フォルテシモ第五十三話「これも修行の一環だ」 



ロシア。 
とある研究所。 
傭兵レッドラム十数体による厳重な警戒態勢がしかれている。 
世界が変わり人間の天下になりレッドラムはもっぱら傭兵などになり 
人間の傘下に入っているのだ。 
それ以外は野放しの野盗など…… 
はたまたミナセ達のように種の再起を虎視眈々と狙う者など…… 
それはさておきカンジとネプトは岩陰に隠れてその大きな研究所を 
盗み見ている。 
狙っているのはその研究所に保管されているという情報の新テレポン 
「アナスタシア」。 
どうやらアリスに破壊された「サウダージ」と同系統のテレポンらしい。 
スカイクロラ達とのリベンジマッチにどうしても必要な物だ。 
カンジは眼をキラキラさせている。 
子供のようだ。 
見ているネプトは完全に子供だが。 
レッドラム達はまだこちらに気付いていない。 
「ネプト。作戦Zだ。俺はその隙にアナスタシア取ってくる」 
カンジがニヤッと笑って言う。 
「俺は何をするんすか?」 
ネプトは心配だ。 
「突撃あるのみだ」 
と…… 
瞬間、ネプトは尻に強烈な蹴りを喰らった。 
空を飛び、研究所の門が近づいてくる。 
そんな…… 
これは…… 
囮作戦じゃないか……! 
レッドラム達が気付いて銃で発砲してくる。 
テレポン持ってないのが救いか…… 
こっちは母上お墨付きの最強のテレポンを持ってる。 
俺の成長に合わせて一緒に成長するという最強のテレポンを…… 
母上は嘘をつかない。 
その真価はいまだにネプトにも分からなかったがその複雑性はなんとなく理解できた。 
そうだ。 
道具も人間も複雑なほど強いんだ。 
母上が何回か言ってた。 
俺は器小さいけど、 
母上がいるなら…… 
「うおおおおおお! 魚眠洞! 飛魚の章!」 
ネプトに左右に3つずつ緑の光の翼ができる。 
空を自由に飛んで銃弾を避けまくる。 
俺は……逃げる! 
研究所と逆方向に飛んで逃げるネプト。 



レッドラムのほとんどがネプトを追ってくる。 
戦闘狂ばかりで単細胞が多いのがレッドラムの悪い所だ。 
このまま逃げ切ったらさすがに役割の放棄だ。 
カンジさんは俺に囮になってほしいわけだから…… 
まぁ、いいや! 
戦おう! 
器じゃないけどテレポンがあれば少しはやれるだろう! 
ネプトは翼を消して降り立つ。 
逝くか! 
右腕に力を込める。 
青い眼の魚の紋章が浮きで、さらに腕の形状が変わる。 
その形は……腕とほぼ同じ太さの銃。 
ネプトがニヤリと笑う。 
カンジさんとの修行中に発現した新たな能力だ。 
レッドラムが数人追いついてくる。 
すかさず銃口を向けるネプト。 
「魚眠洞! 裸鰯の章!」 

バババババババババババババババババババ! 

青い眼をした光る魚の群れが銃口から射出される。 
眼をむく追っ手達。 
岩の陰に急いで避難するが数人体を撃ち抜かれる。 
しかしそれでひるむレッドラムではない。 
まだまだ威力不足だ。 
完全に戦闘不能になった者は一人もいない。 
ほうほうのていで皆岩陰に隠れる。 
時間稼ぎにしかならないか…… 
しかし今の俺の役目は時間稼ぎだ!オーライ! 
撃ちまくるネプト。 
ポーンと手榴弾が飛んでくるがそれも撃ち抜く。 
爆発が起こり噴煙が視界をさえぎる。 
それに紛れて二人レッドラムが突撃してくる。 
ネプトは左手に力を込める。 
ネプトは両利きなのだ。 
左腕の形が変わり邪悪な何かの頭の形になる。 
それはリュウグウノツカイだ。 
そしてその口から日本刀が飛び出してくる。 
刀身が緑に輝く。 
「魚眠洞! 竜宮の使いの章!」 
折って二人も刀で攻撃してくる。 
両方向からの攻撃を銃と刀で受ける。 
「熱くなれ!」 
緑の光が増す。 
ネプトの刀に触れていた刀が溶け出す。 
狼狽する傭兵。 
銃で片方の追っ手をふっとばし銃をもう片方に撃ちつける。 



蜂の巣になる追っ手。 
頭に致命傷を負い機能停止する追っ手。 
「テメエエ!」 
もう一方の追っ手が激昂する。 
躊躇なく銃弾を撃ち込むネプト。 
こちらも蜂の巣になり機能停止する。 
わっと追っ手が岩陰から飛び出す。 
一対一では勝負にならない事を悟ったらしい。 
ごちゃごちゃに攻めてくる。 
傭兵なら適当に仕事すりゃ良いのに…… 
マジメな人多いんだよねレッドラムって…… 
「飛魚の章!」 
また飛び上がるネプト。 
早くしてくれよカンジさん…… 
俺、器じゃないからもたないよ…… 
その時、黒服黒髪の青い眼をしたレッドラムがのらのら歩いてくる。 
男だ。 
手に弓矢を持っている。 
「サジタリウス……」 
男は呟く。 
弓矢の超連撃。 
矢をつがえる手の動きが速くて見えない。 
どうやら隊長格のようだ。 
ネプトは避けるのに必死になる。 
あれはテレポンだ……! 
当たったらヤバい……! 
「フゥハハハハハァー!」 
男が叫ぶ。 
さらに矢の数が多くなる。 
なんでだよ! 
なんでこんな目に遭わなきゃなんだよ! 
カンジさん! 
なんで!? 
最低だ俺の人生! 
器じゃなかったんだやっぱ! 
カンジさん! 
俺はカンジさんにはなれない…… 
次の瞬間、辺りが真っ赤な光で染まる。 
音がなくなる。 
メラメラと高い音が現れる。 
ネプトは振り向く。 
後ろに巨大な火の鳥が浮遊していた。 
これは……アナスタシア? 
あたり一面を赤い光が覆いつくしている。 
温かい…… 
なんだこれ…… 
テレポンなのに…… 
「待たせたなネプト! てめえらよくも俺の弟子をいたぶってくれたな!」 
カンジの声が轟く。 
火の鳥が大きく動き出す。 
その眼がさらに赤く輝く。 
黒服の男が狼狽する。 
「サジタリウス!」 


矢の連続攻撃。 
「温いぜ! アナスタシア! ファイアー!」 
火の鳥の口から炎の濁流が放出される。 
矢は焼けきって消えた。 
追っ手達が濁流に飲まれていく。 
ネプトはカンジの所に飛んでいく。 




炎の中は温かい。 
ネプトだけ熱さを感じないようにカンジが調節しているようだ。 
もうアナスタシアを使いこなしている。 
「これであの腐れとも五分に戦えようぞ」 
カンジが呟いた。 
追って達は黒焦げになって死んだ。 
しかし次の追っ手が研究所からわらわらと出てくる。 
警報が鳴っている。 
逃げた方が良さそうだ。 
「飛んでいくぞネプト。よくやってくれた」 
カンジが言った。 
ああ、 
やっぱこの人良いや。 
ネプトは思った。 
火の鳥は大きく羽ばたいてさらに浮上した。 
天を目指して 
夜の彼方に 
俺達は 
どこまででも行ける。 
ネプトは思った。 

ビュン! 

火の鳥は月めがけて彼方に飛んでいった。