フォルテシモ第四十七話「隔たれた2人」 ミナセはフリーダと名乗った女の全体をまじまじと見つめる。 おかしいな……なんか懐かしいような…… フリーダはそんなミナセをよそに片足を上げる動作をした。 ニコリと微笑む。 底知れない奥行きが感じられた。 これは……この感じは…… 同じような経験を共有してきた証か…… 「君も……レッドラムだね……」 ミナセは言った。 フリーダはキョトンとする。 「どうしてお分かりになったの?」 フリーダは尋ねる。 「細胞と遺伝子が俺と似てるから」 ミナセは言った。 何だそりゃ。 自分で自分に突っ込みをいれる。 フリーダが笑顔になる。 「あなたもレッドラムですのね。お強そうだわ」 ミナセが動揺してブンブン頭を振る。 「滅相も無い。俺なんかまだまだヒヨッコで……」 フリーダがきゃらきゃら笑った。 そしてバリアのあるらしき部分に手を触れる。 バチッと音がする。 フリーダの手が焼け焦げる。 「危ないよ」 ミナセは慌てて制止する。 フリーダはバリアにつかないスレスレの所で手を広げる。 「ああ、最低」 フリーダは呟く。 何言ってるんだろう。 ミナセはいぶかしがる。 「サボテンが好きなんだ?」 「ええ。生き様に憧れますわ」 フリーダは月を見ながら言った。 生き様……?サボテンの……? やっぱ変わった娘だな…… ミナセは思う。 「サボテンは私と似ていますの。私もCAM植物ですわ」 余計分からなくなった。 「俺は……」 ミナセは邪宗門でふわふわ浮かぶ水の球体を作る。 フリーダが目を丸くする。 「この通り水使いだから……サボテンとは少し違うかな」 通じるかな? 通じてくれ。 「正反対の物って逆に似ていると思いませんか?」 フリーダは目を見開いたままミナセに顔を近づける。 あんまり近づきすぎるとバリアが…… ……と思ったが声にならない。 綺麗だ…… もっと近くで見たい…… ミナセも顔を近づける。 「右目……なんで隠してらっしゃるの?」 フリーダが問う。 ミナセはこの質問には動じない。 「無いんだよ。髪かきあげても真っ黒だ」 フリーダはほっほうと顎に手を持っていく。 「影がおありなのね……」 なんか違わないか…… フリーダはただただニコニコしている。 「前、どっかで会った事なかったっけ」 ミナセは問う。 何この常套句。 最低だぞ。おい。 フリーダは後ろをくるりと向いて少し考え込む。 「私もさっきからそんな気がしてましたの」 フリーダは言った。 どんな顔して言ってるんだろう。 ミナセは気になった。 フリーダがくるりと正面を向く。 「綺麗な青色……」 フリーダが呟く。 ミナセが狼狽する。 「な……なんで分かった?」 「うふふ……あなたの後ろに青い化け物が見えますわ。 私の後ろには何も見えませんこと?」 ミナセはそう言われてみてフリーダの後ろを目をこらして見る。 しかし何も見えてこない。 当たり前だ…… フリーダはニコニコ笑っている。 「その青い化け物はどんなヤツなの?」 ミナセは尋ねる。 フリーダはニコニコ笑いながら上を向く。 「心に凄く大きな傷を負っているの。そして顔がいくつもあるわ。 100個くらいあるかも。ギョロッとした目で争いが嫌いな野心家ね。 ずるい所もあるかもしれない。まだ大人になりきれていない子供かもね。 とにかく青くてでも眼は黄色いんだ。気持ち悪い配色ですわ。 でも素敵。夢があって何処まででも歩いていけれるような…… 化け物にも色々あって可愛くない化け物だと思いますわ。 でも可愛い化け物なんてそもそも役割の放棄だと私は思いますわ。 だから良い化け物なの。私はそう思いますわ」 ミナセは呆れて物が言えなかった。 何言ってるんだこの娘。 なんかずいぶん自分がこき下ろされたような気がした。 