フォルテシモ第三十二話「平和を望む事」 



「だから、アレに関するデータは全部消してしまいました」 
テレーゼがニッコリ笑って言った。 
「なぁぁにぃぃぃ! 貴様! 自分の立場分かっとんのかゴルァ!」 
ゾラが机をバンと叩いて言う。 
「貴様は我々の味方になったんだろう! それを何故!」 
「あら。そもそもレッドラムと人間は根本的に馴れ合いないと考えていますが。 
 私今でも人間があまり好きではありません……ただし……」 
ゾラが後ずさる。 
「た……ただし……?」 
テレーゼは一呼吸置く。 
「レッドラムはもっと嫌いです」 
テレーゼの両目が鈍く黄色に輝く。 

南極まで船で行く。 
ミナセとライマとカンジは甲板で煙草をすっている。 
「よう。これでお別れかもな」 
カンジが言った。 
「惜しいか?」 
ライマが言った。 
「少しな」 
カンジが言葉を返す。 
「ミナセ。テレーゼは人間側に行っちまったんだな」 
ライマが言う。 
ミナセがうつむく。 
「らしい……」 
ミナセが呟く。 
「夫婦喧嘩か……嫌な時に重なったもんだ……アイツも俺等も変人だからな。 
 何が起きても不思議じゃなかったが……何が有ったんだろうな……」 
ライマが言う。 
「分からない……多分俺が悪かったんだ……」 
ミナセはうつむいたままだ。 
カンジがミナセの背中をバシンと叩く。 
「心配事持ったままでこの最高の舞台に臨むなよ。神様が怒るぞ? 
 お前の事だから土壇場じゃはいつくばってでも生き残りそうだがな」 
カンジはカラカラと笑った。 
ミナセは少し笑顔を取り戻す。 
「そうだな。最高の舞台。俺達の望んだ。そしてその先にあるのは平和な世界……」 
カンジとライマがキョトンとする。 
「お前そんなもの望んでたのか?」 
「平和?」 
ミナセが面食らう。 
「当たり前だろ?」 
ライマとカンジが呆気にとられた顔をする。 
「あ……当たり前じゃねえよ」 
「全然当たり前ではない」 
ライマとカンジが同時に喋る。 
「俺達戦闘狂だろ? この世を支配したらその世界を守る為の戦いが始まるんだよ」 




カンジが言った。 
「そうだ。戦いは無くならねえよ」 
ライマが言う。 
ミナセがボーっとした顔をする。 
そして海の方を向く。 
「そ……そうか……そうだよな……戦いは無くならない……俺、馬鹿な事を…… 
 でも、テレーゼが言ってたんだ。戦いを止めたいって。殺し合いを止めたいって。 
 だから……俺……やっぱ一人でも平和を求めて闘うよ。異端でも良いや……」 
ライマとカンジがため息をつく。 
「お前は本当にテレーゼが好きなんだな。良い事だ。俺にはまだそういうのよく分からねえや」 
ライマが言った。 
「なんだ?お前そんなにユアイが不満なのか? もしか鵺がヤらせてくれないのか?」 
ライマが酷く動揺する。 
「馬鹿野郎!」 
ライマがカンジを恫喝する。 
「なんだ図星か」 
カンジが言う。 
ミナセは笑った。 
カンジもライマもいつのまにか笑っている。 
「お前悪くないよ。ミナセ」 
カンジが言った。 
「お前みたいなの一匹は居た方が面白い世界だ」 
ライマが言った。 
ミナセはフッと笑った。 
悪くないか。 
テレーゼ。 
これから待ってる運命は悪くないか? 
ミナセは思った。 

南極に上陸して決めておいた地点に着いた。 
ずっと前方にジェネシスの黒い集団が見える。 
ジェネシスは幹部以外は黒い軍服を着ているようだ。 
先攻はこちらだ。 
ヒイチゴ・シホがスタンバイしている。 
シホの所にナナミが歩いてくる。 
「行けそう?」 
ナナミが聞いた。 
「当たり前じゃない! あなたは自分の心配しなさい! 会えて良かったわ。ナナミ」 
シホは行ってピョンと飛びはねナナミの唇に自分の唇を重ねた。 
「おお……!」 
周りの隊員からため息がもれる。 
美女同士の接吻だ。 
ナナミが唇をぬぐう。 
「元気そうで何より」 
ナナミが言った。 
「へへへ……じゃあ逝くよ! 氷雪女王!」 

ダガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ! 

十数メートルの氷柱が地面から数百単位で生えまくる。 





氷柱はジャネシスの本隊を目指す。 
隊の前にビュルストナーが躍り出る。 
「ルノ……」 
ビュルストナーが鎌を頭上で横方向に回転させる。 
銅色の閃光がほとばしり氷柱が全て両断される。 
「悲の器!」 
迫ってくるカマイタチをミナセの生命エネルギーを練りこんだ水の巨大な皿で全て防ぎきる。 
「残念でしたー! そっちはオトリだよ!」 
シホが叫ぶ。 
瞬間、ジェネシス本隊の真下から氷柱が数千単位で生える。 
ジェネシスの隊員達が数百単位で殺傷される。 
「逝くぞー!」 
シホが叫ぶ。 
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」 
隊員達の野太い声が方々であがる。 
「ばあっ!」 
瞬間、ミナセの真正面1メートルにイザヤ・カタコンベが現れる。 
ビビるミナセ。 
周りの隊員達もビビる。 
イザヤはミナセを覗き込む。 
ミナセは泡を食って動く事ができない。 
「ブッサイクだなぁ! テレーゼは趣味が変わったのか!?」 
イザヤが言った。 
「さっさと終わらせてかっさらってやる!」 
イザヤの持っている黒い棍棒のような邪宗門と非常に良く似たテレポンが金色に輝く。 
「しまっ……!」 
「コンストラクション・オブ・ライト……」 
こんな所で原子力系の武器を開放されたら…… 
一撃で全滅だ……! 
「うわああああああああああああああ!」 
ミナセの眼が青色に輝く。 
「悲の器! 収束!」 

ドゴオオオオオバシャアアアアア! 

閃光が一瞬ほとばしりすぐ消えた。 
イザヤのテレポン、キングクリムゾンの前に巨大な水の球体が浮遊している。 
「ば……馬鹿な……爆発を全て水で押し込めやがった……!」 
ミナセがニヤッと笑う。 
その眼が青色に輝く。 
その心の中の原始のミナセが叫んでいる。 
こいつは最高の獲物だ! 
「エンエンラ!」 
ユアイの声が響く。 
「なっ!」 
「うわっ!」 
イザヤとミナセの身体に質量を持った煙がぶち当たる。 
「君達いると邪魔だよ。どっか遠くで決着つけて」 
ユアイが言った。 
「うわああああああああああ!」 
ミナセとイザヤは凄いスピードでくり出される煙によって 



地平線の彼方まで吹っ飛ばされていった。 
「……さぁてと」 
ユアイが呟く。 
前方にシドとビュルストナーが立っている。 
「私達の相手はこの化け物二人……」 
カンジがサウダージを身にまとい 
ライマが爆音夢花火をかまえる。 
第二次レッドラム大戦……開戦!