フォルテシモ第二十一話「本気VS本気」 




「燃えるぜ俺のパァトス!炎の黙示録!」 
サウダージが梟型から球形に変形する。 
紅蓮に燃える火球から一気に無数の炎弾が四方八方に発射される。 
ミナセはテレーゼを中心に半球形の水の膜を作る。 
自分は悲の器を作って火球を避ける。 
器はまったく蒸発しない。 
テレーゼのいる水膜に当たった火球も音を立てて消えていった。 
ミナセはサウダージめがけて飛び立つ。 
「死にぞこないの……青!」 
真っ向から水の刃を振り下ろす。 
サウダージは素早い動きでそれをかわす。 
「今のお前は過小評価できねえ! あの小娘はもう関係ねえ!  
 俺も本気でやらせてもらうぞ!」 
サウダージが青色に変色する。 
「最高温度だ! 喰らえ! 青の炎!」 
サウダージから半径5メートルの青色の炎弾が放たれる。 
「悲の器!」 
ミナセが巨大な水の器を作る。 

ジュアッ! 

しかしそれは全て蒸発した。 
「言っただろ! 最高温度だって!」 
「くっ!」 
ミナセは邪宗門の上に足で立ち水を駆使して空中を瞬間的に移動した。 
「ほっほう! そんな事もできるのか! 良いぜ! 避けれるもんなら避けてみろ! 
 青の炎の黙示録!」 
最高温度の炎弾の全方向の速連射。 
ミナセは悲の器でコンマ以下の時間をかせぎながらくみあげた地下水を 
怒涛の勢いで動かして空中を自由に動き回る。 
炎弾を紙一重でかわしまくる。 
「ひゃはははは! 水使い! サーファーか! とことん俺の相手に相応しいぜ!」 
ミナセはまだサーフィンのように空中を動き回るのに慣れていない。 
しかし見えた。 
この武器を使ってできる自分の無限の可能性が。 
これがテレーゼの言っていた邪宗門の本来の姿だ……! 
ミナセの眼が青色に輝く。 
「わが心は石にあらず!」 
竜のようにくねる水の流れの中から無数の刃が発射される。 
刃がサウダージを狙う。 
「くそぉ! 図体がでかすぎる!」 
素早い動きでかわしまくるが4発カンジにヒットする。 
「ぐっは!」 
右腕と左わき腹と首と左足に深い傷が刻まれる。 
カンジが血を吐いてミナセを睨みつける。 
「俺を怒らせたな小僧ー!」 
サウダージがまた球形に形を変え青色だったのがどす黒い色に変色する。 
「最高中の最高温度……黒の炎……」 
カンジが背中にさした刀身に4つ穴が開いた刀を取り出す。 
「シャクシャイン……逝くぜ……姿を現せ……!」 
どす黒い炎が刀から伸び十数メートルの長さになった。 



カンジを包んでいた球形の炎が消える。 
ミナセも死にぞこないの青を同じ長さまで伸ばす。 
「逝くぜオラア!」 
カンジが全速でミナセに迫る。 
ミナセは初めての本物の威圧感を感じていた。 
ああ……俺は生きている…… 
ミナセの胸にかつてない感動が押し寄せる。 

「はっ……はっ……」 
シホが頬から血を流しながら白夜行をかまえる。 
ナナミが無表情で山椒太夫と高瀬舟の二刀をかまえている。 
「けっこう前から気付いてたけど君、自己修復が極端に遅いみたいだね……」 
ナナミが呟いた。 
シホがフッと笑う。 
「だったら……私に勝てるって……? 笑えるよ」 
シホは言った。 
ナナミは無表情を崩さない。 
「……あぁ、イライラする。初めてだよ。君みたいに私に敬服しない 
 無表情の糞は。私はいつだって上位機種だった……私の唯一の弱点だって 
 露呈した事は皆無だった……それが君には関係有るんだね…… 
 まったく! どうなってんのさ! この私をここまでイラつかせる生物が世界に居るなんて!」 
シホが吐き捨てる。 
初めてナナミの前でシホが荒くれた正体を露呈している。 
「私は君を絶対認めない……私より優れたレッドラム……カンジみたいに仲間じゃなくて…… 
 許さない……許さないんだから……絶対許さない……」 
辺りの大気の温度が急激に下がってきている事をナナミは感じた。 
コイツ……もう何かしかけている…… 
周りの音がシンとなる。 
これは…… 
「私は……私とはぐれるわけにはいかない……」 
シホが呟いた。 
「逝くよ……本気で……奥義……白鳥大帝!」 

ドゴゴゴゴゴゴ! 

