フォルテシモ第四十三話「初顔合わせ」 




ミナセはくねる水の蛇の上に邪宗門で乗ってその上に立っている。 
右手を眼の上にかざしスカイクロラ達を品定めしているようだ。 
ジュペリが目配せしてバルトークとモアがルナの方へ、 
ジュペリとアマデウスとオセロとガブリエルはミナセの方に体を向ける。 
「ふん。悪くない配分だ」 
ミナセが言う。 
「逝くぞ!」 
ジュペリが号令する。 
6人で2人に飛びかかる。 
バルトークは手の衣服の裾からから一メートルほどの金属の爪を伸ばす。 
初撃を日本刀で受けるルナ。 
「良い反応じゃんオジョウチャン。末恐ろしいね。今日で終わりだが」 
バルトークは距離をとって軽口を叩いた。 
ルナの頭にカッと血がのぼる。 
駄目だ!こんなんじゃ! 
いつもミナセが言うようにCOOLにしなきゃ! 
ルナは脳内で自分を叱咤する。 
足元に悪寒。 
「ちっ!」 
瞬間的に飛んで何かを避けるルナ。 
ピンク髪のモアが鞭を持っている。 
それによる攻撃だったようだ。 
「嘘でしょ? 本当に子供?」 
モアは多少狼狽してる。 
「舐めんなよモア。そういう事言うレベルはもう過ぎてる」 
バルトークが言う。 
ルナの心臓がバクバクと脈打つ。 
避けれたけど……こいつら強い! 
冷静さを欠いたら有る勝機も無くなっちまう。 
脳内でミナセの声が響き頭に冷水をかけられたような気分になる。 
ルナは思わずして微笑む。 
面白い……。 
「何がおかしいんだよジョウチャン。可愛くねえな」 
バルトークが言った。 

ミナセは昼間にルナと戦った時と同じように体に巻きつけた水の蛇を操作して 
最小限の動きでスカイクロラ4人の攻撃を避けている。 
ジュペリは焦りを感じていた。 
こいつの洗練された動き…… 
やはり並みの手練ではない……! 
右からきた攻撃は左へ…… 
左からきた攻撃は右へ…… 
上からは……下からは…… 
ほら。世界はこんなにも単純だ。 
寡黙な女オセロの額にも汗が浮かぶ。 
一体何なんだコイツは! 
4人ともが思った。 
「なかなか良い動きするね君達。どこ出身?」 
ミナセが言った。 
「ひぇひぇひぇ……」 
ガブリエルが笑った。 
彼も汗だくになっている。 



笑いたくなる気持ちは分かる。 
「これから死ぬ奴に教える気はねえ!」 
ジュペリが言い切った。 
ミナセが不気味にニターッと笑った。 
「あっそう。じゃそろそろこっちから行くよ。水龍公司だ」 
ミナセが言う。 
同時に水の蛇がブクブクと泡立ち一気に巨大化する。 
それは巨大な龍の形をかたどった。 
いつの間にかミナセの姿が消えている。 
「撃ちまくれ! サジタリウスだ!」 
4人で弓矢をかまえ撃ちまくる。 
水の龍の撃たれた部分は破壊されたがすぐに修復してしまう。 
ミナセ本人に当たった形跡もない。 
龍は凄い勢いで4人に向かってきた。 
避けきれずぶつかられ吹き飛ばされる4人。 
「まだまだぁ!」 
龍の中からミナセが現れる。 
龍は無数の水球になる。 
「水の道化師!」 
水球がある物はそのまま、ある物は水の刃となり4人に向かっていく。 
水の超連激だ。 
「うわああああああ!」 
本気で避けまくる4人。 
周囲を取り囲まれなす術もなく切り刻まれていく。 
駄目だ……こいつには……まだ勝てない…… 
ジュペリは思った。 

「いってぇぇぇ!」 
バルトークの左腕がルナの斬撃によってぶった切られた。 
「や……やった……」 
ルナは呟く。 
ルナも頬を何箇所か切られている。 
心臓の鼓動は激しくなるばかりだ。 
のどが渇いた…… 
早く……ぶっ倒れたい…… 
モアも今は最高の本気モードだ。 
その眼がピンク色に輝いている。 
一分の隙も無い。 
スカイクロラは通常のレッドラムより多少自己修復速度が劣るが 
バルトークの腕はルナが手をこまねいている間に修復されてしまった。 
攻めるべきだった…… 
ルナは後から思った。 
まだ攻撃の機微がよく分かっていないようだと自己分析した。 
「よくもやってくれたなガキ。本気でいくぞ俺も」 
バルトークの眼が茶色に輝き服のポケットから何かを取り出す。 
何かの民族の面のようだった。 
呪術的なカラフルな文様が施されている。 
バルトークは音をたてずゆっくりした動作でそれを顔につける。 
「逝くぜ……棒の踊り……」 
バルトークは呟いた。 




