フォルテシモ第六話前編「道具の差」



ライマがミズエの方に突撃する。
ミズエは6メートル飛び上がる。
ライマも後を追って飛び上がり爆音夢花火を構える。
回転する爆音夢花火がミズエの天帝妖狐を捕らえる。
「爆音夢花火……6連!」
ライマが叫ぶ。
 
ドドドドドドウ! 
 
瞬間的に6発の爆破が起こる。
爆破は山を揺るがし凄まじい轟音が押し寄せる。
「まだまだぁ!次は18連!……爆音万華鏡!」
ライマが叫ぶ。

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドウ!

ライマの18連撃。
全てに固い感触があった。
煙で前が見えない。
ライマは着地する。
「やったか……?」
ライマは呟く。
ミズエは降りてこない。
「粉微塵になったか……?ははは……!」
ライマは笑い出した。

煙が引く。
パリパリと何かが弾けるような音がする。
煙の中に人影。
ライマが目を見開く。
ミズエが天帝妖狐を横にしてその上に立っている。
天帝妖狐は浮遊している。
ミズエは傷一つついていない。
「どういう事だ……?」
ミズエは嗤う。
「天帝妖狐は爆発力を全て自分の餌にする。情報が足りてないね」
ライマは狼狽する。
「天帝妖狐は原子力を操るテレポン……それだけじゃなかったのか……!」
ライマが少し狼狽する。
「まあね。つい昨日テレーゼに能力付加してもらったばっかだからしょうがないよね」
ライマはもう一度勢いをつけて飛び上がる。
左手の爆音夢花火をミズエの方に投げつける。
「ふん!」
ミズエは横に瞬間的に移動して避ける。
ライマがニヤリと笑う。
「逝くぜ!爆音夢花火!」
ライマが爆音夢花火を回転させ再びミズエを襲う。
ミズエはつまらなそうな顔をして天帝妖狐でそれを弾く。
「戻れ!」
ライマが叫んだ。
投げつけた爆音夢花火がミズエの背中めがけて空中を戻ってくる。
「ちっ!」
ミズエが振り向きかけた瞬間爆発が起こる。
「ハーッハハハハハハハハハハ!」
ライマが無茶苦茶に笑う。
ミズエの左腕が吹っ飛んだ。
「意外と脆いな! 世界レベル!」
ライマが吼える。
体勢を崩したミズエに向けて再び飛び立つ。
「爆音万華鏡!」
ライマの18連撃が再びミズエを襲う。
体勢を崩していて天帝妖狐の防御が追いつかない。

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドウ!
 
ミズエの身体に直に衝撃が伝わる。
「どうだ!死んだか!」
ライマが叫ぶ。
「死なねえよ」
声が聞こえた。
その刹那、ライマの肩にミズエの顎が乗っていた。
「私の胴体はテレポン『平面いぬ。』で守られてる。私も爆発使いだからな」
ミズエの胴体には傷一つついていない。
ライマは背筋にとてつもない寒気を覚える。
腹に天帝妖狐の先端がしっかりと当たっている。
「消えろ……死にぞこないの…………紫!」
紫色の光が辺りを包む。
遅れて天を貫く轟音。
凄まじい爆発が起こった。
H田山の8割がその刹那消滅した。

ミナセは道を挟んだビルの上のスナイパーに向けて飛び立った。
「うおおおおおおおお!」
ミナセが叫ぶ。
スナイパーに狙い撃ちにされる。
数十発の弾丸をテレーゼのベーゼンドルファーで悉く撃ち落した。
「とうっ!」
ミナセが着地する。
近付かれたスナイパーが拳銃を持って応戦する。
それを全てベーゼンドルファーの触手が叩き落す。
「やるじゃねえかテレーゼ! オメェは使える!」
ミナセが言う。
「気付くのが遅い!」
テレーゼが言う。
スナイパーは腰につけた日本刀を持ってミナセめがけて突撃してきた。
ミナセは咄嗟に邪宗門で2メートル近い日本刀を模した形を作り
敵の刃とぶつかり合わせる。
勢いをそがれたスナイパーは一瞬で数十歩分ミナセから離れた。
「やるなオメエ! 名は!?」
ミナセが問う。
「ヤナギモト・フル。水使いか……目障りだな」
スナイパーが答える。
「相手にとって不足ねえ! 逝くぞ!」
ミナセが叫んだ。

パ〜ララ〜パララ〜ラララ〜♪

モリカワが追憶のテーマを吹きまくってインカニャンバの足場のコンクリートを崩す。
インカニャンバは足を取られて陥没に突っ込む。
「何やってるのニャンちゃん! この単細胞!」
イヨがインカニャンバを殴りつける。
その刹那既にセンボンギがイヨの後ろに回りこんでいた。
「逝けボボ! 雷帝!」
通常攻撃の5倍以上の雷撃がイヨを襲う。
「ぎゃああああああああああ!」
イヨが一瞬で黒焦げになる。
「よっしゃー! 良いぜセンボンギ!」
モリカワが叫ぶ。
イヨに脳波コントロールされていたインカニャンバは途端に大人しくなる。
「主人の所に逝け! 雷帝!」
センボンギがインカニャンバの頭の上から直に必殺を炸裂させる。
「ボオオオオオオオオオオオン!」
インカニャンバは断末魔の叫びと共に黒焦げになった。
「さぁて! あとは塵掃除だぜセンボンギ!」
モリカワが叫んだ。

