フォルテシモ第三十九話「行き着く先は存じません」 



「うおおおおおおおお!」 
襲い来る戦闘機をことごとく叩き落すイザヤ。 
「モ……MONSTER!」 
戦闘機搭乗員が叫ぶ。 
悪鬼の形相で空中空母ギドラに迫る。 
「ハハハハハァ! 猿が! この浮沈艦ギドラの前に沈むが良い!」 
ゾラが言った。 
「主砲ユグドラシル用意! 目標調子こいてる金色猿!」 
ゾラが号令する。 
ギドラ前方から巨大な砲塔が現れる。 
黒光りするそれはテレーゼによって設計されたものだ。 
照準がイザヤに定められる。 
「てっ!」 
ゾラが命令する。 
主砲ユグドラシルが火を噴いた。 
「はあああああああ! クリムゾンキングの宮殿!」 
キングクリムゾンが金色の光を膨らませる。 

ゴバアアア! 

ギドラとイザヤの間で激しい爆発が起こる。 
「ぬわっく!」 
辺りが金色に染まりゾラが眼をおおう。 
噴煙が晴れる。 
イザヤがキングクリムゾンの上に立っている。 
「なぁぁぁにぃぃぃぃ!? 相殺しただと!? 我が現代科学の粋ユグドラシルがぁぁ!」 
無茶苦茶に狼狽する。 
「ハァッ……ハァッ……」 
イザヤはエネルギー切れで意識が朦朧としている。 
眼の焦点が合わない。 
人間ども……やるじゃねえか…… 
俺の……最後の遊び相手…… 
イザヤはキングクリムゾンをきつく握り締める。 
「うおおおおおおおお!」 
キングクリムゾンが加速する。 
「何してる! もう一発主砲を撃て!」 
ゾラが声を荒げる。 
「無理です! 充電期間が短すぎる!」 
オペレーターが答える。 
「何故だ! 猿にできて何故人間にできない! 馬鹿な! 馬鹿なぁぁぁぁぁ!」 
「クリムゾンキングの宮殿!」 

ドゴオオオオオオオオオオオウ! 

ギドラの前半分がイザヤの一撃で破壊された。 
「水爆発動……ポチっとなっと」 
テレーゼが呟いてボタンを押す。 
白い閃光が辺りを包んだ。 
「うおおおおおおおお!」 



イザヤは最後の力をふりしぼりクリムゾンキングの宮殿を炸裂させる。 
轟音が轟き地表が削り取られる。 
テレーゼは眼を閉じた。 
さよなら……友達…… 
これで最後だ…… 
噴煙が晴れた時、イザヤはまだ空中のキングクリムゾンの上に立っていたが 
すぐに表面がボロボロと崩れだす。 
「終わり……か……」 
落下するイザヤ。 
ボロボロと壊れるキングクリムゾン。 
地上のレッドラムは全滅。 
第二次レッドラム大戦終わった。 
レッドラムは絶滅寸前まで追い込まれる事となった。 

結局最後まで残った空中空母マンダがボロボロの南極に降り立つ。 
6人の兵士に付き添われてテレーゼも大地に降り立った。 
たくさんのレッドラムの死体が累々と積み重なっている。 
全部自分が…… 
テレーゼの神経がちりっと淀む。 
ミナセの死体を探したかったがその術はない事に気づく。 
ただ実際に落ちていく所を目撃したイザヤの場所は分かる。 
テレーゼは死者の山を横目に歩いていった。 
じきに髪も全身も真っ白になったイザヤのもとにたどり着く。 
テレーゼは上からのぞきこむ。 
「イザヤ……久しぶり……」 
声をかける。 
瞬間、イザヤの眼が見開きムクリと起き上がる。 
兵士達が銃をかまえる。 
「待って!」 
テレーゼが静止する。 
イザヤは起き上がった衝撃で左腕がボロボロに崩れる。 
「テレーゼ……ミナセが……」 
イザヤは右腕でポケットの中をまさぐる。 
「コレを……お前に……」 
エメラルドの指輪を取り出す。 

