フォルテシモ第三十三話「世界最強の男VS凡人」


 

「逝くぞー!」 
カンジが黒い炎の塊になる。 
「作戦Q! 俺が正面から特攻してその隙にライマが後ろから攻める! 
 黒炎胎蔵界曼荼羅!」 
猛スピードでカンジがシドに突撃する。 
ライマは深夜特急でそれを追う。 
「お前の頭はカマドウマか! くだらねえ!」 
シドが両腕を身体の前で交差させる。 
大気がシドに向けて集まる。 
シドの掌に開いた穴が吸引しているようだ。 
「喰らえ! アナーキー・イン・ザ・UK!」 
カンジの攻撃とタイミングを合わせてシドの空気を圧縮した塊が飛ぶ。 
「ぐああああああ!」 
押し負けて吹っ飛ぶカンジ。 
ライマは後ろに回りこんでいる。 
「爆音金剛界曼荼羅!」 
ライマの一撃が火を噴く。 

バシュウウウウウウウウ! 

何かに邪魔されて攻撃がシドまで届かない。 
さらに爆発が全て発生しながら消滅する。 
「何っ!」 
シドの背中から機械の腕が二本生えていてライマの武器を受け止めている。 
「ワイバーンに死角はねえ。終わりだ……勝手にしやがれ!」 
「くっ!」 
ライマめがけてライマの爆発を増幅した爆発がおそいかかる。 
ライマは一瞬でスライドして横に逃げる。 
「ほーう! 少しは反応速くなったな!」 
シドが言う。 
ずっと前方でカンジがむくりと立ち上がる。 
「やっぱツエエなアイツ……」 
カンジの眼が鈍く赤く輝く。 

ユアイのエンエンラで彼方まで吹っ飛ばされたイザヤとミナセ。 
「良かった。此処なら皆を気にせずに闘える」 
ミナセは呟く。 
イザヤがむくりと立ち上がる。 
「本当! 見れば見るほど不細工だな! 最低だ! こんな顔にテレーゼが 
 汚されたなど許せれん! たっぷり罪を償ってもらおう」 
イザヤが言った。 
イザヤの髪が逆立つ。 
何かの力が上へ上へ向かって吹きすさぶ。 
「逝くぜ……リザード!」 
イザヤは言ってダイナミックにキングクリムゾンを回転させ金色の光球を発射する。 
「あれはヤバい……!」 
ミナセは瞬時に邪宗門に乗ってさらに自分で操作する水に乗って高速で避ける。 
ヒュンと風の音がして光球が頬をかすめる。 
避けれた……! 




ふいに大気が膨張する感覚。 

ドオオオオオオオオオオオオオウ! 

後ろで凄まじい轟音。 
「えっ……?」 
ミナセは後ろを振り返る。 
キノコ雲が目に映る。 
半径一キロはあろうかという範囲が爆破されていた。 
「ええええええええっ!?」 
そんな…… 
一撃必殺じゃないか……! 
「まだまだぁ!」 
イザヤが叫ぶ。 
金色の光球がいっぺんに五、六個飛んでくる。 
「うわああああああああああ!」 
ミナセは氷山を丸ごと水にして濁流を巻き起こしその上を邪宗門に乗って 
サーフィンのように避けまくった。 
「なかなか良い動きしやがる! しかしまだまだこんなもんじゃ許せねえ! 
 ディシプリン!」 
雷のように不規則な動きを見せる光球が放たれた。 
これは……追尾型だ……! 
ミナセは瞬時に見抜く。 
「死にぞこないの……青!」 
ミナセは水の刀を一キロの長さに伸ばす。 
「たああああああ!」 
光球を一刀両断する。 
ミナセの前方で大爆発が起こる。 
やばいぞ…… 
もう悲の器で押し込める事はできない…… 
何故ならさっきのそれで力の六分の一近くを消費してしまったからだ。 
イザヤと自分では容量が違いすぎる…… 
「そらそらぁ!」 
追尾型の光球が何発も同時に放たれる。 
「我が心は石にあらず!」 
津波の中から水の刃が射出され光球を全て切り裂く。 
相手のエネルギー切れを狙うのも得策じゃない…… 
何故ならそんなレベルの相手じゃないからだ……! 
なら俺は一体……どうする……! 
考えている隙に噴煙の中からイザヤが現れる。 
知らない間に距離をつめられた。 
「ハッハァー! 死ね! ヘヴィ・コンストラクション!」 
キングクリムゾンが金色に輝く。 
「しまっ……!」 
ミナセは邪宗門をかまえる。 

