フォルテシモ第六十二話「依存」 



月の砂漠。 
戦車の残骸以外何も見当たらない。 
ルナとネプトが今日も向き合っている。 
ネプトの荒い息が聞こえる。 
今日も劣勢のようだ。 
というか今まで優勢だった事など無いが。 
ルナは目の前の少年を無視して考える。 
私の幸せって何だろう? 
目標はさ、ミナセと同じ景色を見る事なんだ。 
分かるよね。 
同じくらい強くないと、 
同じくらい経験しないと、 
同じくらい哀しまないと、 
同じくらい考えないと、 
同じ物見てても見え方が違うんだ。 
ミナセもまだまだ強くなってる。 
私は当然のようにミナセより速く強くならないといけない。 
そう。成長の速度。 
その点で、私は目の前の自分より年の小さい男に劣っているな。 
まぁ、それは置いておこう。 
ミナセみたいに強くなる事が目標? 
なんで? 
ミナセに近づく事が気持ち良いから。 
何故だかはよく分からない。 
皆そんな何となくで生きてるよね。 
それは別に恥じなくても良いと思うけど…… 
それって依存だよね。 
ミナセがいなくなった時、私って一体何なんだろう? 
ミナセがいなくなったら気持ち良いって感じる事もなくなるよね。 
中途半端な剣力だけ残って、 
私はきっと抜け殻のようになるだろう。 
私はそれが……怖い? 
実感湧かないんだ。本当の所。 
でも準備しないとって気だけ焦るんだ。 
どうして? 
依存は心の弱さに端を発しているから。 
うん。弱いのって気持ち悪いよね。 
そんな事を考えながらルナはネプトを剣先であしらっている。 
ネプトの眼が緑色に輝き猛獣のように唸っている。 
思考がダイブしてルナの集中力は衰えるかと思われたが別にそうでもない。 
思考は外部の状況とリンクしている。 





そうだ。 
私は…… 
こいつとなら手をとり合って一緒に強くなれるんじゃないかって思ってる…… 
変な奴なんだこいつ。 
ミナセに似てる。 
まるで鏡を見ているよう。 
こんなに人に関心を持ったのミナセ以外で初めてなんだ。 
でも新しくこいつに依存するだけになるんじゃないかな。結果的に。 
それで良いのかな。 
色んな人にバランスよく依存して、人は生きていくのかな。 
それが正常。 
中核のシステムを守るための…… 
剣で吹っ飛ばしたネプトの緑の輝きが増す。 
一気にプレッシャーが押し寄せる。 
来るっ! 
「竜宮の使いの章! ステム! バースト!」 
右腕の竜宮の使いの頭から緑の閃光を迸らせながら刀が射出される。 
速い! 
ルナは咄嗟に刀を上段にかまえる。 
「紫極!」 

ゴシュッ! 

緑の閃光と紫の閃光が交差する。 
かなりの圧力をルナは感じる。 
こっちの奥義出しても簡単にさばけなくなった! 
「はぁっ!」 

ガキィン! 

刀を弾くルナ。 
緑の閃光を失い刀は回転しながら砂に突き刺さった。 
後ろにプレッシャー。 
もう今ので決まらない事は予測されてる。 
さすがやられ慣れてるな…… 
「はっ!」 
後ろを振り返らずにルナは刀でネプトの攻撃を防ぐ。 
もう生えてきた竜宮の使いの章の刀による攻撃だった。 





「うおおおおおお!」 

ガガガガガガガガガ! 

ネプトの連撃! 
ルナは別の事を考えずに対処する。 
随分ましになったね…… 
勝負になってる…… 
勝負になるんだよ……! 
ルナの中にめらめらと何かの感情が燃え上がる。 
何だこれは? 
私の知らない何か…… 
「はっ!」 
一瞬の隙を突いてネプトの腹に掌底を一撃! 
吹っ飛ぶネプト。 
間髪いれず飛び出すルナ。 
ほら。もう際の際を作れる。 
どうする? 
進化するんだろ? 
あんたの才覚が。 
憎たらしい奴だ。 
ネプトの眼が緑に輝く。 
竜宮の使いの頭から赤と黄色の帯状の構造が伸びてルナの足に絡む。 
やろう! 
ルナは自分で自分の絡まれた足を切断した。 
眼を見開くネプト。 

ドスッ! 

ネプトは砂漠に仰向けに倒れている。 
右頬の横にルナの刀が刺さっている。 
ルナも体勢を崩してネプトに覆いかぶさっている。 
右頬から、血が流れた。 
「やるじゃん」 
ルナが言う。 
「でも私の勝ち。何勝目かな?100勝くらい?」 
「113勝目だ」 
ネプトが答える。 
「器じゃねえよ。勝てるわけねえよ」 
ネプトが砂と喋っている。 
馬鹿だな…… 
ルナはネプトに見られないように柔和に笑った。 
この世界、また少し好きになれそうだ…… 
ルナはそんな予感がした。 
「器じゃねええええよおおおお!」 
ネプトが満月に向かって吼えていた。 





ネプトは泣いている…… 
いくら器じゃない器じゃないと喚いても、 
舞台の方がネプトが踊らない事を許さない。 

その次の日。 
ルナは久しぶりにミナセと行動を共にし街に出た。 
好きな物買える範囲で買って良いと言われて街で別行動。 
ルナとミナセは別れた。 
ミナセはあても無くぷらぷら歩いていると 
ゴミ箱の上に大きな鳥のような物体が乗っているのを見つける。 
異様な臭気と殺気を放っている。 
こいつは…… 
「よおミナセ。久しぶりだな」 
物体は顔を見せる。 
ヒマツリ・カンジだった。 
「ちょ……おま……!」 
ミナセはあとずさる。 
「何だよそのリアクション」 
カンジは不満げに言った。 
「生きてたのか!?」 
ミナセは素っ頓狂な声をあげる。 
「そこからか。ああ。ごあいにくさま。ライマもユアイも 
 あとヨナタンもキタテハもリュイシュンも生きてるよ。多分」 
ミナセはほへーとか言ってカンジをマジマジと見つめる。 
「5年間何してた?」 
カンジが聞く。 
「子育て」 
カンジが噴出す。 
「意味がわからねえよ。さっきのチビナナミの事か?」 
「そうそう」 
カンジが神妙な顔になる。 
「えーっと……誰の子だ?」 
「俺とナナミの」 
カンジがひゃははと声をあげて5分くらい笑った。 
唾が飛び散ったのでミナセは顔をハンカチで拭く。 
「どういう事だよ! 詳しく説明しろ!」 
「えーっとね……」 
ミナセは一思案する。 
なんか言いにくかったがしょうがない。 
ミナセは腹を決める。