フォルテシモ第二十七話「結婚しました」 



イギリスのジェネシスのアジト。 
研究室でパトリシア・クリンビーが試験管を振っている。 
パトリシアは眼の下にくまがある。 
金髪のセミロングで無表情。白衣の下にセーターを着てジーパンをはいている。 
ビュルストナーとシドが入ってくる。 
「やぁ、パトリシア。今日は何作ってんの?」 
「……自己修復阻害剤……」 
パトリシアは寡黙な女だ。 
「マジで? そんな物作れるの?」 
ビュルストナーが驚いた顔をする。 
「……夏の劣情の……テレーゼ・シオン……もう作ったって……」 
「マジで? そんなの無敵じゃん。 なんでこの前使ってこなかったんだろう」 
ビュルストナーが人差し指を口に持っていく。 
「施設が無い……材料が無い……ごく少量しか作れない…… 
 それに死んだスワナイ・ミズエ…… 
 それは禁じ手にしようという方針だった……最後の止めにだけ使うって…… 
 調子に乗って使いすぎると人間側にその情報がもれる…… 
 そしたらレッドラムが絶滅させられてしまう……聡明な人だ……」 
「ふぅん。でも相手だけ持ってたんじゃ心配だからこっちも作ろうってのね。 
 原爆みたいなものだね」 
ビュルストナーが人差し指を立てて言った。 
パトリシアが手を休めてビーカーに入ったコーヒーをんぐんぐ飲む。 
「最後の最後まで追い詰められたら夏の劣情の連中もそれ使ってくるかもしれないな。 
 自己修復阻害剤を塗った日本刀を持ったミナシタ・ナナミなんか 
 俺でも勝てないぞ」 
パトリシアがフーッとため息をつく。 
「大丈夫……今の所ちゃんと注射しないと大した効果は出ない完成度…… 
 日本刀に塗る事はできない……」 
ビュルストナーが胸をなでおろす。 
「ナナミか……きっと何時か私が闘う事になるわ…… 
 強いって噂よね……」 
パトリシアか頭をふらふら動かしながら眼をぱちくりさせる。 
「私も……闘ってる……テレーゼと……」 
シドがハッと笑った。 
「お前もそういう事考えるんだ?」 
パトリシアがコクンと頷く。 
「私は……選らばざれし者……大脳特化型レッドラムが生まれるのは 
 20年に一度……私は……中途半端な科学者だから…… 
 でもその分……闘って貴方達の役に立ちたい……」 
ビュルストナーがパッと顔を明るくする。 
シドがフッと笑う。 
「あなた良い娘だね。見直しちゃった」 
ビュルストナーが言った。 
パトリシアがハッとした顔をして無理矢理無表情を作る。 
「研究に没頭するから……出て行ってください……」 
パトリシアが顔をほんのり赤くして言った。 
ビュルストナーとシドはへらへら笑って研究室を後にした。 

スウェーデン。 
港町をミナシタ・ナナミが歩いている。 



前方に壁に寄りかかった人影。 
ナナミは身を固める。 
辺りの空気がピンと張り詰めている。 
鬼のような狂気と熱の塊を感じる。 
これは…… 
「よう。会いたかったぜ。ナナミさん」 
金髪金眼のイザヤ・カタコンベが言った。 
ナナミが刀に手をかける。 
「ふん……アンタとやり合うつもりはない。全然タイプが違うだろ?」 
イザヤが言った。 
綺麗な顔をしている…… 
ナナミは思った。 
「天下分け目の大戦の場所だが……南極大陸にしようと思う」 
イザヤが言った。 
ナナミがキョトンとする。 
南極……? 
馬鹿か……? 
地下に人間達が居るじゃないか…… 
「なんか不満?」 
何食わぬ顔でイザヤが言う。 
「いや別に……」 
ナナミがそっぽを向いて言う。 
いや……悪くないのか…… 
障害物とかあんま無いし…… 
なるほど、とことん戦闘を楽しむつもりなのか。 
そういう意見なら賛成だ。 
自分もバトルマニアだし。 
これで終わりにするには寂しいといつも思っていた。 
「ああ、良いよ。南極だな……」 
ナナミは言ったが後から笑いがこみあげてきた。 
顔がゆがむ。 
「その顔が見たかった!」 
イザヤが言った。 
もう我慢できない。 
「アハハハハハハハハハ!」 
ナナミは大声で笑った。 
「ハーッハハハハハハハ!」 
イザヤも笑った。 
誰もいない街の中に一陣の風が吹き抜ける。 

モンゴルの夏の劣情のアジト。 
卓上テーブルを囲んでヨナタンとリュイシュンとミナセとテレーゼとライマとカンジが居る。 
「ヘタレるの早すぎですよー! カンジ先輩ライマ先輩!」 
ヨナタンが声を上げた。 
カンジがブスッとした顔をする。 
ライマがそっぽを向く。 
「駄目だ自分を正視できない」 
ライマが呟く。 
「何アルか今の台詞! ライマ先輩マジウケるアル!」 
リュイシュンが声を上げた。 
その時、キタテハが両手で抱えるほどのケーキを持って現れる。 
「作りましたよ」 
キタテハが言った。 
「おおおっ! やっぱ最高だ! キタテハ! 二重丸!」 
ヨナタンが言った。 
テレーゼが顔を赤くする。 



ミナセは煙草をくゆらせている。 
「さぁ、早く準備しなとアル二人とも!」 
リュイシュンが言った。 
「えへへ……ミナセはこのままで良いんだって。私はもう準備してあるから。」 
テレーゼが腕を前に突き出す。 
腕につけた腕時計型の構造を示す。 
それについているボタンを押す。 
瞬間、白い物が腕時計型の物から出てテレーゼを包む。 
次の瞬間にはテレーゼの衣装が純白のウェディングドレスに変わっていた。 
「えへへへ……」 
テレーゼが顔を赤くして頬をポリポリとかく。 
「ブラボー!」 
「お美しいー!」 
ヨナタンとリュイシュンが叫ぶ。 
ミナセは正視できなくてそっぽを向いた。 
心臓がバクバク鳴り始めた。 
こ……これは恥ずかしいぞ……! 
ミナセとテレーゼは並んで立つ。 
テレーゼも緊張しているのが伝わってくる。 
「さてさて準備は整ったようですね。それでは本題に入りましょう」 
ライマが言った。 
「先輩ノリノリアルね」 
リュイシュンが茶化した。 
「さあミナセ。その健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、 
 悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、 
 これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、 
 真心を尽くすことを誓いますか?」 
ライマが言う。 
「いきなりかよ」 
ヨナタンがツッコミのポーズをする。 
「誓います」 
テレーゼとミナセが声を揃えて言った。 
うわ、言っちゃった。 
ミナセは思った。 
「じゃ。ケーキ入刀という事で」 
ライマが言った。 
「無茶苦茶アルね」 
リュイシュンが言う。 
ミナセはテレーゼとナイフを持ってケーキに差し入れた。 
「YEAH! 結婚おめでとう!」 
皆がクラッカーを鳴らす。 
ミナセは顔が熱くなった。 
だがテレーゼの方がもっと顔を赤くしている。 
「最低……最高……」 
テレーゼが呟いた。 
皆の笑顔の祝福がそこにあった。 
「さてと! じゃあ誓いのキスだな次は!」 
ライマが言った。 
「だから順番が無茶苦茶アルって」 
リュイシュンが言った。