ドクン! 



心臓が大きく脈打つ。 
「こらっ! 何の為の私だぁ!?」 
心の奥底で声が響く。 
邪宗門が紫に輝く。 
「うわあああああああああ! アベルカイン!」 
「何っ!」 

ドゴオオオオオオオオオオオオウ! 

二つの力が互いに相殺にイザヤの後方とミナセの後方にそれぞれキノコ雲があがる。 
轟音が轟き熱い風が吹き荒れる。 
やった! 
原子力の力を使えば互角だった! 
しかしかなりのエネルギーを消費してしまった…… 
「はんっ! やるね! それが噂の最強のフェリポン邪宗門か! 
 しかし肝心のお前自身の身体が持つかな!?」 
イザヤが言う。 
図星だ…… 
オカン……やっぱ俺には正面からの力勝負は無理なんだよ…… 
俺は真正面から生きられない人間なんだよ! 
俺ヘタレだし……!弱いし……!器じゃないし……! 
邪宗門が青色に輝く。 
「なら……どうする……?」 
低いプラトとは違う誰かの声が響く。 
誰だ……? 
なら…… 
「ハハハハハァ! よくぞ世界最強の男を前にして今まで立ってこられた! 
 だが此処までだ! 暗黒の世界!」 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ! 

イザヤの頭上に半径10メートルほどの金色に輝く球体が出現した。 
その時ミナセは何かをピンと閃く。 
世界最強の男…… 
そうだ俺は今世界最強の男と戦っているんだ…… 
凡人のこの俺が…… 
なら……正攻法で勝てないのは当たり前じゃないか……! 
なら……どうする……? 
せこく勝つんだ……! 
至極せこく! 
はいつくばってでも生き残れ! 
明日さえあれば……! 
いつかは……! 
「うあああああああああああ! 溶けろ!」 
ミナセが叫ぶ。 
「何ぃ!」 
イザヤが狼狽する。 
イザヤの足場の氷が一瞬で溶けた。 
海中に沈むイザヤ。 
「凍れ!」 
「ゴババブヘアアア!」 
一瞬でイザヤを中心とした半径10メートルが凍りついた。 
イザヤは身動きがとれなくなった。 
「死にぞこないの……青!」 
ミナセの一キロの水の刀による一閃! 
狙いは巨大な光球。 



「ガバァ!?」 
やっと氷から脱出したイザヤは眼を見張る。 

ドオオオオオゴオオオオオオオオウ! 

半径3キロを爆破する大爆発が起こった。 
邪宗門で濁流を操り高速で回避するミナセ。 
「はあっ……はぁっ……」 
まだエネルギーはかなり残っている。 
二番煎じは通用しないだろう。 
これで終わりであってくれ……! 
後ろに威圧感。 
咄嗟に振り向くミナセ。 
「んなわけねーだろがタコ!」 
光球がせまる。 
間一髪、濁流を操作して避けるミナセ。 
水まみれのイザヤが立っている。 
その眼が金色に輝く。 
キングクリムゾンを横にしてその上に立っている。 
「俺の原子力を使ってジェットで高速で移動できる。つめが甘かったな」 
イザヤは言った。 
せこく……せこく……せこく……せこく……! 
ミナセはもう次の策を考えている。