フォルテシモ14話「足りない何か」



何も通っていない高速道路をライマの深夜特急に3人乗りして走る。 
ライマがミナセをおんぶしてミナセがテレーゼをおんぶしている。 
「ようミナセ。雨禁獄の大将は炎使いらしいぜ。お前当たるか?」 
ライマが聞く。 
「駄目だ駄目だ。俺そんな器じゃないから。ライマさんかナナミが当たってくれ」 
ミナセが言う。 
「もお……それでも男なの? 君本当はもっとやれる人なんじゃないの」 
テレーゼが憤る。 
「黙れ貧乳。俺は本当は争い事は嫌いなんだよ」 
テレーゼが顔を真っ赤にして少し胸を浮かせる。 
「馬鹿っ!」 
拳骨でミナセの頭をテレーゼがたたく。 
「へっ! 全然痛くねえ! この虚弱貧乳ロリ女! 俺は俺の正義を貫くんだ!」 
テレーゼが顔をプクッと膨れさせる。 
「君そんなマダ男のまんまじゃモテないわよ。最低。魅力ゼロ」 
「俺は女に男として認識される必要性を感じねえ。弱いままで良い。 
 ただ毎日楽しい事が少しずつでも起これば良いんだ。この世界は今病気なんだ。 
 誰か偉い奴が戦闘のない平和な世界を作れば良い。俺はそれまで待ってる。 
 皆が好きな事を好きなだけやって好きなだけ寝て食べて遊べる世界が来れば良いんだ。 
 俺はそんな未来を夢見ながら余生を送るよ。生物として死にたくない。子孫を残したい。 
 そんな願いだけは有るからな。生き残るのに必要ならそれ相応の力を身につけるよ。 
 でも他人を押しのける必要はないし一番になる必要も無いんだ。ほどほどで良い。 
 ほどほどで。出る杭は打たれる。鳴かぬなら鳴くまで待とうホトトギス。」 
テレーゼはまた頬を膨らませる。 
「お前の方針はどうでも良いがなミナセ。俺もお前はなかなか強いと思ってるぞ。 
 野心を持たずに埋もれさせておくには惜しいと思う。それだけだが……」 
ライマが言った。 
「私、君に興味が有るんだよ。色んな君を見てみたい。 
 君がこの世界に対して猫被ってるのがよく分かるよ。 
 君は私が初めて出会ったレッドラムで……。それで……」 
テレーゼは言葉を詰まらせる。 
ライマがニヤニヤと笑った。 
「俺は凡人さ。両親は激強だったみたいだけど。お前には感謝してるよ。 
 あまり努力しなくても此処まで勝ってこれたもんな。雨禁獄に勝てば 
 日本はほぼ制覇したも同然だ。俺等そしたら世界進出だぞ。きっと楽しいぜ」 
ミナセが遠くを見ながら言った。 
「あなたの中に矛盾を感じる……。あなたの中に猛獣の牙を感じる……。 
 あなたの中に破滅的な物を感じる……。私に足りない何かを感じる……」 
テレーゼは詠うように呟いた。 
「テレ。お前まさか俺に気があるのか?」 
ミナセが尋ねる。 
「ばっ……そんなんじゃない! ちょっと素直に物言ったらそういう事言う! 
 もう喋らない! 馬鹿!」 



