フォルテシモ第五十四話「各人思う所」 「よっしゃー! 逝くぞ! あのチビ今日こそ殺してやる!」 「ねえバルトーク。発言が弱そうよ」 「俺はアフリカで会った爆発使いが気になる」 わらわらとスカイクロラ達が廊下を歩いている。 テレーゼとウィンダムとアシモがすれ違う。 「ジュペリ君。ちょっと来てくれる?」 テレーゼが呼び止める。 「あっ。はいっ」 ジュペリが立ち止まる。 テレーゼがニッコリと笑う。 「ぷー」 モアは膨れっ面だ。 「貴方達は先に行っててよ。ちょっとかかるから」 テレーゼが行った。 「かどわかされるなよー」 モアは行ってきびすを返した。 ジュペリが3人について廊下を歩いていく。 少し大きな空間に出る。 テレポンの工場だ。 銀色に光る自動テレポン作製機械がせわしく動いている。 テレーゼが近くの机に置いてあった銀色の筒を二つ持ってきてジュペリに持たせる。 「何すかこれ」 ジュペリは筒を弄ぶ。 「腕にはめんのよ。はめてみな。そしたら脳に直接使い方が送られる」 ジュペリはテレポンを腕にはめた。 言われたとおりそれが何なのか瞬時に分かった。 電気使い。 そこからマシンアームが伸びて相手をつかみ電流を流す。 ちょっと格好悪いと思ったが…… 「ようジュペ公。お前、いつまでアマントの言いなりになってるつもりだ?」 ウィンダムがふいに言った。 面食らうジュペリ。 テレーゼがつかつか歩いていってコツンとウィンダムを殴る。 ジュペリは不甲斐ない表情をして自分の首を触る。 「あん……ご存知の通り俺らの中には爆弾が仕込まれてます。 スイッチはアマントが持ってて……裏切れませんよ。常識的に」 「当たり前でしょウィンダム」 ウィンダムはニヤッと笑った。 「気概の問題だよ。ちゃんと学校通ってても心は不登校児ってね」 テレーゼはふんと鼻で笑う。 ジュペリは愛想笑いする。 「ガロアとかはそういう事も考えてるかな……。 力を持ってるアリスは逆に何も考えてなさそうです。俺達、田舎者だから…… 言い訳かな……」 「会話は筒抜けなのよ。アンタ、消されるよ?」 テレーゼが釘をさす。 「そんな事ありえないって分かってらっしゃるくせに。俺、有能だから。 代わりなんていませんよ」 ウィンダムはケラケラ笑った。 耳のピアスの数がだんだん増えている。 テレーゼはため息をつく。 ジュペリは礼して出て行った。 「ウィンダム。アンタ不良もたいがいにしときなさいよ」 テレーゼが言う。 ウィンダムはケッと笑う。 「心まで自由にされる気はねっス。俺が上司と認めてんのはアンタだけだから」 ウィンダムはハッキリした調子で言った。 ウィンダムは立ち上がりテレーゼと向き合う。 そして口を耳元に持っていく。 「俺が最後までついていくのはアンタだけだ。もしお望みとあらば……」 テレーゼがキツい表情になる。 「その先は言うな」 厳しく言い放った。 そしてきびすを返して出口に向かう。 アシモがオロオロしている。 まったくどいつもこいつもままならねー。 テレーゼは思った。 こいつらには感謝してるんだけどね。 こいつらいなかったら私は…… テレーゼは振り返る。 アシモが柔和に笑っている。 ウィンダムがいたずらした子供のようにニヤニヤ笑っている。 上目遣いだ。 テレーゼもふっと笑った。 私はいつも土壇場の状態で運が良くなる。 5年前も生き残れたし。 こいつらが居れば…… まだまだ死なないよ。ネプト! そして…… おっと。 その先は思わないでおこう。 テレーゼは出口から出て行った。 ガロアとオセロが空を飛んでいる。 アフリカの新たな基地を作るために街を排除しに行っているのだ。 ガロアはめきめき力をつけ隊のリーダーとして認められた。 オセロはサポート役。 まぁ、ゆくゆくはオリジナルのスカイクロラ全員が隊長になる筈なのだが。 