不思議と腹は立たないが…… 俺もはたから見たらこんな感じなのかなと考えさせられる。 「いつかあなたと一緒に踊ってみたいわ」 フリーダは言った。 ミナセはいきなりの事でキョトンとする。 「お……俺、踊り方分からないよ」 ミナセは言う。 フリーダはクスッと笑う。 「踊りなんて誰でも踊れますわ。誰と踊るかが問題ですの」 フリーダは言って月に照らされながら踊りだした。 トン トン トトン トン ミナセはまたしても魅了される。 足の運び。空を舞う掌。 綺麗だ…… ミナセは頭がボーッとしてきた。 すると不思議とフリーダの後ろに真っ白い生き物が見えてきた。 それは頭から日本刀のような構造を突き出した醜い顔だけの獣だった。 顔は人間のものに似ている。 スゲエ……本当だったんだ…… ミナセは驚嘆する。 フリーダがピタリとつま先立ちになって止まる。 「どう? 見えた?」 フリーダが言う。 「見えたよ。凄い」 ミナセは頷いた。 フリーダの笑顔がパッと一段明るくなる。 「悪くないでしょ」 「うん、悪くない」 フリーダはまたくるっと後ろを向く。 「この壁、私達を試してるの?」 フリーダは呟いた。 ミナセの心臓が大きく脈打つ。 今、俺の全ての力を使ってこの障壁を取り去りたいと思った。 こんなチャンス、 同類に出会えるチャンスめったに無いんだ! 俺は、今この時のために…… 生きてきた! 「熱くならないで……」 フリーダが振り向いて言った。 そんな事まで分かるのか。 これは超能力ではない。 超感覚だ。 ミナセは理解する。 この人は歴戦の強者だ…… そして俺とよく似ている…… フリーダがまたバリアすれすれで手を広げてミナセの眼をじっと見る。 「私が何とかする……絶対……あなたに直接会いたい。直に……」 いきなりの急展開だ。 ミナセの胸が早鐘のように鳴り出す。 なんでだろう。 なんなんだろう。 この胸の高鳴りは。 俺は……この娘に…… 「分かった。俺も君と直に会いたい。明日も同じ時間に待ってるから」 ミナセは言った。 フリーダはニコッと笑う。 「最後の青。不惑の白」 くるっと後ろを振り向いてフリーダは呟いた。 「いずれ、一緒に、踊る、運命?」 そんな声が聞こえた。 わけ分からない娘だ。 しかしキラキラ光って正視できないんだ。 ミナセは思った。 ミナセも振り向いてその場を後にする。 ポケットに手を突っ込んで月を見上げた。 「まだまだ遠いな……」 ミナセは呟いた。 スカイクロラのガブリエルがバリアの外を飛んでいる。 前方に紫の光が煌く。 双眼鏡を取り出して見やる。 黒服の小さな人影。 ビョウドウイン・ミナセと一緒に居たガキだ。 剣の修行をしているらしい。 「はぁっ……はぁっ……あと十匹……」 足元にツバメの死体が散らばっている。 いつかは……ツバメ使わないイメージトレーニングできるようになったら良いな。 ルナは考える。 新必殺技「紫極」。 まだ完成度は60パーセントってところか。 まだスカイクロラの連中にお披露目するには力不足かな…… ルナは思う。 できれば実戦がしたい。 前の戦いで実戦から学べる事が山のようにある事がよく分かった。 ガブリエルは空の闇に紛れてルナを静観する。 バルトークがアイツは雑魚だと言っていたが本当にそうなのだろうか。 いい剣を振っているように見える。 むくむくと一対一で手合わせしたい気持ちが湧いてくる。 そうだ。 皆には教えない事にしよう。 巡回の仕事はむこう一ヶ月は確実のガブリエルの役目であるし 手ごろな強さに成長した頃に戦おう。 ミナセには歯が立たないだろうが離れた所で修行しているみたいだし大丈夫だろう。 明日も明後日も同じ場所で修行しているだろうと思った。 俺の獲物だ。 ガブリエルは思ってその場を後にした。 「はぁっ……はぁっ……早く……ミナセの所へ……」 ルナは呟いた。