フォルテシモ第十九話「約束」 



「オラオラオラオラァ!」 
上空からサウダージの炎の散弾が降り注ぐ。 
ミナセは眉一つ動かさずにギリギリの動作でそれらを避ける。 
なんだよ……おかしいじゃないか! 
なんで俺にこんな動きできるんだよ! 
ミナセは内部で自問自答する。 
誰かに初めて期待されている……? 
そんな事で…… 
その時、テレーゼを担いだモリカワが近くを通った。 
「ミナセ! 頑張れー!」 
テレーゼの声が聞こえた。 

プツン! 

脳内で何かが切れる音がした。 
あれ? 
俺何やってるんだ? 
ミナセの脳内に疑問が発生する。 
相手は雨禁獄のリーダーじゃないか! 
何やってるんだ俺! 
器じゃないよ! 
「炎の蜃気楼!」 
サウダージの炎の濁流が襲ってくる。 
「うわあああああああ!」 
ミナセは全速で前に逃げる。 
濁流が一気に迫ってくる。 
俺リーダーと戦えるような器じゃないのに! 
何やってんだよ! 
馬鹿野郎! 
「おかしいな……威圧感が小さくなった。ミナセが急に小さく見える……」 
カンジが呟いた。 
「おいおいおいおい! もう燃料切れか!? これからだぜ宴たけなわは!」 
「俺、器じゃないですもん! 俺なんか相手にせずに! 虐めバイバイ! 
 もっと倒したら名が上がる相手と戦ってくださいよ! ライマさんとか! 
 ナナミとか! 俺は器じゃないですよ! 蟻ですよ! 塵ですよ!」 
カンジが怪訝な顔をする。 
あきらかにミナセの感じが変わった。 
何があったんだ? 
「……まぁいいや! 元に戻るまで手加減してやるよ! お前は俺のオモチャに決定してんだ! 
 さっきのアレは嘘じゃねえ! 俺の腕を切った! あの爆発野郎にゃそんな事はできねえ!」 
「やめてえええ!ひいいいい!」 
ミナセは涙をにじませながら全速で逃げた。 

「狂骨の……夢!」 
ナナの一つの太刀を無表情で避けるシホ。 
タカシロ・ラブカが割ってはいる。 



「キョロロロロ!」 
よくしなる日本刀「死霊」の突きを繰り出す。 
数十回の攻撃を全て紙一重でかわすナナ。 
いったん距離を置く。 
「……一対一で勝負しろ! ヒイチゴ!」 
ナナが叫ぶ。 
「嫌だよ……だって君つまんないもん。ラブカが君に興味有るみたいだから彼女とやって」 
シホがそっけなく言う。 
その目線の先にナナミが駆け寄ってきた。 
「私を……キョウゴク家の新星キョウゴク・ナナを……お前は無視するのか!?」 
シホは反応を返さない。 
「キョロロロロロ!」 
ラブカが声を上げその瞳が鈍く青黒く光る。 
ナナが口を斜めにする。 
「良いだろう。お前等は死に急いでいるんだ」 
ナナの眼が鈍く銀色に輝く。 
「奥義…… 姑獲鳥の……」 
「キョロロロロロ!」 
ラブカの刀が青黒く輝く。 
「夏!」 
ナナの刀が銀色に輝き刃先が3つに分かれる。 

ジュパッ! 

閃光。 
数瞬後。 
ナナミは見た。 
ナナの心臓に深々とラブカの刀が突き刺さっている。 
ラブカは5つの肉塊に分かれて倒れている。 
「な……私の奥義が……こんなチビの技に……!」 
瞬間、ナナの眉間に小刀が突き刺さった。 
投げたのはシホ。 
「君、なかなか強かったよ。自信持っていいよ」 
「……私が……この私が……こんな所で……馬鹿な……」 
まだ奇跡的に意識が残っているナナが立ったまま吐き捨てる。 
ナナの眼が再びカッと銀色に輝く。 
「ナナミ! 私の剣を頂点まで持っていけ!」 
ナナが渾身の力で山椒太夫をナナミに投げつける。 
ナナミはそれを受け取る。 
ナナはすぐに倒れて、動かなくなった。 
「わぁっ! 感動! こりゃ頑張らなきゃだねナナミ! 二刀流できる!?」 
シホが目をキラキラさせて手を叩きながら言った。 
ナナミはうつむいている。 
そして山椒太夫と高瀬舟を両手に持ってスッとかまえた。 
「私、約束は守るから……」 
ナナミは呟いた。 

「追憶のテーマ!」 
モリカワの音波攻撃。 
クルスノ・シュウヤの体に蜂の巣のように穴が開く。 
倒れ伏すクルスノ。絶命したようだ。 
「はあっ! はあっ! ……敵はとったぜ……センボンギ……」 
モリカワが涙を流しながら呟く。 
背中に負ぶさっているテレーゼが辺りをキョロキョロ見回している。 



「なんか変な感じがする……なんか……怖い……怒りの感情……」 
テレーゼが呟く。 
「はぁっ!? 電波受信してる場合じゃねえぞテレーゼ!」 
モリカワが吐き捨てる。 
瞬間、周囲から音が消える。 
「あれ?」 

ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴ! 

地中から轟音が途端に聞こえだす。 
「なんだよ!」 
モリカワが地面を見る。 

ドドドウ! 

地面が一気に盛り上がる。 
黒い巨大な影が回転しながら地表に姿を現した。 
高さ20メートルはあろうかという巨大な黒い塊だ。 
「なんだありゃあ!?」 
モリカワが叫ぶ。 
頭と思われる部分は獣の狐のような形をしている。 
体はガッシリした人のような形。 
背中に縦列に長い棘が走っている。 
尻尾もある。 
巨大な生き物……怪獣のような…… 
「ユアイさんキター!」 
雨禁獄の隊員達が叫んでいる。 
「あれは……雨禁獄の秘密兵器か何かか……」 
モリカワが呟く。 
瞬間、巨大な生物の顔がモリカワの方を向く。 
モリカワの眼が見開く。 
「やばいっ! 逃げろ! テレーゼ!」 
モリカワがテレーゼを手で押して吹っ飛ばす。 
「きゃっ!」 
テレーゼが尻餅をつく。 
巨大な生き物の眼と両手と胸がピンク色に輝く。 
一気にピンクの光の濁流がモリカワを狙う。 
「うおおおおおおおお!」 
モリカワは雄たけびをあげて木っ端微塵に吹き飛んだ。 
「モリカワさん!」 
テレーゼが悲痛な叫びをあげた。 
ホシマチ・ライマが1キロ離れた地点でその様子を見ている。 
「アイツはなかなか面白そうだな……」 
ライマは爆音夢花火をかまえながら呟いた。 
「逝くか!」 
言ってライマは深夜特急で巨大生物の方へ突撃していった。