フォルテシモ第三十五話「俺が俺である限り」 



キタテハがその蚊型のロボットを発見したのは偶然だった。 
死に物狂いの戦闘の中、野生の勘がそれの危険性を察知した。 
すぐに自分の無数の蝶型ロボット「オレンジロード」に 
それと同じ形の物体をビームを掃射するよう命令を出した。 
蚊型ロボットは蝶型ロボットによってどんどん殲滅されていった。 
「……そんな……私のロボットが……どんどん破壊されていっている……」 
パトリシアはレーダーを見ながら驚愕した。 
実戦ではこんな事があるのか…… 
せっかくの少量完成させた自己修復阻害剤入りの蚊型ロボットが水の泡に…… 
「せいっ!」 
声がしてパトリシアの隠れていた塹壕に青龍円月刀が突き刺さる。 
「いた……」 
パトリシアの右腕にそれは刺さった。 
すぐにそれを抜いて外に出るパトリシア。 
「やっぱ人居たアルね。匂いがしたアル」 
リュイシュンが血のついた青龍円月刀をペロリと舐める。 
「はぁっ……はぁっ……」 
パトリシアの息が荒くなる。 
どうする……? 
絶望ってこんな感じ…… 
嫌だ…… 
こんなのもう嫌だ…… 
うちで……眠りたいよ…… 
研究は全て無駄にされてしまった…… 
こんな現実いらない…… 
いらないよ…… 
皆の役に……立てなかった…… 
御免……私……要らない娘だね…… 
「いくアル!」 
リュイシュンがせまってきた。 
終わりだ…… 

パン! 

乾いた音が響く。 
パトリシアの頭が吹っ飛んだ。 
呆然とするリュイシュン。 
ヨナタンが駆けてきた。 
硝煙の匂い。 
撃ったのはヨナタンだ。 
「何するアルか! 俺の獲物アルよ!」 
リュイシュンが抗議する。 
「ビンゴ! 科学班のパトリシアだ! その首もらった!」 
ヨナタンが嬉しそうな声をあげる。 
その時、遠くで巨大なキノコ雲があがった。 
「ミナセさん大変アルね。こりゃ本当にお別れになりそうアル」 
リュイシュンが呟く。 
「俺本当はちょっとミナセさんの事尊敬してたんだ……」 
ヨナタンが言った。 
「生き残って直接伝えるアルよ」 
「いや、それもちょっと違うけど……そうそうキタテハの奴はけっこうマジで 
 ミナセさんの事好きらしいぜ」 
リュイシュンがポカンとする。 




「マジアルか! あんな不細工の何が良いアルか!?」 
リュイシュンはケタケタ笑った。 
「てめっ! ぜってぇチクってやる!」 
その時、二人の近くで大きな爆発が起こった。 
「うわあああ! もう話終了! グッドラックアル!」 
「忘れねえからな!」 
二人は別れてそれぞれの戦闘に戻った。 

氷河にジグザグに亀裂が走る。 
ミナセが海中から浮上する。 
氷河を根こそぎ水に変えて津波のような波に乗る。 
「ひゃっほーう! 気分爽快!」 
イザヤが全速で走って追いかけてくる。 
「真面目に闘えー!」 
キングクリムゾンが金色に輝く。 
「リザード!」 
金色の光球が発射される。 
「ひゃっほーう!」 
ミナセは天に向かって水を走らせる。 
ミナセの姿がイザヤの位置からは太陽と重なりイザヤは一瞬眼を覆う。 
すかさずミナセは水の刀を伸ばす。 
「斬る!」 
イザヤは後ろに飛んで避けるが胸を薄く斬られる。 
「だぐはっ!」 
声をあげるイザヤ。 
何しろタフでスタミナあるからな。こりゃ相当運良くないと勝てないぞ。 
俺は決定打に欠ける。 
いや、本来水使いは無限の可能性を秘めていると自覚しているが…… 
「だから私の力を使えって言ってるでしょ!」 
脳内でプラトの声がする。 
「嫌いなんだよ。ああいう粗雑なの」 
ミナセが呟く。 
「燃料不足だって正直に言いなさい! 大丈夫よ。 使ってみなさい。 
 アンタはアンタが思ってるほど柔じゃない。大丈夫」 
プラトが言う。 
イザヤは体勢を立て直して天に静止しているミナセを睨む。 
「暗黒の世界……」 
イザヤが巨大な光球を作りだす。 
「疲れるよ俺……」 
ミナセが呟く。 
しかしプラトの言う事を聞く気に少しなってきた。 
「OK。しめは紫でいく」 
ミナセの瞳が紫に輝く。 
天に昇る水柱が龍の形を象る。 
「これは……?」 
狼狽するイザヤ。 
ミナセが水の龍の中に沈み込む。 
水量が一気に増大する。 
「逝くぜ! 水龍公司!」 
水の龍が一気にイザヤに向かって飛びかかる。 
「はぁっ!」 
炸裂する暗黒の世界。 
しかし水の龍は九十度曲がってそれを避ける。 
暗黒の世界によって胴体が分断されるがすぐ戻る。 
「手応えのねえ野郎だ」 
イザヤが吐き捨てる。 
「うおおおおおおおおおおおおお!」 
水圧で押しつぶす……! 



