハハハァッ!」 ミナセの声が響いた。 私と踊れるのはやはり…… ミナセしかいない! 私の目に狂いは無かった! 奥の奥まで踊りつくすんだ! おれが私の人生の妙味! 天国の門! 成仏させて! 昇天させて! お願いミナセ! フリーダの眼が白く輝いた。