フォルテシモ第二十六話「安心と夢」 ナイジェリア。 ジェネシス領内。 夏の劣情のカンジとライマが率いる隊が敵アジトに攻撃をしかけた。 「ぐっは!」 カンジが吹っ飛ばされ吐血する。 ライマが深夜特急で回り込み受け止める。 「なんだ……この二匹の強さ……尋常じゃねえ」 カンジが肩で息しながら言う。 「そういう事もある」 ライマが言った。 銀髪のシドとゴスロリに鎌のビュルストナーが立っている。 シドは機械化された腕を持っていてカンジの炎もライマの爆破も全て吸収してしまう。 ビュルストナーは巨大な鎌を自分の上で横方向に回す事によって周囲に バリアを張り巡らさせ同時にカマイタチを発生させ1キロ程の攻撃範囲を容赦なく殺傷する。 「どうする……イヨの弔い合戦なのに今度はこっちが死んじまいそうだぞパトス」 「黙れよクラッカー。俺は最後まで試す」 カンジの両腕に黒い炎が灯る。 「うふふ……やる気満々ね。好きよ。そういうの」 ビュルストナーが言った。 「逝くぜ……!」 炎が勢いを増す。 「勝手にしやがれ……!」 シドの銀色の機械が所々露出した腕が銀色に輝く。 ライマはビュルストナーの動きを警戒している。 世の中には無理な時がある…… こいつ等の相手は俺たちじゃ無理っぽいが…… しかし俺達はこっちでハッキリ言って最高戦力…… 乗り越えないわけにはいかない…… ライマは思った。 シドの口が歪む。 カンジの眼が赤色に輝く。 一気にシドの方に駆け出す。 「はああああああ! 黒炎胎蔵界曼荼羅!」 カンジ全体を黒の炎が包む。 「わお! 凄いプレッシャー!」 ビュルストナーが嬌声を上げる。 シドが両腕を前に突き出して受ける。 ドゴオッ! 炎が爆発する。 ライマが固唾を呑んで見守る。 噴煙が晴れる。 高い音を発しながらシドの腕が煙を出している。 カンジの掌とシドの掌が合わさった状態になっている。 「ペロリ……ごちそうさん」 シドが呟く。 シドの腕が銀色に輝く。 「勝手にしやがれ!」 「不味い!」 ライマが深夜特急で突撃する。 瞬間、前方にビュルストナーが現れる。 「無作法よ。イケメン君!」 鎌を振り上げる。 「くそっ! 爆音金剛界曼荼羅!」 初撃がビュルストナーに飛んで避けられた。 「速い!」 ドグアアアアアアアアア! 凄まじい爆発が起こる。 銀色の閃光がほとばしる。 天から黒焦げのカンジが降ってくる。 白目をむいている。 「畜生! 一時退散だ!」 ライマは深夜特急で高速移動しカンジを担ぐ。 「総員撤退ー!」 ライマが叫ぶ。 わらわらと隊員達が逃げ出す。 ビュルストナーは追ってこない。 「こんな歯ごたえなく終わらせちゃうのはつまんないよ!」 ビュルストナーが言った。 次はこいつ等置いてこないとな…… 強くなって……俺達二人だけであの化け物二匹倒す……! ライマは思って全速で撤退した。 インド。 ガンジス川のほとりでテレーゼとミナセが寄り添って座っている。 テレーゼは頭をミナセの方にあずけている。 ミナセは煙草をすっている。 「嫌だね……私達いつまで闘えば終わりになるの?」 テレーゼが呟いた。 「これで最後だよ」 ミナセが言った。 テレーゼは川の流れを眺めている。 その瞳がキラキラと輝く。 ミナセは横目でそれを眺めている。 この娘は本当は争いが嫌いなんだ…… ミナセはその事を思い出す。 俺だって本当は…… そう思うが自分で自分を完全肯定できない。 テレーゼも言うように自分の中にギラギラした刃のような物を感じる。 これは俺が両親から授かった物だろうか。 殺し合いの、螺旋。 その果てにはきっと何にも無い。 それなのに俺の血は他の誰かの血を求めている。 テレーゼが身体を動かして身体ごとミナセに身を預ける。 この偏屈な女は自分を好いてくれた。 奇妙な偶然だ。 自分の事を仲間だと思ったようだ。 自分と同族だと。 そんな事に何の意味があるというのか。 「人間は良いね。皆で南極でビクビク怯えながら仲良くやってる。 なんで私達仲間同士で殺しあってるんだろ……生き物らしくないんだな……」 夢見るようにテレーゼが言った。 「お前は争いが嫌いなんだな」 ミナセが言った。 「いや、きっと好きだよ。本当は。君と一緒だね」 テレーゼは言った。 この娘は分かっている。 ミナセの心の中で誰かが言った。 俺の事をか? そんな事はないだろう。 「でも私は争いを止めたいな。何故だか分からないけど止めたいな。 私、その為に世界に生かされてる気がするな。その為に生まれた気がするな」 まだ夢を見るようにテレーゼが言った。 「君の横に居れば安心して夢が見られる。安心して。だから、好きだよ。ミナセ。」 テレーゼが言った。 ミナセはそうかと思う。 なるほど。 この世界、一人では夢が見られないのかもしれない。 外は怖い他人で一杯だ。 俺はこの娘を護らなきゃ。 ミナセの中で使命感がムクムクと膨らみ始める。 この娘の夢には金には代えられない価値がある。 そんな気がした。 ミナセはテレーゼの肩に手を回す。 テレーゼが一瞬ビクッとして少しして力を抜く。 テレーゼが柔和な表情を見せる。 悪くないよなコイツ。 ミナセは思った。 「結婚しよう」 ミナセが言った。 テレーゼがキョトンとした顔でミナセの方を見た。 風が吹き抜ける。 せらせらと流れるガンジス川の音が聞こえる。 ミナセはしだいに緊張してきた。 ちゃんと脳を通した発言だったがだんだん事の深刻さに気付いていく。 不味い。 これは不味い。 なんで言っちまったんだ俺は。 テレーゼは満面のフルスマイルを作った。 「うん」 テレーゼは言った。 ミナセの力が抜ける。 また意味不明な事やっちまった。 俺の中には色んな俺が居るんだ。 そいつらが偶に暴走する。 まぁ、いいや。 文脈は比較的ちゃんとしてる。 ミナセはそれ以上テレーゼが喋るのが嫌だったので テレーゼの唇の上に自分の唇を重ねた。 インドの真冬の空は何処までも晴れ渡っていた。