フォルテシモ第二十二話「最後の炎」 



「風博士!」 
ユアイの扇子から発せられたカマイタチがライマを襲う。 
「ちぃっ!」 
ライマが吐き捨てて深夜特急で姿の見えない技を避けまくる。 
頬が切り裂かれ血が吹き出る。 
「オラッ!」 
ライマが爆音夢花火をユアイに向かって投げる。 
「はっ!」 
ユアイが自分を中心に竜巻を起こしトンファーをガードする。 
弾かれる爆音夢花火。 
「そのまま突っ込め!」 
ライマが爆音夢花火に命令する。 
爆音夢花火が向きを変え竜巻に突進。 
爆発する。 
「もう一丁!」 
ライマがもう片方の爆音夢花火を投げつける。 
爆発がさらに起こる。 
「そのままだ……! 遠隔……爆音万華鏡!」 

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドウ! 

遠距離からの爆音夢花火18連撃。 
風が相殺され竜巻が薄くなる。 
「うおおおおおおおお!」 
ライマが身体ごと竜巻に突っ込む。 
爆音夢花火ををキャッチし身体をザクザク切り刻まれながら竜巻の中に入った。 
中にはユアイがいる。 
「はぁん」 
強烈な蹴りがライマを襲う。 
右腕を立ててガードするライマ。 
距離をとってさらに風博士をビュンと振るう。 
ライマの右わき腹が切り裂かれる。 
「ぐうっ!」 
ライマは痛みをものともせず右腕の爆音夢花火を捨てて深夜特急で突進する。 
「オラアッ!」 
右ストレートでユアイの腹を叩きつける。 
「うっぷ!」 
ユアイはめまいがした。 
「うおおおおおおおお!」 
そのまま腹を22発殴りつける。 
ユアイが血反吐を吐く。 
そのまま倒れ伏す。 
「はぁっ……はぁっ……私の……負け……殺しても……良いよ……」 
ユアイが息も絶え絶えに呟いた。 
ライマは背中を向ける。 
「俺ももう限界だ。立っているのがやっとだ。アンタ相当強かったぜ」 
ライマは言った。 
そして軍服の上着を脱ぎだす。 
「ほらよ。着ろよ」 
そう言ってユアイに放ってよこす。 



「アンタは俺達の仲間になるんだ」 
「……弟を殺した君の仲間に……?」 
「世界征服するには今回人が死にすぎた。アンタの力が必要だ。アンタは一対一じゃなくて 
 多対一で実力を発揮するタイプ。他の戦場に行けばそりゃ凄い事になるだろう」 
「弟を殺した君の仲間に?」 
ライマはため息をつく。 
「こだわるな……アンタ……名前は?」 
「カミヌマ……カミヌマ・ユアイ。弟の名はカミヌマ・ガロ」 
「そうか。……生きて俺の行く末見守りたいとか思わん?」 
ライマが言った。 
何言ってるんだよ…… 
ライマがパッと笑った。 
夕日に映えて、太陽みたいな笑いだった。 
私の力を認めてくれるんだ…… 
怖い怖い他人…… 
この人はそんなに……怖くないや…… 
御免ガロ……私この人に……この男に…… 
ユアイはうつむいたままでコクリと頷いた。 

「せっ!」 
氷柱を折って手に持ち白夜行の一閃をかわすナナミ。 
「ほへ! まだまだやるね! 嬉しいよナナミ!」 
容赦なく連続して斬撃をくり出すシホ。 
山椒太夫一本でそれをかわすナナミ。 
有難うナナ……! 
ナナミの眼が紫色に光る。 
「紫極!」 

ジュパッ! 

ナナミの一つの太刀をまともに受けた白夜行が折れる。 
「チィ!」 
折れた部分を氷で補ってすぐ体勢を立て直す。 
その間に高瀬舟を拾うナナミ。 
「シホ……君みたいに本気で強い人相手にしたの初めてだったよ」 
ナナミが言う。 
「過去形? 調子乗ってると……」 
「これで最後……泣く? 笑う?」 
「逝くぞ!」 
氷蟲が氷の中から瞬間飛び出す。 
「邪氷樹!」 
氷蟲から尖った氷の塊が放たれる。 
シホはその氷の塊に乗る。 
「あああああああ! 粉雪!」 
シホの眼と白夜行が空色に輝く。 
ナナミは眼を閉じまた開く。 
眼が紫色に輝き山椒太夫が銀色に、高瀬舟が紫色に輝く。 
「双紫極……」 
ナナミは呟く。 

ドジュパッ! 