「アンタの方が強いから、たどり着くとしたらきっとアンタだ。 
 テレーゼに会ったらコレを渡してくれ。ちょっと渡すタイミングを逸してた物だ」 

テレーゼはおずおずとそれを受け取る。 
それと同時にイザヤの右腕も細かい粒子になって砕け散った。 
「達者でな……」 
イザヤは呟いて、頭も体も一気に細かい粒子になって崩れ落ちた。 
「うん……」 
テレーゼは呟いた。 
涙がポロポロ零れ落ちる。 
私がした事は…… 
一体なんだろう…… 
何か大事な物を壊されて…… 
それ以上にたくさんの物を失った気がする…… 
テレーゼは両膝をついて顔を覆った。 



「う……う……うわああああああああああ!」 
泣き叫んだ。 
狼狽する兵士達。 
ごめん……ごめん…… 
私は…… 
一陣の風が南極の大地の上に吹きぬける。 

「ぷはあああ!」 
鵺が大きく息継ぎをしてスウェーデンの海岸にたどり着いた。 
「おえええええ!」 
水際から這い出て腹の中のレッドラム達を吐き出す。 
ライマとカンジとヨナタンとリュイシュンとヨナタンとキタテハだ。 
「ああ、キモチワリかった……」 
カンジが感想を言う。 
「お前ら運が良かったな。会わなかったら多分あのまま死んでたぞ」 
ライマが言う。 
「有難うございます」 
キタテハがペコリと頭を下げる。 
「そんな軟弱じゃないアルけどね」 
リュイシュンの言。 
「テレーゼさん敵に回したのがそもそもの間違いでした」 
ヨナタンが言った。 
「死んじまったな。皆」 
カンジが南極の方を見ながら呟く。 
ユアイが鵺から出てきて鵺が小さくなる。 
「シホさんとナナミ。それにミナセは大丈夫かな?」 
「大丈夫さ。あいつらなら」 
ライマが言った。 
「どうするよクラッカー。これから」 
カンジがライマの方を向いて言う。 
ライマは手をあごに持っていく。 
「そうだな……俺ら組で動いたら目立つだろうな。でも一人一人なら…… 
 すぐに復讐戦を開始する戦力は無いし方々に散ってそれぞれ力を蓄えよう。 
 俺らをレッドラムと判別できる奴はいないわけだからそれで大丈夫だ。 
 くれぐれも目立つような行動はしないように。それで時が来たら俺達 
 また会うんだ。俺達の本当の居場所を取り戻そう! それまで何十年 
 かかるか分からないけどそれしかない」 
ライマは言った。 
「そうだな。俺達もう一回会うんだな」 
カンジが言った。 
「アイアイアサーっス!」 
ヨナタンが敬礼のポーズをとる。 
「私達の……居場所……」 
キタテハが呟く。 
「何十年もかからないアルよ。数年後には行動開始したいアル」 
リュイシュンが言った。 



ユアイがニッコリと微笑む。 
「よし。二人一組くらいなら別にかまわんと思う。で、解散だ。また会おう」 
ライマが言った。 
その時、海から氷蟲が飛び出してきた。 
「あっ! どうしたんだお前! 泳いできたのか?」 
カンジが寄っていく。 
氷蟲は南極の方を向く。 
「シホ……?」 
カンジが呟いた。 

ミナセはイザヤに吹っ飛ばされた勢いで深海まで沈みこんだ。 
隣をリュウグウノツカイが泳ぎ去っていく。 
なんで最後だけ俺だけ蚊帳の外なんだよ。 
テレーゼに会いたかったのに。 
会って謝りたかった。 
許してくれるはずはないけど…… 
でも俺は言葉を持っているのだから。 
伝えきれなかった事をたくさんたくさん残してきた。 
指輪はうまく渡せただろうか。 
難しいかもしれないな。 
ミナセは思った。 
俺は何を間違えたんだろう。 
何を…… 
答えは出ない。 
生き延びれば…… 
いつかは分かるかな。 
きっとそうだ。 
イザヤは俺に無様に生き延びろと言った。 
生き延びるしか、方法は無いんだよ。 
生き延びて、伝えきれなかった事、伝えられるかもしれないし。 
ミナセはくるくる縦に回転しながら深みへと導かれていく。 
俺は生き延びてすることがある。 
幸せ者だ。 
どんなに苦しくても…… 
生きなければ…… 
ミナセは思って、目を閉じた。 
行き着く先は、存じません。 



フォルテシモ第一部完