フォルテシモ第二十三話「示したい」 



夏の劣情が雨禁獄との戦いに勝利してから1週間が経った。 
ルールにのっとって生き残った雨禁獄の面々は夏の劣情の仲間になった。 
「ヒマツリ・カンジ! 伝説の種族ホーンヘッドの生き残り! 
 身体が超耐熱性でどんな熱量も自分の頭に生えている角に全て吸収してしまう。 
 超外科手術で骨格を全て炎を発生させるテレポン『世界樹』と入れ替えている。 
 それと自分の特性を合わせて使う事で自分を中心に炎の飛行する梟を発生させる 
 『サウダージ』という技を使う。炎の剣になるテレポン『シャクシャイン』も 
 持っている。雨禁獄のリーダーでポジティブな見た目馬鹿。」 
「ヒイチゴ・シホ! ナナミさんと同等の剣力を持ち 
 特定の範囲の水分を自由に凍結させるテレポン『氷蟲』を使う。 
 折れた部分を氷で超速で代替する日本刀『白夜行』。 
 雨禁獄の副長で天然っぽいがプライド高い残酷娘」 
「カミヌマ・ユアイ! 自分の細胞を媒介にして増殖させ 
 生物型フェリポン『鵺』を巨大化させる。鵺は普段は1メートル30センチほどの大きさ。 
 鵺は胸、口、掌、眼からピンク色の熱線を発射する。雨禁獄の秘密兵器的ポジションだった。 
 鵺が自意識を持っていてやる気を出さない時があるのがネック。 
 レイジーな艶っぽい乙女」 
「君達はもう仲間だ! これからその能力をフルに使って我々の為に尽くしてもらいたい!」 
テレーゼはそれだけ一気に喋った。 
「何最後の性格紹介みたいなの。気に入らない」 
シホが言った。 
会議室にテレーゼとシホとカンジとユアイとライマとミナセとナナミが集まっている。 
シホは頬杖をついて眼が半開きでやる気無さそうだ。 
カンジは腕組してうつらうつら寝かかっている。たまに頭がガクンと下がる。 
ユアイは机に突っ伏して寝ている。 
本当、野生派だな…… 
テレーゼは思った。 
「とにかく! 日本を制覇した我々はこれから世界進出を果たすのだ! 
 まずは中国を落とすのよ! 此処はカンウっていう一騎当千の怪物が居るって 
 噂よ。気を引き締めて行かなきゃ! 私も武器作りまくるから皆も頑張って!」 
「ふぇーい」 
テレーゼの言にミナセだけが答えた。 
「なんでそんなにやる気ないのよー!」 
「テレーゼ。私達あんま話し合いは得意じゃないんだよ」 
ナナミがボソッと呟いた。 
テレーゼが顔を赤くする。 
「最低……レッドラムなんて……レッドラムなんて……起きて! ユアイさん!」 
テレーゼがビシッと注意する。 
「むにゃ……おはよぅ……」 
ユアイがようやく起き出す。 
首筋の辺りから狐の頭がニョキッと顔を出す。 
鵺は普段はユアイと同化して暮らしている。 
つまり戦闘時はユアイが鵺の中に居て日常では鵺がユアイの中に居るみたいな感じだ。 
「小僧共。無い頭を使ってくだらん将来の展望でも考えているのか。 
 わしはそんな事より早くユアイに夜伽の相手をしてもらいたい。さっさと終われ」 



