フォルテシモ第二十話「青の覚醒」 「ガロの血の匂いがする……ガロを殺したのはお前だな……」 巨大な黒い生き物から重低音の声がもれる。 「……ピンときたぜ! さっきの威勢の良い兄ちゃんの事だな? ああ、俺だ」 ライマが答える。 「ユアイよ……どうする……?」 低い声が尋ねる。 「今の私に怒りはない……ただ……義務感とか……自責の念とか……。 ……殺すよ。この人」 小さく高いピアノのような声が響いた。 「中で操ってる奴が居るのか……」 ライマが呟く。 「だそうだ。小僧。短い命だったな」 巨大生物の瞳がピンクに輝く。 「逝くよ鵺……ピンクソーダ……!」 高い声が響く。 ドン! ピンクの熱線が高速で撃ちだされる。 「しゃんなろー!」 ライマは深夜特急をフルに使って回避する。 瞬間、鵺と呼ばれた生物の形が不定形になった。 黒いアメーバ状の塊になって大地に溶け込む。 「何ぃ!」 背筋に悪寒。 黒い巨大な獣のような腕が背後に伸びる。 そのままライマに掌を叩きつける。 「ぐおっ!」 ライマは両腕でそれを受け止めるが大地にめり込む。 狐のような鵺の頭が大地から生える。 「だあっ!」 力ずくで腕から脱出するライマ。 鵺はそこに照準を合わせている。 「次は少しキツいよ……幾千光年の孤独……!」 高い声が呟く。 鵺の口がカパッと開きピンク色の光球が作り出される。 ドパッ! 光球が無数の不規則な弾道の細い熱線に分かれライマを狙う。 「確かにキツいぜアンタ等……早く顔を拝んでみたいね……爆音金剛界曼荼羅!」 ライマの眼がオレンジに輝き爆音夢花火108連撃で熱線を全て相殺する。 「威勢の良い若造だ……しかしスタミナには限界があろう……もう一撃だ……」 低い声が響く。 もう一発幾千光年の孤独。 爆音金剛界曼荼羅の反動で腕が動かないライマは深夜特急で後ろにさがって避けまくる。 「ちぃっ! あのデカさから考えてあっちのスタミナはそうそう切れねえ! 分が悪いぞ! あの装甲を崩すには……今持ってる技じゃ無理だ……!」 「ガロは良い子だった……本当に良い子だった……」 高い声が呟く。 「ユアイ……お前は本当に裏腹だな……」 低い声が響く。 「大丈夫だ……すぐに終わる……」 「幾千光年の孤独……3連……!」 ドパッ!ドパッ!ドパッ! 熱線がライマを襲う。 「なんて火力だ……畜生! こんな所で……!」 ライマを中心に辺りが一気に爆発する。 轟音が轟き噴煙がたちこめる。 「わ……私……」 モリカワが死んでテレーゼは窮地に立たされた。 戦場でたった一人で取り残されてしまったのだ。 幸い、すぐには誰からも気付かれなかったが前方から炎の梟が迫ってくる。 ミナセが先に走ってくる。 「!? 何してるテレーゼ!」 ミナセが叫ぶ。 「モリカワさんが……モリカワさんが……!」 ミナセがチィッと舌打ちする。 「俺に負ぶされ! 逃げるぞ!」 「うん!」 テレーゼは急いでミナセに負ぶさった。 「ほほう! テレーゼ博士か! そんな物には興味は無い! どっかに置いていけ!」 カンジが上から叫んだ。 そうしたいけどそういうわけにもいかないじゃん! ミナセは心の中で舌打ちした。 「ねっ。ミナセ。本気出してよ。あんな奴楽勝でしょ。」 テレーゼが言った。 「馬鹿っ! 俺は器じゃないって何回言ったら分かるんだ! 俺は相手が俺に興味を失うまで逃げるしかねえ!」 「嘘つき……」 テレーゼがボソリと呟く。 「おいテレーゼ!」 ミナセが後ろを振り向く。 テレーゼがポロポロと涙を流している。 「私だって……できるのなら早く興味失っちゃいたいよ……できるのなら……」 ミナセはまた心の中で舌打ちする。 カンジは攻撃をやめて二人のやりとりをじっと見ている。 そしてニヤリと笑う。 「そういう事かよ逃げ腰。もう一回引きずり出してやる!」 カンジが炎の散弾をミナセの背中めがけて発射する。 「うおおおおお!」 ミナセが悲の器を出しつつ避けまくる。 何度もテレーゼに火球がかすりそうになる。 アイツ……テレーゼに的を絞り始めやがった……! 「ひゃはははははは! 見せろ! 本当のお前を! そいつが大事なんだろ!?」 本当の俺……だと……? 「そうしないと死ぬぜ!? そいつ! 俺は容赦しねえ! 早く変わりやがれ!」 そんなものいやしない…… 青い鳥は……家に居た…… 青い鳥は…… ミナセは瞬間つまずく。 「ぐあっ!」 転倒するミナセ。 テレーゼが前に放り出される。 地面に叩きつけられるテレーゼ。 「痛っ」 「ビンゴ! 集中砲火!」 カンジが叫んだ。 炎の散弾がテレーゼを襲う。 「見せてみろやあああああああ!」 俺の青い鳥は…… 此処に居る……! テレーゼ……! 俺はお前を護る……! ミナセの瞳が青色に光る。 「悲の器!」 ジュパッ! 巨大な悲の器が炎弾を防いだ。 今までと違ってまったく蒸発しない。 「ミナセ……」 ミナセの顔つきが変わる。 「テメェ……テメェは俺の領域を侵犯した……此処は俺の領域だ……!」 邪宗門がヴーンと音を立てて内部が青色に輝く。 やっと会えたね…… 捨ててきた俺…… 生きるために…… 愛しい思い出のために…… 無邪気に笑うために…… 「お前は即刻殺すことに決定だ……」 ミナセが呟く。 「ほへ! キター! 良いぜ良いぜ! 燃えるぜ俺のパァトス!」 炎の梟が真紅色になる。 「待ってたぜ! 俺のダンスの相手はお前だ! パァトス! ひゃはは!」 ミナセの瞳がさらに青色に輝く。 「俺は自分の為じゃねえ……この小娘の為に闘う……!」 ドクン! ミナセの心臓が大きく波うった。