フォルテシモ第七話「来訪者」




緑が青々と繁っている。
此処はK都M子山。
「夏の劣情」は拠点をK都に移した。

ドドウ!

響く轟音。
ライマの爆音夢花火だ。
ミナセとライマが組み手をしている。
「ミナセ。此処に来て俺達の敵は二つだ」
ライマが水撃を弾きながら言う。
ミナセはトンファーの攻撃を避けるのに必死であまり聞いていない。
「東京の『レグルス』と北海道・東北の『雨禁獄』。こいつ等は相当強い」
ライマは言いながら18連撃「爆音万華鏡」を繰り出す。
ミナセは水膜を一瞬で18個作ってなんとかガードする。
ミナセは本気だがライマはまったく本気を出していないようだ。
「特にやばいのがレグルスの山極秀一。狡い手を使ってくるのが有名だ。
 地力も俺以上だ。ミズエに匹敵するかも……」
ライマは2回目の爆音万華鏡を繰り出す。
ミナセは水膜を作るが2撃間に合わなかった。右腕が吹っ飛ぶ。
「ふーっ。ちょっと休憩にするか?」
ライマがどっかと腰を下ろす。
ミナセも一安心して腰を下ろす。
ため息をついた後右腕はちょうど修復された。
「よう。お前。3人のお姫様を守れるか?」
ライマが言った。
「お姫様?そんな人うちの隊に居る?」
ミナセがきょとんとする。
「馬鹿。テレーゼとナナミとミズエの事だ」
「ぶっ!」
ミナセが噴き出した。
「なにが可笑しい」
「いや……テレーゼは分からんでもないっすよ。弱いもん。
 でも他の二人は俺より万倍強いんすよ。表現が不適切だ」
ライマがため息をつく。
「馬鹿。てめえ。理屈じゃねえんだよ。男は女を守らなきゃならねえ。
 それでも男かてめえ!」
ガツンと一発ミナセの頭を殴る。
「いったぁ……大丈夫ですよ、そんな心配しなくたって」
ミナセが頭をさすりながら言う。
「気概の問題だ。お前そんなんじゃ弱いまんまだぜ」
「ライマさんだってミズエさんに負けたじゃないですか」
もう一発ライマがミナセをガツンと殴る。
ミナセの頭頂から血が噴き出す。
「修行続けるぞ! かかってこい!」
ライマが言った。
「へいへい……」
ミナセがやる気なさそうに立ち上がった。

とある山中。
少し大きな沼がある。
沼の辺の木の枝に黒装束がかかっている。
ミナシタ・ナナミは沼の底に潜水して体育座りしていた。
適度に息苦しいと思考がクリアーになるというのが彼女の持論だった。
目の前に大きな大山椒魚が居る。
ナナミは大山椒魚に笑いかける。
大山椒魚は無反応だ。
ナナミは口を動かして
「つれないね」
と無声で喋った。
その時、頭上に気配を感じた。
水中に居ても鳥がバタバタと飛び立つ音が聞こえる。
ナナミは大山椒魚に手を振って別れて水上に向かう。
「ぷはっ」
沼の淵に顔を出す。
「おおっと。これはこれは。うおっまぶしっ!」
男の声がした。
ナナミは胸を右手で隠して声のする方を見やる。
茶髪の前髪が目にかかっている。細い眼鏡をかけていて赤いポロシャツにジーパンを穿いている。
腰に日本刀。レッドラムだ。
「ご婦人。いきなりの失礼お許し願いたい。当方、戦闘集団『レグルス』の
 山極秀一と申す者であります。先日の戦勝、賞賛に値します。是非この場で祝福したい。
 おめでとうございます」
ナナミは沈黙を守る。
右手に持った高瀬舟を握り締める。
ヤマギワがくくっと顔を斜めにする。
「あなたとは派手な争いはしたくない」
ヤマギワは言った。
ナナミが一瞬力を抜く。
その刹那ヤマギワが抜刀した。
ナナミはそれとほぼ同時に沼を飛び出る。
ヤマギワが刀身をナナミに向ける。
ナナミは見た。
刀の柄の部分の四方に四つの生々しい目玉がついている。
「ドグラ・マグラ……!」
ヤマギワが叫ぶ。
その瞬間ナナミの目の前が全て紫になる。
「なっ……!」
ナナミはそれだけ叫んで脳が完全に麻痺した。
その場に倒れ伏す。
「ドグラ・マグラは神経撹乱系の能力が付加されている。自己修復能力は
 低いけどな。へっへっへ。」
ナナミはまだ微かに意識が残っている。
ヤマギワがつかつかと近付いてくる。
ナナミの前で腰を屈める。
「なっ! 俺なんでこんな所来てこんな事してると思う?」
ナナミは次第に霞みゆく意識の中で返答する事が出来ない。
「別にいつもの狡い手じゃないんだよ! アンタに個人的に興味が有ってさ!」
ヤマギワはそう言ってナナミの裸身をぬらっと眺め回した。
「俺はこれからアンタをさらう。で、俺の隊に行って色々一緒に遊んでもらおうと思う。
 そんで近い将来アンタの隊と闘うよ。アンタの隊は死に物狂いで来るだろうね。」
ナナミが息を荒げる。
ヤマギワはそれをニヤニヤしながら眺めている。
「でも俺はそんな事どうだって良いんだよ。とにかくアンタに興味が有ったんだ。」
そう言ってヤマギワはナナミの肢体を背中に担ぐ。
「よっこらせっと。安心しなよ。悪いようにはしない」
ヤマギワは言った。
ナナミの意識が其処で途切れる。
ヤマギワはそれを確認してから一人でゲラゲラと笑い出した。
「面白き、こともなき世を面白く!」
ヤマギワは叫んで全速力で走り去った。