フォルテシモ第13話「予兆」 レグルスと戦ってから2ヶ月の月日が経った。 助け出されたナナミが局長に就任しライマが副長となった。 それからすぐに九州や中部を平定したりして隊員は300名にまで増えた。 テレーゼ博士が量産する新テレポンが夏の劣情にことごとく勝利をもたらしたのだ。 テレーゼはK都の研究施設で黙々と設計図を作っている。 ほぼ一ヶ月ぶりにビョウドウイン・ミナセが施設に立ち寄った。 「ようテレーゼ。久しぶりだな」 研究室に入ってきてミナセは行った。 テレーゼは仕事の手を休めてミナセに向き直る。 「邪宗門は変な武器だね。昔は使い方違ったんでしょ?」 テレーゼが言う。 「ああ。昔は天帝妖狐と同じで原子力を操るフェリポンだったんだ。 前は俺の母さんが使ってて死んでから俺が使ってるんだけど…… 勝手に水を操る能力に変わってたんだ。持ち主に応じて能力が変わるみたいだな」 「そんな容量何処にあるんだろう……」 テレーゼは考え込む。 「おいテレ。そんな事良いからお前も一緒に雨禁獄の視察に行こうぜ。 ライマさんが外で待ってる。こんな狭い所で黙々とやってると脳みそ腐っちまうぞ」 ミナセは言った。 「普通言うかな……この世界の神秘に危険な所に一緒に行かないかなんて…… ……まぁいいけど。本当は私も最近ドクター・スランプだったんだよね……」 「よっしゃ! さっさと行くぜ!」 ミナセは踵を返して研究室を出て行く。 テレーゼはため息をついてミナセの後を追う。 東北の雨禁獄アジト。 幹部の5人が話している。 「次の相手は夏の劣情だね……まさかレグルスを潰すとは思わなかった」 ヒイチゴ・シホが言った。 青髪を一つに束ねてファー付きの白いコートを着ている。眼が黄色い。 「テレーゼ博士の存在が大分大きく働いているようだ。リーダー、大丈夫か?」 クルスノ・シュウヤがおどけた素振りを見せる。 ニット帽を被った童顔の男。黒と白のダッフルコートを着てライフルを背負っている。 「俺はそれほどヤマギワの事高く評価してねーよ。あの淫乱が。負けて少しは頭冷やすだろう」 ヒマツリ・カンジが言った。 ギョロリとした大きな眼にボサボサ頭。さらに二本角が生えている。 赤を基調にしたアイヌの民族衣装を着ている。 「キョロロロロ!」 タカシロ・ラブカが高揚した声を上げる。 ナナミと同じような上から下までの黒装束。眼がとびぬけて大きい。身長は140センチほど。 「スワナイ・ミズエは死んだらしいしな。テレーゼのテレポンで日々増強されてる奴等だ。 こちらとしても早めに討たない手は無い」 アキヤマ・ヒロキが言った。 髪が肩まで伸びていて茶褐色の軍服を着ている。 「あれ? 今日はユアイさんは?」 シュウヤが周りをキョロキョロ見回しながら言った。 「鵺が機嫌を損ねたらしい。沼で悪戦苦闘してるよ」 ヒロキが言った。 「なあー、大丈夫か? 間に合うのか? アイツいなかったら洒落にならんぞ」 シュウヤがアタフタして言う。 「全ては運しだい……俺達らしい」 カンジが呟いた。 雨禁獄のアジトから5キロほど離れた山の奥。 赤い花の模様をあしらった着物を着た薄紫髪を束ねた女、カミヌマ・ユアイが立っている。 前方に大きな沼。 水面に波紋が広がっている。 「どうしたの? 鵺……」 ユアイが高く響く声で聞いた。 波紋が二つになる。 木々がざわざわとざわめく。 「もうじき君にふさわしい戦闘があるよ。私の力になってくれないかな……」 波紋が3つになる。 「お前は何時から他人の事をそこまで気にかけるよになったんだ……ユアイ……」 地の底から重低音の声が響く。 大気が振るえ鳥が何羽が飛び立つ。 ユアイは一呼吸置く。 「さあ……何時からかな……分かんないや。今はカンジもシホも私の大事な仲間だから…… 鵺……嫉妬してるの……?」 波紋が無くなる。 沈黙が沼を支配する。 「ぷ……」 ユアイが声を出す。 「アハハハハハハハハハ♪アハ♪アハハハハハハハハ♪本当?鵺。 相変わらず可愛いわあなた……私が……私が他人と付き合い始めたからって……」 波紋は起こらない。 ユアイは眼をぬぐって涙を拭く。 「ああ、おかしい。……大丈夫よ鵺。私の身も心もあなたの物だから……」 ユアイは言った。 波紋が一つ起こる。 ユアイは笑って、着物を脱ぎだす。 「遊ぼうか。鵺」 そう言って着ている物を全部脱いでしまうとユアイは沼に飛び込んだ。 その波紋がおさまると、沼は再び静寂に支配された。 大きな水泡が一つボコリと浮かび上がる。