クローンの群れ30体は編隊を組んで飛行している。 オセロはガロアの顔を盗み見る。 また難解な数式を考えているのだろうか。 何処でもない所を見ている。 「ガロア……何考えてるの……?」 オセロは聞いた。 ガロアははっと気がついたようにオセロの方を向く。 数秒まじまじとオセロの顔を見つめる。 「あ……爆発野郎の事……」 オセロの予想しなかった答えだった。 爆発野郎とは先日遭遇したアフリカの爆発型のテレポンを使うレッドラムの事。 一瞬、目の前に現れただけですぐ消えてしまった。 つまり物凄い速度を持っているレッドラムだ。 姿は夜だったためうまく確認できなかった。 どうやら二人連れらしい事は分かったが…… しかしガロアがレッドラムの事考えてたなんて意外だった。 数学の事しか考えない人だと思ってたのに。 数学の事しか考えられない脳持ってると思ってたのに。 もしかしたら他の事も考えられる脳なのかな…… オセロの中に疑念が生じる。 「ねっ。じゃあガロア、今ドキドキしてるの?」 聞いてみる。 この朴念仁に感情はあるのだろうか。 数十秒沈黙が流れた。 「そうだな……変だな……俺、ワクワクしてるよ」 ガロアは言う。 やっぱ朴念仁か? オセロは思う。 「変だよな……俺こんな奴じゃなかったのに…… ジュペリもモアも自分も変わったと言っていた……俺もそうなのか?」 ガロアはあごに手を持っていく。 「お前も何か変わったか……?」 ガロアが聞く。 オセロは自分に指を向ける。 「私? 変わったよ……。例えばね……」 「例えば?」 「教えなぁい」 オセロは笑った。 ガロアは釈然としない表情だ。 本当に分からないの? 朴念仁だな…… オセロは理由なく面白かった。 閉塞された未来。 それでも楽しい事は、 きっとある? ミナセとルナが食卓でカレーを食べている。 作ったのは台所にいるフリーダ。 「美味しいようフリーダさん。完敗」 ルナが声をあげた。 「うふふ……有難うルナちゃん」 フリーダは笑っている。 最初にルナ見せた時はわずかにリアクションしてくれたな、フリーダは。 ミナセは思う。 まぁ、結局似たもの同士だから。 世界で一人だけかもしれない同類だから。 簡単に手放せないんだろう。 俺はそれに甘えている。 別にそれで悪いって言ってるんじゃないが。 ルナも俺達の関係には気付いているみたいだ。 悪いな。 成長の妨げになるだろうな。 しかし止められないんだこういうのは。 馬鹿な親父で御免。 ミナセはスプーンを置いて一息つく。 頭を少し切り替える。 新興のスカイクロラ。 その傘下のフリーダ。 自分もうかうかしてられないとようやく思い始めた。 修行だ。 修行しなければ。 昔の心を取り戻せ。 そうだ。 本当、うかうかしてると対面のルナにも負けかねない。 俺ってば究極的に器じゃないからな。 器じゃない。 器じゃない。 ははっ。やっぱ良い言葉だな。 さすが俺。 世界に広めたいね。 器じゃない。 皆皆器じゃなぁーい。 はははは……ははは…… ルナは嫌いなんだよなこの言葉…… どう考えても母様に似たんだよな常識的に考えて…… 良かった……心底良かった…… 俺に似なくて本当に良かった…… 俺みたいな奴生きててもろくな人生送れないよ…… 俺はこれ以上遺伝子ばらまくのは罪だ…… フリーダともほどほどにしとこう…… そうそうルナは毎晩朝まで修行に出て行くからアレなんだ。 幸運だった。 ゲフンゲフン。 まぁ、ねぇ。 元気に長生きしましょうよ。 その為に修行しなきゃな…… フリーダがミナセの方を盗み見てニコッと笑った。 「まだまだだネプトー! 火取玉ー!」 「ギャー! 死にますよ俺! 器じゃないですしー!」 カンジとネプトの修行の旅は続いていた。