地面から巨大な尖った氷の塊がせり上がってくる。 
「なっ……!」 
「ああああああああああああ!」 
氷の塊はシホとナナミを乗せてどんどん天に向かってせり上がる。 
氷は十数メートルせり上がった所で止まった。 
瞬間、尖った氷柱が突出しナナミの右腕を切り裂いた。 
「痛っ!」 
腕と高瀬舟が落ちる。 
「まだまだぁ!」 
ナナミの足場付近からどんどん氷柱が突出する。 
「くっ!」 
紙一重で避け続けるナナミ。 
「このバトルフィールドで自由に動けるのは私だけ! とっとと逝っちゃえ!」 
シホが尖った氷柱の上を器用に神速で走りながら吐き捨てる。 
白夜行の一つの太刀。 
「くっ!」 
なんとか山椒太夫で受け止めるナナミ。 
ナナ……頂点ってきっと怖い所だね…… 
ナナミの頭にそんな事がよぎる。 



「はっ!」 
三方から曲がった氷柱が飛び出す。 
また右腕が切り落とされ左腰と右足が殺傷される。 
「うっく!」 
ナナミが痛みをかえりみずに飛び出して高瀬舟を取りに走る。 
高瀬舟の下から氷柱が飛び出し遠くに刀を飛んでいかせた。 
「くっ!」 
「バッドエーンド!」 
ナナミのすぐ後ろにシホの凶刃がせまる。 

「ひゅうっ」 
深夜特急でなんとか幾千光年の孤独三連発をよけたライマ。 
巨大なクレーター3つのはざまに座りこんでいる。 
鵺がギギギと音を立ててライマの方を見る。 
鵺の頭から不定形の突起が飛び出す。 
それが女の上半身になる。 
衣服を身につけていない。 
薄紫の髪を束ねている。 
「お前が操ってる奴か! 名は!?」 
女は怠惰な目線をライマに向ける。 
「はぁん……カミヌマ・ユアイ……君……弟は……どうだった?」 
ユアイのピアノような声が響く。 
「見込みは有ったと思うぜ。性格が災いしたようだがな。手加減はしてない。 
 本気で葬ってやったよ。」 
ライマが言った。 
「そう……じゃあ君の礼儀に報いなきゃ……私も……」 
ユアイはそこで一呼吸置く。 
「私も君を本気で葬ってあげなきゃ……」 
女は再び鵺の中に溶け込む。 
「セレナーデ」 
女の声が響く。 
鵺の胸がパカッと開き中からピンクの熱線が放出される。 
「芸が無いぜ! 熱線ばかりか!」 
ライマは危険をかえりみずに鵺の懐に突進する。 
頬に熱線がかすり肉の焦げる匂いがする。 
お前の装甲を崩すには…… 
爆音金剛界曼荼羅の108連撃を超連続でくりだし一発の巨大な爆発にするしかない……! 
名づけて…… 
「爆音小少年!」 
ライマが飛び立ち鵺の胸にクリーンヒットをぶち当てる。 

ドオオオオオオオオオオオオウ! 

一発の巨大な爆発が膨れ上がる。 
「俺は原爆の申し子……ホシマチ・ライマだ!」 
ライマが着地しながら叫ぶ。 
粉塵が晴れる。 
鵺が仰向けに倒れている。 
やったか……? 
鵺のひび割れた胸からアメーバ状の物が突出する。 
それはすぐに女の形になる。 



全裸のカミヌマ・ユアイは手に両手に扇子のような構造を持っている。 
「はぁん……君……強いね……私が闘うのは久しぶりだよ……」 
ユアイは呟いた。 
ライマは構える。 
もうエネルギーがほとんど残っていない。 
ピンチだ。 
「風博士……!」 
ユアイを中心に強烈な竜巻が起こる。 
ライマは右腕で風を防ぐ。 
「こりゃ……半端ねえ食いでのある食い物だ……!」 
ライマは吐き捨てた。