フォルテシモ第十二話「犠牲」



フユキがヤマギワとトキノの居る隆起した大地に駆け寄ってきた。
ライマが立ちふさがる。
「雁!」
フユキが叫ぶ。
雁が十数メートルの長さに伸びる。
「はっ!」
フユキがライマに向けて横方向に斬る。
深夜特急でヘッドスライディングして避けるライマ。
そのまま爆音夢花火で狙う。
「ドグラ・マグラ……!」
ヤマギワの声が響く。
ライマの足がもつれる。
神経を撹乱されたらしい。
ライマが盛大に転倒した隙にフユキが隆起した大地を垂直のぼりする。
ライマは体勢を立て直し髪についた砂を頭を振って落とす。
「やばいぞヤマギワ。どうする?」
フユキが言う。
「ふん。あっちがトンデモアイテムを持っていたように
 こっちもトンデモアイテムを持っているのだ。この夜間飛行だ」
ヤマギワは腕に巻いた青いバンドを示す。
「これであらかじめ指定した場所……第二アジトだが……そこまで飛行できる。
 俺に不可能は無い」
「なんだ道具頼りかよ」
トキノが言った。
「それだけじゃねえ。こっからこの勝負勝ちに持っていく算段もある。
 聞け! 負け犬ライマ!」
ライマが顔を上げてヤマギワを睨む。
「この砂漠には水爆が埋め込んである。嘘じゃねえ。本当だ!」
ヤマギワは言った。
するとライマのすぐ横の砂の中から真っ黒い半径1メートルほどの球体が飛び出した。
ライマは狼狽する。
「で、俺等はこれから第二アジトまで逃げる。俺達が一瞬で逃げた瞬間それを爆発させる。
 お前等の負けだ! こっちは3人残ってる!」
ヤマギワは言った。
ライマは球体をじっと見つめる。
ヤマギワの周到さから考えてハッタリである可能性は低い。
「じゃあな! 負け犬! なかなか楽しかったぜ!」
ヤマギワが叫ぶ。
その瞬間ヤマギワの左手でパシッと音がした。
ヤマギワが驚いて振り向く。
そこにはビョウドウイン・ミナセが居た。
青い軍服に着替えている。
ミナセは手にナナミの入った少女地獄を持っている。
「な……貴様……死んだ筈では……!」
ヤマギワが狼狽する。
「死にぞこないの……青!」
ミナセは問いに答えずに水の刀を振るう。
3人は飛んで斬撃を避けた。
「俺は皆にも内緒にしてたけどリビング・デッドなんだ。分子レベルから自己修復できる……!」
ミナセは言った。
ミナセが時間を稼いだ間にライマが隆起した大地に登ってくる。
ヤマギワは少し戸惑った表情を見せる。
「ふん……リビング・デッドか……面白い……ナナミはまだ可愛がってやるつもりだったが……
 しょうがない……冥土の土産に教えてやるぜ。パスワードは
 『遊ぼうかナナミ』だ。死ぬ前に外の空気を吸わせてやれ。じゃあな!俺等は逃げる!」
ヤマギワがそう言うと3人をオレンジの球体が包んだ。
ヴヴヴと音がして球体は勢い良く彼方の空へ飛んで行った。
「やばいぞミナセ! 皆を逃がすぞ!」
「逃げろー! 皆ー!」
隆起した大地の上の様子を見守っていた隊員達が蜘蛛の子を散らすように砂漠から逃げ出す。
ミナセは少女地獄をポケットに入れて地表に降りる。
ライマも後に続く。
その時、爆弾の方を振り返る。
スワナイ・ミズエが足を引きずりながら爆弾の方ににじり寄っていっていた。
「ミズエさん……何を……!」
ミナセが叫ぶ。
それと同時に爆弾の内部から青色の閃光が漏れる。
ミズエが天帝妖狐を爆弾の方に突き出す。
「爆発を吸収するつもりか……!」
ライマが言う。
「早く逃げろ! 馬鹿野郎共!」
ミズエが叫ぶ。
その瞬間、青い閃光が炸裂した。
「うおおおおおおおおお!」
ミズエが爆発を吸収する。
爆発はミズエの前方のごく狭い範囲で留まっている。
「駄目だ……天帝妖狐に水爆クラスの爆発を吸収するキャパシティはない……!」
ライマに背負ってもらって逃げながらミナセが叫ぶ。
青い閃光は上に上に向かって伸び始めた。
天帝妖狐がピシピシ音を立ててひび割れる。
中から紫色の光が漏れる。
ライマとミナセは他の隊員とともに砂漠を脱した。
ミズエはまだ粘っているようだ。
ドドドドという低い轟音がそこら中に響き渡っている。
ミズエは最後に微笑んで天を仰いだ。
青い光が遠く天の果てまで続いていた。
「後は頼んだ……ナナミ……!」
呟いた。
その次の瞬間砂漠地帯全体を包む大爆発が起こった。
「ミズエさんー!」
ミナセが叫ぶ。
爆風が隊員達を襲う。
ミナセは火傷を負いながらミズエの方から目をはなさなかった。
ライマは深夜特急でわき目も触れず走り続ける。
「俺が仕留めていれば……!」
ライマが呟いた。
スワナイ・ミズエはその日、爆心地で死んだ。