イザヤはキングクリムゾンをかまえる。 

ドゴオッ! 

完全に組み合う二人。 
金色の閃光と青色の閃光がほとばしる。 
「ぐっ……!」 
水圧に少し押されるイザヤ。 
「初めてマトモに攻めてきたのは誉めてやろう……だが……もう逃げられんぞ……!」 
イザヤと龍の間に金色の光球が出現する。 
「アースバウンド……」 
イザヤが呟く。 
「ヌイグルマー……」 
ミナセも呟く。 
瞬間、青色の閃光が紫に変わる。 
「うおおおおおおおおおおおおおおおお!」 
ミナセの眼が紫に輝く。 

ドッゴオオオオオオオオオオオオン! 

今までで一番大きな爆発が起こる。 
あがる巨大なキノコ雲。 
二人の攻撃の相乗効果だ。 
ライマとカンジがピクリと反応する。 
カンジがキノコ雲をみやる。 
「ミナセーーーーーー!」 
カンジが叫ぶ。 
噴煙の中、何も見えない。 
初めて……初めて自分から真っ向勝負を…… 
ミナセは生きていた。 
感動に打ち震える。 
世界最強の男を前に俺は……! 
数百メートル前方でイザヤが仰向けに倒れている。 
こんな筈ではなかった…… 
いくらテレーゼの婿といってもここまで強いとは思いもよらなかった。 
さっさと殲滅して他の蟻どもを抹殺するつもりだった。 
そもそも世界最強のこの俺とここまで闘えた相手が他に居ただろうか。 
そうか……これが宿敵……ライバルというものか…… 
イザヤは思う。 
この俺様のライバル…… 
最高の遊び相手か…… 
それがこのような女の腐ったような男だとは…… 
それがこのような不細工な男だとは…… 
因果な世の中よのう…… 
イザヤは天に唾を吐いた。 
それと同時にかつてない力が腹の底から湧いてくる。 
いい加減俺としてもエネルギーを使いすぎているがまだ行ける。 
何故なら俺は俺だからだ。 
俺が俺である限り、俺は無敵だ。 




それが運命。 
テレーゼは俺の嫁。 
それもまた運命。 
最強の遺伝子を遺すのは……この俺だ…… 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ! 

イザヤの方から低い轟音がとどろく。 
体勢を立て直すミナセ。 
「な……なんだ……?」 
イザヤがむくりと起き上がる。 
「ビョウドウイン……ミナセェ……次でしまいにするぞ……我が最初で最後の 
 ライバルよ……光栄に思え……誉れある最後を飾ってやろう……」 
イザヤが粘着するような喋り方で言う。 
なんか……急に気持ち悪くなった…… 
ミナセは思う。 
「俺の最後の攻撃の名は……太陽と戦慄……だ…… 
 ここら周辺10キロは全て消え去るだろう。よって避けきることは 
 不可能……さっきと同じように真っ向勝負が要求される…… 
 覚悟は良いか……俺の……宿敵よ……!」 
イザヤが言う。 
自分からネタばらししてくれた…… 
これを上手く逆手にとって…… 
ミナセは思うが腹の底の戦闘本能がそれを拒絶する。 
「良いじゃんソレ! 大好きよ私!」 
プラトが言う。 
「ミナセ……お前の運と度量を量る時だ……」 
ミナセの父……ビョウドウイン・ムスイの声が響く。 
「親父!」 
ミナセの眼が紫色に光る。 
ミナセはゴクンと唾を飲み込む。 
「分かった……やるよ……見ててくれ……」 
ミナセは呟いた。 
周りの空気が張り詰める。 
力が腹の底からみなぎる。 
これは……俺が待っていた舞台なんじゃないのか……? 
そうだ! 
ギュッと邪宗門を握り締める。 
逝くぞ! 
ミナセは心の中で念じた。