フォルテシモ第三十八話「それぞれの死」 空爆が本格的に始まった。 戦闘で疲弊したレッドラム達はなすすべもなく駆逐されていった。 「ぎゃー!」 「わー!」 「良いからお前らもう逃げろ!」 イザヤが怒鳴る。 そのまま原子力エネルギージェットでジャイガンティスを目指す。 ミナセも後に続く。 二人めがけて艦砲射撃が放たれる。 「俺の長年培った避けテクニックの見せ所だ! 逝くぞ!」 ミナセは言ってくるくる回転しながら砲撃を避けまくった。 「ひゃっほう!」 ミナセは避けながら思う。 俺はもう一度テレーゼに会う為にもう一度身を危険にさらすのだ。 「とおりゃあっ!」 シドは戦闘機の一つに大ジャンプして取り付いた。 「ひいいいいっ!」 激しく怯えるパイロット。 「どけよオラ!」 シドはコックピットを破壊しパイロットをつまみ出し外に放り投げた。 すぐにコックピットに入り操縦を開始する。 地面すれすれでリターンする戦闘機。 ビュルストナーも同じようにして戦闘機を乗っ取った。 「よっしゃー! このまま空母を落とすぞ!」 シドが叫んだ。 ビュルストナーとシドは空母の方に向かっていった。 「ゾラ隊長ー! 戦闘機が二つジャイガンティスに向かってきます! どうやら敵に乗っ取られたもよう!」 「なぁにぃぃぃぃ!? 即刻撃ち落とせぇぇ! 腐れレッドラムどもをいい気にさせるなぁぁ! それと全空母散開しろぉぉ! 例のブツが発動するやもしれん!」 最後尾から一つ前の空母ギドラに乗るゾラは命令を出した。 空母は移動を開始し方々に散っていった。 イザヤとミナセとビュルストナーとシドの目下の標的はジャイガンティスだけになった。 「オラオラオラオラァ!」 弾幕を潜り抜けシドとビュルストナーはジャイガンティスとの距離をつめる。 「スーサイドアタックだ! オラ!」 シドとビュルストナーは空母に突撃する直前で戦闘機から飛び出る。 甲板に降り立つ二人。 戦闘機二機は空母の装甲に激突した。 傷一つつかない。 「へぇ。凄いや。テレーゼの技術だね。こりゃ難儀だ」 ビュルストナーが感想を言った。 「うわあああああ! 化け物だぁぁぁぁ!」 甲板の兵士達の半分が逃げていき半分が向かってくる。 兵士達が銃を構える。 「アレもヤバいよね。常識的に考えて」 ダダダダダダダダダダ! マシンガンが乱射される。 ビュルストナーとシドはそれを避けまくる。 「並のレッドラムはそれで倒せたかもね。でも……どうも相手が悪かったみたいだ」 その時、後ろから巨大な青いタンクのような銃がゴロゴロ押されて出てくる。 十人ほどの兵士がそれとチューブで繋がっている。 「あれは……」 「ビッチェズ・ブリュー?」 「ハハハハハァ! 既にこの辺には気化した自己修復阻害剤が充満している。 この人間用カスタム・ビッチェズブリューで貴様らは死ぬのだ!」 小隊長らしき男が叫んだ。 ドドドドドドドドドドドパッ! ビッチェズブリューが火を噴いた。 無数の細かい追尾弾がシドとビュルストナーを襲う。 駄目だ……いつもなら多少傷ついても避けられるが…… 轟音が轟き空母が揺れる。 噴煙が晴れる。 ズダボロのシドとビュルストナーが互いに支えあって立っている。 「ハハハハハァ!次でとどめのようだな!」 シドがギリッと表情を硬くする。 「シド……」 ビュルストナーが呟く。 「分かってる……テレーゼに会えなかったのは残念だったが…… 俺達の生きた証は残していこう……」 シドは呟いた。 ビュルストナーはスピットファイアを シドはワイバーンをかまえる。 「アコニー……」 「アナーキー・イン・ザ・UK……」 合わせて…… 「アポカリプス・プリーズ……」 二人は声を合わせて呟いた。 