鵺の低い声が響いた。 
「な……馬鹿ケダモノ! こんな時になんて事を!」 
テレーゼが顔を真っ赤にして怒る。 
ミナセがニヤニヤしながらそれを見ている。 
ライマが少し複雑な表情を作る。 
「そうね。鵺さんの機嫌損ねたら損だもんね。会議は終わりにしましょ」 
ナナミが言った。 
「そんなぁナナミさん。私は真面目に……」 
「ふああ……」 
ユアイは欠伸をしながら席を立った。 
「ミナセ!」 
ライマがミナセの所に寄ってきて声をかけた。 
「言いそびれてたけどよくカンジと引き分けたな。見直したぜ。それで……」 
ライマはそこでそっぽを向く。 
「これからは俺とタメ語で喋れよな。お前はそういう器だから」 
ミナセの眼が見開く。 
口をパクパク開けてしばらく固まるミナセ。 
「もったいないですよライマさん!」 
ミナセが机をバンと叩いて叫ぶ。 
「馬鹿。ライマだライマ」 
ライマがミナセのおでこをコツンと拳骨で殴る。 
「俺は……」 
ミナセが口ごもる。 
カンジが2人の所に歩いてくる。 
「ようクラッカー。お前そんな気があるのか?」 
カンジが言った。 
「クラッカーって……」 
ミナセが呟く。 
「俺の事か」 
ライマがカンジを睨む。 
「そうだ。でな、言いたい事が一つ有る。お前これから俺と勝負しね?」 
カンジが言う。 
「何い?」 
「この隊での序列を決めようってんだ。ひゃはは!」 
ライマの眼が鈍くオレンジ色に輝く。 
「ふん! 良いだろう。無様なさまを晒してやろうパトス」 
カンジの眼が鈍く赤色に輝く。 
「ひゃはは……ムカついたぜ。お前は処刑する事に決定だ」 
他人に言われるとムカつくんだ…… 
ミナセは思った。 

それから2時間が経った。 
もう夜の12時だ。 
外ではまだ爆発音が轟いている。 
まだライマとカンジの勝負はつかないらしい。 
ユアイはもう部屋に帰ってしまった。 
鵺と夜伽を楽しんでいるのだろう。 



ナナミとシホは修行しに外に出て行った。 
真面目な娘達だ。 
もしかしたら彼女達ももう一度果たしあいをしてるのかもしれない。 
テレーゼが研究室で設計図を作っていたので寝る気にならないミナセは行ってみた。 
ドアを叩いて開けるとテレーゼがパッと顔を明るくした。 
顔にほんのり赤みがさす。 
「ミナセ。本当に大丈夫なのかな。世界進出なのにあんな会議で」 
「大丈夫だよ。ナナミさんはある意味お前より聡明な人だ。ぬかりはない」 
テレーゼが複雑な顔をする。 
そして上目遣いでミナセを見る。 
「ね……ねぇミナセ」 
「ん?」 
「こ……この前は御免。私が変な事言ったから……」 
ミナセがギクッとした。 
避けてきた問題が露呈した。 
「いやアレは俺の意思だから別に……」 
「それってどういう事?」 
汗がタラタラ流れる。 
どういう事って言われても…… 
そんな完全にアレというわけでもなくて…… 
えーっと、その…… 
「お……俺が……お前の事を……カンジと闘った時には……まも……」 
テレーゼが興味津々な眼でミナセの方を見てくる。 
言え! 
言うんだ! 
マゴコロを! 
君に! 
俺は…… 
俺は……! 
ミナセが口ごもっているとテレーゼは頬を膨らませた。 
「一週間前は……有難う……私死ぬかと思ってた……」 
「ああ!? そそそそりゃあのままじゃ死んでただろうさ! 俺に感謝しな!」 
そこでミナセはテレーゼに背中を向ける。 
ええい! 
逃げるのか俺は! 
馬鹿か! 
結局へタレか! 
死ね俺! 
馬鹿! 
ターケ! 
「あ……」 
そこでテレーゼがミナセの背中に両掌をつけてピットリとはりついた事に気付く。 
「テテテテテテレーゼ?」 
「感謝してるんだよ……私……だから……」 
おおおおおお俺は……俺はああああああああ! 
ぎゃあああああ! 
わああああああ! 
「その気持ち示したい……表したい……」 
ミナセの頭の中でプツンと何かが切れる。 
そして瞳が鈍く青色に輝く。 
ミナセはそれから後の事はよく覚えていない。