フォルテシモ第二十五話「イザヤ・カタコンベ」 



雨禁獄と夏の劣情の争いから2年が経過した。 
ゴビ砂漠の真ん中の夏の劣情のアジト付近。 
ホシマチ・ライマが砂塵を撒き散らしながら深夜特急で疾走する。 
「あいつらと会うのも久しぶりだな……」 
ライマは呟いた。 
砂漠の上に顔を出した直方体の白いコンクリートの構造物の前に立つ。 
自動ドアが開きエレベーターが現れる。 
ライマはすぐに中に入る。 
地下一階について外に出る。 
「久しぶりです! ライマさん!」 
ヨナタンが目の前に居て大声をあげる。 
ヨナタンは青いニット帽を被って外ハネの多い少し長めのショートカットで 
スカーフをしていてゲリラのような格好をしている。背中にはライフルを背負っている。 
「ウザいアルよ、ヨナタン」 
後ろのリュイシュンが言う。 
リュイシュンは緑色の赤い星のついたキャップを被り男なのにポニーテールだ。 
現代風な奇妙な衣装で掌で二つの球を弄び背中に青龍円月刀をかついでいる。 
さらに後ろにフクヤマ・キタテハが居る。 
キタテハはオレンジ色の髪に茶色の眼をしていて髪を後ろで少し束ねている。 
ボロボロのゲリラのような格好をしている。 
そっぽを向いて何かゴニョゴニョ喋っている。 
さらに後ろにテレーゼとミナセが居てコーヒーを二人で飲んでいる。 
ミナセが軽く手を上げる。 
テレーゼがニッコリと微笑む。 
ライマはつかつかと二人の所に歩いていく。 
「久しぶりだなお二人さん。戦勝の報告は聞いてるか?」 
ライマが言う。 
「うん。ロシア一帯はカンジとシホが落としたみたいだね」 
ミナセが煙草を取り出しながら言う。 
「これでユーラシア大陸全土は我等が手中ってわけだね」 
テレーゼが笑顔で言った。 
「そうだ。でも本当の正念場はこっからだぜ。今まで何回も負けた欧米の『ジェネシス』が 
 次の相手だ。俺も参戦する。ていうか総力戦だ。久しぶりにパーティーになるぜ」 
ライマが嬉しそうに言った。 
「楽しみね。私も腕によりをかけるわ」 
テレーゼが笑顔で言った。 
「これで本当に最後の最後だ……俺達の夢の実現……夢見た世界…… 
 すべて俺達の手の中に……ライマ……テレーゼ……逝こうぜ!」 
ミナセが言った。 
二人は嬉しそうに頷いた。 

Sペテルブルク。 
美しい街がすべて凍りついている。 
ところどころに焼け焦げた跡。 
カンジとシホが誰も居ない街を歩いている。 
この街がそんなになってしまったのは二人の功績だ。 
「でよう。噂によると人間どもがイギリスに戻ってきてるって言うんだ。 



 南極の閉塞的な環境に嫌気がさしたってな。まあ無理も無い話なんだけど 
 これからそういう奴等どんどん増えてくるかもな。人も増えるし」 
「ふーん。で、ぶっ殺せば良いんでしょ? そいつら」 
カンジがフッと笑った。 
「血も涙もねえんだな。俺はほっといて良いと思うんだけどな。 
 俺達バトルマニアだろ? 俺は力の無い奴等には興味ねえよ。 
 同情さえおぼえるね。俺は。……でもさ、『ジェネシス』の奴等はきっと 
 殺すだろうって思うよ。イギリスは奴等の根城なわけだが……」 
「何が言いたいのさカンジ。そんな事より次の戦いの心配しないと 
 うちらも隊員3万人にまでなったけど相手は4万人は居るって話よ」 
「いや、テレーゼがこっちにいる限りそれくらいは大したハンデじゃない。 
 テレーゼさえいればな。うん。そうなんだ。世界中のレッドラムは 
 もうほとんど俺達二大勢力に組み込まれてる。こりゃ次は世界的な 
 大戦になるぞ。そう……これは第二次レッドラム大戦ってやつだ」 
「面白いじゃん」 
シホが楽しそうに言った。 
「俺達の名前が歴史に刻まれるだろう。はてさて敗者としてか勝者としてか。 
 うん。俺はなかなかワクワクしてるぞ。ひゃはは!」 
カンジが天を仰ぎ見る。 
曇天の空から雪が降ってくる。 
「燃えるぜ俺のパトス」 
カンジが呟いた。 
「格好悪い」 
シホが呟いた。 