大気が急に圧力を増す。 
ルナには瞬間バルトークの姿が三体にブレたように見えた。 
それが最終的に8体に分かれルナを取り囲む。 
急にスピードが増したんだ。コレは残像……! 
ルナが理解した瞬間頬から血が噴出した。 
「痛っ……」 
ルナは瞬間的に跳躍する。 
八体のバルトークは飛んで追ってくる。 
「あっ!」 
頂点まで飛んだ瞬間足に何かが巻きついた。 
モアの鞭だ。 
「ビリビリー!」 
モアが叫ぶ。 
鞭から電撃がルナの体に流れる。 
「うああああああああ!」 
体がブレる。激しい衝撃と痛みがルナを襲う。 
バルトークは手を出さずにルナと共に自由落下した。 
大地に叩きつけられるルナ。 
電撃が切れる。 
くそっ……! 
一対一なら絶対負けなかったのに……! 
ルナの脳裏にそんな考えがよぎる。 
もう負けを悟ったのか? 
ミナセの声が頭の中で響く。 
「終わりだチビ。棒の踊り……終局……!」 
バルトークの16個のクローがルナに迫る。 

ドバシュ! 

一瞬で水の刃がバルトークとモアを切り刻み吹っ飛ばす。 
水の龍の上で邪宗門に乗ったミナセが攻撃したのだ。 
「若造! よくも俺の可愛いルナを傷物にしたな!」 
ミナセが叫ぶ。 
ジュペリ、ガブリエル、アマデウス、オセロは腕や腹を押さえて 
苦悶の表情を浮かべて這い蹲っている。 
ジュペリがバルトークに目配せする。 
「俺達の今回の目的は塵掃除だ。化け物の相手する事じゃない……撤退だ!」 
ジュペリが苦しそうに声を吐いた。 
「ちぃっ! 命拾いしたなチビ!」 
バルトークは地面に膝をついて苦しそうにしているルナに吐き捨ててミナセを睨みつけた。 
「お前らの余生は短いぜ……せいぜい安穏と暮らすが良いぜ!」 
バルトークは吐き捨てて飛び去った。 
「バァイ鬼太郎兄さん! また近いうち遊びましょ!」 
モアも行って飛び立つ。 
アマデウス、オセロ、ガブリエルと順々に飛び立つ。 
最後にジュペリが残る。 
「アンタ、名は?」 
ジュペリがミナセに尋ねる。 
ミナセはジュペリの眼をしげしげとしばらく見つめる。 
澄んだ良い眼をしている。 
ミナセは思った。 



「ビョウドウイン・ミナセだ。兄ちゃん。人殺しなんてろくなもんじゃないぜ。 
 帰ってよく考えてみてくれ。お前らが本当に悪い奴に見えないから今回は  
 見逃してやるんだぜ?」 
ミナセが行った。 
ジュペリはちょっとした狼狽を見せる。 
「くっ……!」 
下を向いて声にならない声をあげた。 
「俺達はあんた等とは違う。負け犬にはならない。負け組にはならない。 
 その為なら何だってする外道だ。俺らに何か期待するのはやめとけよ。 
 アンタは必ず今日俺達を殺さなかった事を後悔する……必ずだ!」 
ジュペリは吐き捨てて飛び立った。 
ミナセはそれを見送る。 
哀しそうな眼だった。 
その眼は多分、昔の自分達を見ている。 
人間、自分の事しか考えないものだもんな。 
俺は昔の、今の自分を見ていたんだ。 
ミナセは自分でそう思った。 
「うっ……うっ……」 
足元で苦しそうな声が聞こえる。 
ルナが大地に突っ伏して泣いていた。 
「負けた……負けちゃった……」 
ミナセは腰を落としてくしゃくしゃルナの頭をなでる。 
「いきなりアレはキツかった。なぁに。生きてりゃ次のチャンスがある。 
 お前はあいつ等より速く成長するだろう。お前はそういう風にできている。 
 俺はそう信じてる。這い蹲ってでも生き残れば良いのさ。ルナ。 
 ここでへこたれるのが一番駄目だぞ」 
ミナセは言った。 
「うわあああああああ!」 
ルナは突っ伏したまま泣き叫んだ。 
ミナセはそんなルナが、何故だかちょっとだけ羨ましかった。 
「家に帰ろう。ルナ」 
ミナセは何処でもない所を微笑んで見ながら言った。