「てっ!」 小隊長が合図をとる。 炸裂するビッチェズブリュー。 同時に炸裂する銅と銀の閃光。 高い音が響き甲板の上の物体が全て消し飛ぶ。 頑丈な船体が軋む。 ビュルストナーとシドの衣服の切れ端だけが残った。 突如として空母アンギュロスの甲板にナナミとシホが降り立った。 夜間飛行で飛んできたのだ。 兵員はうろたえた。 「準備される前に殺っちまいましょ! 氷雪女王!」 兵員達を氷柱が下から数百本生え殲滅する。 甲板は血の海になった。 「ナナミ。ぶった切っちまいましょ、こんな船」 「OK。悪くない……力を貸して……」 ナナミが日本刀二本を上段に構える。 シホも同じように氷蟲をからませながら刀を上段に構える。 何故か兵員の増援は来ない。 「逝くよ……邪氷紫極……!」 空色と紫の光が煌く。 此処で終わりにはしない…… 私の刀は全てを切り裂く……! 先の先へ……! 全て切り裂け……! ザンッ! 光がアンギュロスを縦に両断する。 「スゲェ! ナナミ! 神の領域だ!」 ミナセが歓声をあげる。 アンギュロスは真っ二つに裂けた。 その瞬間、 白い光がその場を満たした。 耳をつんざく轟音が轟く。 アンギュロスが凄まじい爆発を起こした。 「なっ……!」 ミナセが狼狽する。 空が真っ白い。 あれ…… ナナミは…… 「ナナミさんは多少の犠牲を払っても此処で消しとくのが得策。 積んどいた水爆を爆破させた。ミズエさんと同じ最後だね」 マンダに乗るテレーゼは呟いた。 「ひゃははははは! やるなテレーゼ! 首領の首一つ獲ったり!」 ゾラがギドラでわめいている。 そんな……無敵のナナミが……こんな事で…… そんな馬鹿な事ってねえよ! プツン! キレた。 「うおおおおおおおおおおおおおお!」 ミナセは全長10キロの水の刀を作り出す。 「こいつ……何処にこんな力が……」 イザヤがたじろぐ。 「よくも! よくもぉぉぉぉ!」 ミナセは一直線にジャイガンティスに向かっていく。 脱兎の勢いである。 イザヤにも追いつけない。 「あああああああああああ!」 「なんというデタラメな怪物だ……とても手に負えん……」 ジャイガンティスの艦長マネは呟いた。 その次の瞬間ジャンガンティスは真っ二つに切り裂かれた。 搭載されていた水爆が爆発しまた天が真っ白に満たされる。 「うわあああああああああああああ!」 ミナセは続けてマンダに向かっていこうとする。 「落ち着け! ミナセ!」 イザヤが横について静止する。 プツン 頭の中で線が切れる音がする。 体中の力が一気に抜ける。 イザヤにもたれかかるミナセ。 「くっ……エネルギー切れか……くそっ……」 イザヤは逡巡する。 ミナセの青い眼を見る。 そこに一筋の希望を見た。 「種族の……未来……レッドラムは……こんな所で終わらねえよ……! お前は……俺達の希望である……それに値する男だ……!」 イザヤの眼が金色に輝く。 「お前は無様に生き延びろ!」 イザヤは渾身の力でミナセを蹴りつけた。 ミナセは血を吐いて水平線の彼方まで吹っ飛んでいった。 「はぁっ! はぁっ! 敵は……俺がひきつけるから……」 イザヤの方に空母が向いてくる。 地上のレッドラムはほぼ殲滅されてしまったらしい。 万事休す…… 種族そのものが…… 俺は…… 生き残る為に死ぬんだ……! イザヤは思ってキングクリムゾンをかまえる。 「クリムゾンキングの宮殿……」 キングクリムゾンが金色に輝く。 もう会えないなテレーゼ。 俺はお前の事……大好きだったぜ…… でもお前はミナセにゆずるよ…… 俺、アイツも好きになったから…… 金色の閃光がほとばしり、イザヤの最後の戦いが始まった。