フォルテシモ第三十六話「一人」 



「はぁっ……!はぁっ……!」 
ライマとカンジは疲弊しきっている。 
シドの機械の腕ワイバーンの前に全ての技が封じられた。 
背中側のワイバーンがバチバチとスパークする。 
シドはそれを二人から隠す。 
そろそろガタがきている…… 
大した容量の二匹だ。 
早く決着をつけないとこっちが殺られてしまう。 
「最後の手段だ……クラッカー……」 
「分かってる……!」 
二人は言葉を交わす。 
そしてライマがカンジを肩車する。 
「フュージョン!」 
二人が声をそろえて叫ぶ。 
「何だ!?」 
シドが狼狽する。 
「俺達の最高破壊力! 受けてみろ!」 
カンジが叫ぶ。 
カンジの眼が赤色に、ライマの眼がオレンジ色に輝く。 
カンジの両腕に黒い炎がまとわりつく。 
「逝くぞー!」 
ライマの深夜特急をフル加速して突進する。 
「最後まで力のゴリ押しか! 受けて立ってやる!」 
シドが両腕を伸ばしそこら中の空気を集める。 
大気がギュンと音を立てる。 
「アナーキー・イン・ザ・UK!」 
「黒爆両界曼荼羅!」 
ライマとカンジの複合攻撃。 
黒い炎の巨大な爆発が起こる。 
「なぁっく!」 
ワイバーンがピシピシと音を立てる。 
銀色の光が漏れる。 
これは…… 
やばい……! 
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」 
カンジとライマの声が響き渡る。 
「馬鹿な!」 
光がその場に満ちる。 
黒い炎が炸裂する。 
シドがその中から這い出てくる。 
両腕が無い。 
すぐに生身の両腕が生えてくる。 
「畜生……ワイバーンが……!」 
煙が晴れる。 
クレーターの真ん中でカンジとライマがぶっ倒れている。 
「ハァ……パトス……もう一回やるエネルギーは残ってるか……」 
ライマが呟く。 
「無い……まいったな……まだ背中の腕が有るのに……」 
カンジが言葉を返した。 
「ゴミ蟲どもめ……よくも俺のワイバーンを……」 
シドの眼が銀色に輝く。 

俺は道化だった。親父も道化だった。 
それがこんな表舞台に立っている。 




何故だ。 
運命だから。 
ここで死ぬのか。 
否。 
俺は無様に生き延び続ける……! 
ミナセの眼が青色に輝く。 
「ほう。自分の力で原子力を使うか……」 
プラトの声が響く。 
そうだ。 
俺は青だ。 
俺の色。俺の生き方。全部青だ。 
あの空と同じ色。 
いつだってテレーゼを上から見下ろす空の色だ。 
俺はこんな所で負けるわけにはいかないんだ! 

ドウ! 

地面が青く輝きミナセの髪が逆立つ。 
いつも髪に隠されていた右眼が現れる。 
髪に隠されていた部分は真っ黒だ。 
真ん中に青い丸い部分が見える。 
それが眼だった。 
「ほほう。面白い物持ってるな」 
イザヤが言った。 
もう何も隠す必要は無い。 
弱い自分を隠す必要は無い。 
弱かったら……死ぬだけだ。 
そんなシンプルな世界。 
それは求めていた物と少し違うけど…… 
あれ…… 
何が欲しかったんだっけ…… 
俺…… 
やっぱテレーゼかな…… 
これが終わったらテレーゼに会いに行こう。 
なんで去っていったのか理由を聞いてみよう。 
その為には……生き残らなくては…… 
その為には……闘わなければ…… 
邪宗門の先端に青い光球が現れる。 
キングクリムゾンの先端にも金色の光球が現れる。 
「面白い男だったな。お前は。人格が一定していない。本当の姿を 
 複数のお前が隠している。何故そんな構造が成立した? 
 テレーゼにもそんな所があったのかもしれないな。だから魅かれあったか」 
イザヤが言った。 
ミナセは眉一つ動かさない。 
「俺はずっと昔からテレーゼの事を知ってる。 
 アイツは奔放だ。自分の興味のあるものには何をさしおいても没頭する。 
 人間に……俺に興味を向けた事だってあった筈なんだ」 
イザヤが言う。 
「喋りたくなる気分なのか?」 
ミナセが言う。 
イザヤは多少たじろぐ。 
「ああ。お前は俺を殺せるかもしれない奴だからな。 
 でもまぁ良いや。綺麗さっぱりお前は殺してやるよ。 
 テレーゼと同じで俺もお前に興味を持ち始めていたんだが…… 
 そうだな。ガキみたいにテレーゼが興味を持つ物には興味が沸くのかもな」 
ミナセはフッと笑う。 
「純だな……イザヤ・カタコンベ。俺は不純だ。でも俺はテレーゼが好きだ。 
 今は……俺と……テレーゼの為に戦う」 