テレーゼは顔を真っ赤にして喚き散らした。 
「着いたぞお二人さん」 
ライマが冷静に話を遮った。 
山のふもとだった。 
澄んだ空の下緑の山々がずっと続いている。 
綺麗な所だ……テレーゼは思った。 
「此処から5キロくらい行った所に雨禁獄のアジトがある」 
ライマが言った。 
「山の中なんだね。なんか野生派な連中っぽいね」 
テレーゼが言った。 
「よし。入っていこう」 
ライマが言った。 
深夜特急を使わずに三人で歩きで山に入る。 
1時間ほど歩くと頂上に着いた。 
「此処から見えるかな……」 
ライマが言って気に上り始めた。 
テレーゼとミナセが下から見守る。 
「おおーっ! 見える見える! コンクリートの打ちっぱなしのアジト!」 
ライマがてっぺんで叫んだ。 
ライマはビデオカメラのスイッチを入れる。 
アジトの様子を撮りはじめた。 
ミナセとテレーゼは下でじっと終わるのを待っている。 
そこに髪を水で濡らした若い女性が通りがかる。 
「あ、今日はー」 
ミナセは反射的に挨拶した。 
赤い花をあしらった白地の着物を着た女はペコリと頭を下げて行ってしまった。 
「美しい……」 
ミナセは眼を彼方の野辺に馳せながら夢うつつで呟いた。 
テレーゼが頬を膨らます。 
「相手方のレッドラムなんじゃないの?あの人」 
テレーゼが呟いた。 
それから30分くらい経った。 
「よっし終わり! 帰るぞ二匹!」 
ライマが叫んだ。 
木を降りてくる。 
その時、一陣の風が吹く。 
テレーゼがはっとして眼を覆う。 
「なっ!」 
瞬間、ライマが登っていた木が横方向に真っ二つに両断された。 
木がバリバリと音を立てて倒れる。 
ミナセが邪宗門を構える。 
「あんま大声出さない方が良いよ」 
ミナセの耳元で声がした。 
その刹那氷のような寒気を感じる。 




振り向く。 
誰も居ない。 
前を向く。 
青髪を束ねたファー付きのコートを着た女が突然現れた。 
「見つかったか!」 
ライマが爆音夢花火を構える。 
女は首を斜めにする。 
「マヌケだね。大事な博士連れてて見つかっちゃうなんて。 
 張り合いが無いわ。良いから今日は帰してあげる。 
 ただナナミさんに伝言頼まれてくれないかな」 
女が言った。 
ライマとミナセが同時に突進する。 
「死にぞこないの青!」 
「爆音万華鏡!」 
しかし相手に触れかけた瞬間、女は姿を消す。 
二人はお互いに相手を傷つけそうになり必死に止まる。 
気付くと女は日本刀をテレーゼの首に這わせていた。 
「しつこいのは嫌いだよ。今日は帰りな。気分が乗らないんでね」 
テレーゼは歯をガチガチいわせながら泣き出した。 
「野郎!」 
ライマが叫ぶ。しかし動こうとすると突然足から血がブシュッと噴き出した。 
「なっ!」 
そのまま転倒するライマ。両足が切断されていた。 
鮮血が辺りの植物を濡らす。 
「うっ!」 
ミナセの方も両足が切断されていて少し力入れると転倒した。 
「うぐっ……えぐっ……」 
テレーゼが一層酷く泣き出した。 
「分かった? 君等じゃお遊びの相手にもならないんだよ。 
 ナナミに伝えて。『一緒に踊ろう』って。私の名前はヒイチゴ・シホ」 
ライマの足が修復を終わる。 
ライマの眼は何かを悟ったようにシホを見つめていた。 
ミナセが立ち上がる。 
戸惑った顔つきでライマを見やる。 
ライマが苦渋の顔つきを見せ踵を返した。 
「帰るぞ」 
一言吐き捨てる。 
シホがテレーゼの背中を押して開放する。 
3人は山を降りていった。 
シホの後ろからカンジが歩いてくる。 
「おいシホ。ユアイから聞いたぞ。なんで逃がした?」 
カンジが聞く。 
シホがばつの悪そうな顔をする。 
「御免ね……。私……絶対ナナミとは……日本最強の剣士とは…… 
 余計な私怨とか……不純な感情無しで戦いたかったの……御免ね……」 
シホが言った。 
カンジがため息をつく。 
「ピュアなんだなお前は……。まぁいいや。今までの戦果から考えて 
 お前にはわがままを言う権利はある……。帰るぞ」 
「うん……」 
カンジとシホは踵を返してアジトへ帰っていった。