「警戒態勢ー!」 
「なんてこった嗅ぎ付けられちまった!」 
「もう駄目だ!」 
「ギャー!」 
ジェネシスはその日イギリスに移住してきた人間達の本拠地を襲った。 
ガラスが割れリーダーと思われる男が入ってくる。 
「お助けー! 我々下賎な劣悪種族ホモサピエンスでございます!  
 レッドラム様どうか命だけはご勘弁をー!」 
リーダーの男が顔を斜めにする。 
「おい。お前の名前知ってるぜ。ムソグルスキーだな」 
自信に溢れた声で男は言った。 
「俺はイザヤ・カタコンベ。人間にしては度胸あるじゃねえか。移住してくるなんてよ」 
イザヤは青いマフラーを巻いた金髪外はねの男。眼は金色だ。 
茶色いコートにジーンズをはいている。 
ミナセによく格好が似ている。 
「お……お許しくださるのですか……」 
ムソグルスキーと呼ばれた白髪に口ひげをたくわえスーツを着た男が言った。 
「ふっふっふー!」 
イザヤがニコニコ笑った。 
「はは……は……」 
ムソグルスキーが汗を流しながら笑うふりをする。 
た……助かった…… 
ムソグルスキーは思った。 
「駄目だ。俺人間大っ嫌いだからよ。誉めてやろうと思ったから誉めてやっただけだ。 
 お前はここで死ぬ」 
「えへっ! そんへきょ!」 



ムソグルスキーは変な叫び声をあげて頭が吹っ飛んだ。 
イザヤの拳に血がついている。 
「お前等掃除するのなんか俺独りで十分だ」 
イザヤは窓辺まで歩いていって天に向かって勢い良く飛び立った。 
人間の街の上空で手に持った棍棒状の武器を横にしてその上に乗った。 
そして深く深呼吸する。 
「ご冥福をお祈りするぜ。さよならだゴミ三万人」 
武器が金色に輝きだす。 
辺りの大気がイザヤに向かって吹きすさぶ。 
「……キング・クリムゾン……コンストラクション・オブ・ライト……」 
イザヤが呟く。 
辺りを金色の光がつつむ。 
人間達が眼を覆う。 
強烈な熱量が発散され近くの人間達が炭化し融解する。 
強烈な轟音が轟く。 
遅れてあがるキノコ雲。 
キング・クリムゾンは原子力を操るテレポンだ。 
「ハハハハハハハハハハァ!」 
イザヤの高笑いが響く。 
街はあとかたもなく吹き飛んだ。 
「人間虐めるのは楽しいなぁ! 俺の趣味だ!」 
イザヤは浮遊するキング・クリムゾンから降りて帰途に着いた。 

「がっは!」 
カンナミ・イヨが吹っ飛ばされて吐血する。 
此処は南アフリカの夏の劣情のアジト。 
ジェネシスのたった二人の手練によって壊滅状態に追いやられてしまった。 
「畜生……畜生……御免……ナナミ……」 
「悲観することないよぉ。私等が相手だったんだからしょうがない」 
女の声が降ってくる。 
インカニャンバがうなり声をあげる。 
「これは宣戦布告だ。これから極めてデカイ戦争が起こるんだ。 
 すぐに仲間等は地獄に送ってやる。お前も寂しくないだろう」 
男の声が降ってくる。 
イヨは見た。 
金髪でゴスロリの服を着た大きな鎌を持った女と銀髪をソフトモヒカンにして 
黄色い眼をした革ジャンにジーパンをはいた男だ。 
「冥土の土産に教えてやるよ。俺はシド・レッドフィールド。そっちは 
 ビュルストナー・ホーネット。強かっただろ? 俺達」 
イヨは完全に勝てないと悟っていた。 
実力が違いすぎる。 
息が荒くなる。 
今の自分にできる事は…… 
「ニャンちゃん……今まで有難う……」 
イヨが呟いた。 
「何かするのか?」 
シドが尋ねる。 
「私達は……アンタ等なんかに負けるもんか……私はそれを見定めて逝く……!」 
インカニャンバの眼が白く輝く。 
「私達は……無敵だ!」 
瞬間、インカニャンバが大爆発を起こす。 
イヨがあとかたもなく吹っ飛ぶ。 



轟音が轟き辺り一キロが爆破範囲でアジトもあとかたもなく吹っ飛ぶ。 
煙が晴れる。 
人影が二つ。 
ビュルストナーが鎌を振り上げている。 
シドが鎌の下に隠れている。 
「ひゅうっ。さすがだね。気を引き締めないと」 
シドが言った。 
「面白い」 
ビュルストナーが歪んだ笑みを顔に貼り付けた。