フォルテシモ第二十八話「4人」 テレーゼとミナセが結婚してから三日経った。 テレーゼは新テレポンの開発に着手している。 コーヒーを飲みながら少し物思いに耽る。 「イザヤ……シド……ビュルストナー……久しぶりだな……」 独り言を呟く。 あの時別れて以来だな…… 日本に来た時点で分かってた事だけど…… 本当に敵同士になっちゃったね…… テレーゼの右眼から涙がこぼれ落ちる。 咄嗟に涙をふく。 なんか最近涙もろくなっちゃったね…… きっとミナセのせいだ…… 私は…… 私にはまだやる事があるんだ…… まだまだ…… まだまだ…… そう…… 感傷にひたってても何も始まらないよね……。 13年前、イギリス。 3人の小さな子供が走っている。 「本当だって! 俺見たんだから! 背中からタコが生えた化け物!」 シドがわめいている。 「うるっせぇな。この科学万能の時代にそんなの居るわけねえだろ。 俺がさっさと検証してやるから待ってろよ」 イザヤが言った。 「あの廃屋、人が住んでるんじゃないの? タコの足は見間違いで」 ビュルストナーが言った。 「着いたぞ」 三人がストップする。 今時珍しいゴシックな家屋がある。 ガラスが割れ埃がたまり、人が住んでいる気配は無い。 「よし! 俺が化け物をおびき出す!」 シドが言って鞄からパチンコを取り出す。 「よし! 逝け! シド!」 イザヤが調子をとる。 「バッキューン!」 パチンコの玉がガラスに命中する。 ガラスが内側に向かって割れる。 「どうなる!?」 三人が固唾を飲んで見守る。 何も起こらない。 「おい! 話が違うぞシド!」 イザヤが言う。 「……化け物だから自分の家が壊れるのも気にしないんだよ。多分」 シドが言った。 瞬間、割れた窓から赤黒いコード状の触手が飛び出してくる。 「出たああああああ!」 シドがパチンコをかまえながら叫ぶ。 イザヤが腰の短剣を抜く。 「とう!」 短剣を思いっきり振り下ろす。 しかしそれは空を切った。 触手は一瞬で三人をぐるぐる巻きにする。 「キャアアアアアア!」 「畜生! 捕まった! 喰われまう!」 「だから行かまいって言ったのに!」 三人が三様にわめく。 ふいに割れた窓に人影が現れる。 金髪が腰まで伸びた同い年くらいの女の子だ。 背中から触手が伸びている。 「なっ! 言っただろ! 化け物だって!」 シドが言った。 「いや……これは……」 「何……君たち……邪魔なんだけど……」 女の子が喋った。 「研究の……」 ボソリと呟く。 「研究……お前人間か……?」 イザヤが言う。 「当たり前でしょ。見れば分かるんじゃない?」 テレーゼが後ろ向く。 リュックサックから触手が伸びている。 「これベーゼンドルファー。テレポンっていうの」 女の子が言った。 「お前!? 名は!?」 シドが叫ぶ。 「……テレーゼ・シオン。早く帰ってよ。邪魔だから」 「スゲェなお前! こんな物作ってるんだ!?」 イザヤが言った。 テレーゼの表情が一瞬固まる。 イザヤはムクムクとその女の子に興味が沸いてきた。 「み……見せてくれよ! 他にも有るんだろ!?」 イザヤが言った。 テレーゼは無表情で黙り込む。 三人はじっとテレーゼの次の言葉を待った。 「君達変わってるな……私は他人にそこまで興味持たないから君達の気持ちは分からない……」 テレーゼは首を斜めにする。 「良いよ。絶対ヒクと思うけど」 テレーゼが言った。 「ブラボ! 有り難いよテレーゼちゃん!」 ビュルストナーが言った。 テレーゼが顔を赤くする。 三人を拘束したまま触手は一人ずつ少年達を窓の中に引き入れた。 「君、一人で住んでるの? こんな所に」 ビュルストナーが尋ねる。 「うん。そうしてくれって、人間達に頼んだ。私、他人嫌いだから」 「人間はウザいよなー。俺も嫌いだぜ」 シドが言った。 「……あなた達……レッドラム……?」 テレーゼがハッとした顔をする。 「ん? ああそうさ。 お前もだろ? 匂いで分かるぜ」 「私は……だ……大脳特化型レッドラムで……」 イザヤがキョトンとした顔をする。 「何だそりゃ。まぁいいや。とにかくレッドラムなんだろ? じゃ、仲間じゃねえか」 テレーゼの眼が見開く。 「仲間……」 そっぽを向くテレーゼ。 「仲間なんかそんな簡単には手に入らない……」 テレーゼが呟いた。 「何言ってんの? もう私達友達でしょ?」 ビュルストナーが言う。 テレーゼはそっぽを向いたままピクピク痙攣する。 何かを受け入れられないらしい。 「おかしな娘」 「なぁ、早くトンデモマテリアル見せてくれよ」 「まぁ、そう急くなよ」 三人が喋った。 テレーゼの右眼から涙が流れる。 「あっ泣いてる! やっぱ変な娘!」 「もしか、お前友達いなかったのか?」 「失礼だなお前等……」 テレーゼがキッと三人を睨む。 狼狽する三人。 「わ……悪かったよテレーゼ。……ま、でも他のタコも見せてくんない?」 イザヤが言った。 テレーゼがふうっとため息をつく。 「ついてきてください」 テレーゼは言ってつかつかと歩き出した。 「やっぱ変な娘ー!」 ビュルストナーが言った。 「いや、俺はなんかムラムラきてるぞ」 イザヤが言った。 「変態イザヤ!」 ビュルストナーがイザヤを叩く。 「こんな面白い奴そうそういないや!」 シドが言った。 三人はテレーゼについて歩いていった。 「……でそれから悪い人間にテレーゼがさらわれたりしてよ。 皆で助け出したりしたよな」 「そうそうその時初めてテレポン使ったんだよねうちら」 「転勤でオーストリアに行っちまった時は辛かったなぁ。俺も泣いてたもの」 イギリスのアジトでイザヤとシドとビュルストナーが喋っている。 「それがまさか敵同士になるなんてね」 ビュルストナーが言う。 「まぁ、アイツは戦闘員じゃないから殺さなくてすむが……」 「さすがにむずがゆいよね」 イザヤが煙草を吐き出す。 「初めて見たよな。あんな孤独そうな背中の奴」 イザヤが言った。 「あら詩的表現」 「俺等も大なり小なり似たようなもんだけどな」 イザヤが席を立つ。 「まぁ、ここはキッチリ勝ってまたテレーゼと再会しようぜ。 また仲間になろう」 「あの娘の力、必要だもんね」 「それ以上に俺はアイツが好きだ」 イザヤがフッと笑う。 「元気にしてっかな……」 イザヤが遠くを見ながら呟いた。