空中に紫と銀のエックスの光跡。 
ナナミとシホは互いに背を向けている。 



ナナミの肩口に深い傷が走って凍りついている。 
シホがガクンと膝を落とす。 
右肩から左わき腹まで、左肩から右わき腹まで傷が走っている。 
血がダラダラと流れ落ちる。 
修復が始まらない。 
「わ……私は死に急ぐ……そんな種族……君とは違う……」 
シホが呟く。 
「カンジ……私……」 
シホがポロポロと涙を流す。 
「負けちゃった……」 
そこで意識を失い地に倒れ伏せるシホ。 
氷のバトルフィールドがボロボロと崩れ始める。 
ナナミは歩いてきてシホの肩をかつぐ。 
「泣かなくて良いんだよ。君の事好きだから……」 
ナナミは呟いて飛んで氷の塊を降りた。 

「シャクシャイン!」 
「死にぞこないの青!」 
炎の剣と水の剣がぶつかり合う。 
辺りに水蒸気がたちこめる。 
相手の顔が至近距離で見える。 
「ああああああああああああ!」 
カンジの凄まじい気迫が迫る。 
スゲエ! 
スゲエ! 
これが本気の闘いってヤツか! 
ミナセは昂ぶる。 
俺は…… 
それに応えるんだ! 
俺の全てを見せる! 
カンジの横にフヨフヨと水の塊が寄ってきた。 
「不味い!」 
「わが心は石にあらず!」 
無数の水の刃が方々からカンジを襲う。 
「があああああああ!」 
滅茶苦茶に切り刻まれるカンジ。 
「うおおおおおおおお!」 
ミナセが押しを強めあたりの視界が水蒸気によってゼロになる。 
「なっ!」 
「とうっ!」 
ミナセが飛び立つ。 
カンジの攻撃が空ぶる。 
「何処に行きやがった!」 
「斬るぞ……青極!」 
天からミナセの声が響く。 
「うわああああああ!」 
ミナセの渾身の一つの太刀。 

ザンッ! 

カンジの身体に右肩から左わき腹にかけて深い傷が走る。 
「テメェ……この俺が……」 


カンジが呟く。 
ミナセが着地する。 
「一緒に闘おうよ。俺、君って良い人だと思うな。俺の事ちゃんと評価してくれた」 
ミナセが言った。 
カンジがフッと笑う。 
「お前より俺の方が弱いつもりで終わらせる気はない」 
カンジが強く言い切った。 
そして体勢を立て直す。 
「まだ動けるのか……!」 
「逝くぜ……奥義……火取玉!」 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ! 

シャクシャインの先端から火球が膨れ上がり直径20メートルの大きさまで巨大化した。 
「なっ!」 
「これで最後だ! はあああああああああ!」 
火取玉が発射される。 
そのすぐ後、カンジは意識を失って倒れた。 
「ああああああああ!悲の器!」 
ミナセは地下水を全部使って直系30メートルの悲の器を作る。 
「あああああああああああ!」 
ここで俺がよけたらテレーゼが死んじまう! 
畜生! 
畜生! 
こんな一杯一杯になったのなんか初めてだ! 
死ぬ! 
死ぬ! 
死!? 
そんな! 
嫌だ! 
「うわあああああああああああああああああ!」 

ジュプシャアアアアアアアアアアアアアアアア! 

静寂。 
ヒマツリ・カンジが倒れている。 
ミナセは膝をついて呆然としていた。 
悲の器は全て蒸発したが火取玉も消失していた。 
「な……何て奴だ……」 
手がガクガクと震えた。 
なんて強い奴だったんだヒマツリ・カンジ。 
しかし……護った……テレーゼを…… 
俺は……男だ…… 
ミナセはそこでプツリと意識を失った。