なんかわけ分かんなくなってきた。 
こいつ変だ。 
ミナセは思った。 
なんだよ人に興味って気持ちわりぃな。 
人間は皆一人なんだよ。 
俺は最強の孤独者になるのだ。 
その為に強くなるんだ。 
人はそれを孤高と呼ぶ。 
そうだ。俺は孤高の虚空の黙祷者だ。 
わずらわしい人間関係はここで絶つ! 
目の前を敵を倒すぞ! 
一人になる為に俺はイザヤ倒すんだ。 
この気持ち悪い馬鹿野郎を倒すんだ! 
青い光が輝きを増す。 
金色の光と同等の大きさになる。 
よし。 
ここで死んでも、 
ここで生き残っても、 
俺は一人だ。 
負けるものか! 
イザヤはこの勝負が五分である事を感知する。 
「面白いよお前は……本当に面白い」 
イザヤの眼が輝きを増す。 
「うおおおおおおおお!」 
「あああああああああ!」 
二人がお互いを目指して突進する。 
青と金の光が二人を包み尾を引く。 
光と光がスパークし高い音が轟く。 
「ヨギナクサレ!」 
「太陽と戦慄!」 
カンジ達が居る所まで眩い閃光が満ちる。 
大地の上に半球形の光の球…… 
半分が青で半分が金色の物ができる。 
遅れて天を揺らす轟音が轟いた。 
激しい光に両隊員が目をふさぐ。 
周辺一帯の氷がほとんど溶けてしまう。 
凄まじい熱風が両隊員をおそう。 
カンジは眼を見開いてその様を見ていた。 
「ミナセーーーー!」 
その声は虚しく光の中に消えていった。 
光の球はしばらく南極の地表に存在し続けた。 
全てを溶かす男と男の魂のぶつかりあいだった。 

「双紫極!」 
ヤマギワの剣が折れ氷に突き刺さる。 
「くっ……ふん……強くなったなナナミ。死に物狂いで修行したんだろう」 
ナナミは口を斜めにする。 
「言ってなさい。今のあなたの状態、滑稽よ」 
ヤマギワはため息をつく。 
「やれやれ……よっぽど頭にきてるらしい。いつものお前らしくない口の悪さだ。 
 もしかして俺だけに対してかな? なら良い物見てると言えるのかもな」 
ヤマギワは余裕しゃくしゃくで言った。 
なんでこの男この状況でこんなに余裕しゃくしゃくで居られる? 
死が怖くないのか? 



こいつの場合、そうなのかもな。 
ナナミは思った。 
「ハンデ……とはよく言ったものね。躊躇なく殺すわ」 
ナナミは刀を上段に構えた。 
その時、遠くの空から低い機械音が聞こえてきた。 
「何!?」 
振り向くナナミ。 
「ひゅうっ!」 
口笛を吹くヤマギワ。 
雲の中から暗赤色の巨大な影が現れる。 
人間側の空中空母、ジャイガンティスだった。