「クッ……」
ナナの日本刀が折れてコンクリートに突き刺さった。
ナナミの高瀬舟も折れてコンクリートに突き刺さっている。
「互角ね……ねぇ、私達ってなんで闘ってるのかな?」
ナナミが問うた。
「話は苦手なんじゃなかったのか!?……私が世界制覇したいって思うからだよ!」
ナナが吼える。
「あなたが一番じゃないといけないのかな……例えばあなた、うちの隊の
 ミズエにどう足掻いたって勝てないでしょ?」
ナナミが言った。
「あいつはライマが仕留める!」
ナナが言った。
「ねえ……良い事教えてあげよっか。この高瀬舟、刀が折れても3分で自己修復できるんだ。
 その山椒太夫は確か4分はかかるよね。もう道具の差で勝負はついてるんだよ。」
ナナが動揺する。
「でたらめを言うな! この山椒太夫は京極家秘伝のフェリポンだ!
 お前如きのなまくらに劣るはずがない!」
ナナミは顔を少し斜めにする。
「御免ね……私の高瀬舟はテレポン。新型なんだよ。そんな骨董品に劣るはずがない」
ナナミは平板な口調でそう言った。
「くっそ……」
ナナ」は呟く。
修復の速度の差が目に見えて違っていた。
ハッタリではないとナナは既に悟っている。
「一緒に目指さない?世界統一」
ナナミはさらりとそんな言葉を口にした。





フォルテシモ第六話後編「魔界の太陽」



「ぐああ!」
モリカワは14本のナイフでビルディングに磔にされた。
キリアケ・フウガは俊敏な動きでセンボンギの雷撃を全て避けてしまう。
「遅いよ!デクノボー!」
フウガが叫ぶ。
さらにナイフを8本センボンギに向けて投げる。
「くっ!」
右肩に2本、腹に4本ナイフを刺されて吹っ飛ぶセンボンギ。
道路上に突っ伏する。
「よくもうちらの隊員60人も黒焦げにしたな! これでも喰らえ!」
フウガはポケットからテトラポッド型の爆弾を取り出す。
それをセンボンギに投げつけようとする。
「そこまで!」
後ろから声。
振り向くフウガ。
ミナシタ・ナナミとスワナイ・ミズエが立っている。
ミズエが右手で持っているのはホシマチ・ライマ。
腹から下が無い。
ナナミが背中に負ぶっているのはキョウゴク・ナナ。
両手両足が切断されている。
「こいつ等には自己修復阻害剤を注射した。1日はこのまんまだ」
ミズエが言った。
「ライマ……」
フウガが呟く。
ライマとナナは気を失っている。
「あんた等の負けだ。最後までやってもかまわんけど」
ミズエが言う。
「ちっ……!」
フウガが舌打ちする。
「ほら。さっさと殺せ!」
フウガが言う。
「そんな事しないよ。ルール通り私等の配下になってもらいます」
ナナミが言った。
『21世紀の精神異常者方式』のルールでは勝った方が
負けた方を全員舎弟にする事になっている。
「……」
フウガが沈黙を守る。
後ろでベリベリ音がする。
モリカワが無理矢理磔から逃れたようだ。
「いっててて……このやろ畜生。さっさとお縄につけ!」
モリカワが言った。
「分かったよ」
フウガが言った。

「はあっ……はぁっ……」
ミナセが肩で息している。
刀を模した水でフルを切り伏せることに成功した。
フルは両腕を切断されショックで気を失っている。
「やったねミナセ!」
テレーゼが言う。
「皆は……」
ミナセはビルの端に行って下を覗く。
メンバーが皆集まっていた。
黒焦げのインカニャンバを中心に円になっている。
「勝った……勝ったんだ……!」
ミナセが叫ぶ。
「3つの隊の連合が相手だったのに! やったぜ! これで全国制覇も夢じゃねえ!」
テレーゼはそんなミナセを冷静に観察する。
「私がついてる限り当たり前だよ」
テレーゼは言った。

その数時間後。
ホシマチ・ライマは「夏の劣情」の医務室で目を覚ました。
「ここは……」
ライマの体は包帯でぐるぐる巻きになっている。
横でミズエが椅子に座って手を組んでその上に顎を乗せている。
「良い目覚め?」
ミズエが問うた。
ライマがぐるっと辺りを見回す。
「俺は……負けたのか……」
ライマが呟く。
「意外?」
ミズエが問う。
「意外だ……お前等……強くなったんだな……」
ライマが言う。
「テレーゼ大明神が居たんだもの。当たり前さね」
ミズエが言った。
「お前は何の為に世界制覇を目指すんだ?」
ライマが問う。
「理由は無いよ。うちら皆そんな事目指すようにプログラムされてると思ってる」
ライマは窓の方を見つめる。
H県の方角だ。
「お前……スワナイ……両親は居たか?」
「居ない。捨て子だよ。うちは」
ミズエが言った。
「そうか……俺もだ……」
ライマが言う。
「私の事、好きになれそう?」
ミズエが言う。
「……分からねえよ。ただ……少しお前が眩しい……」
ライマが言った。
ミズエがくすっと笑う。
「大丈夫だよ。私が天国に連れてってあげる」
ミズエが言った。
「馬鹿だな……此処は魔界だ」
ライマが言った。
「私は魔界の太陽になる。皆此処が魔界だからって卑屈になってるんだよ。
 皆が日向で真っ向から元気良く闘える世界を私は作りたいの。
 それにはリーダーは私じゃなきゃ駄目なの。他の誰にも勤まらないの」
ミズエが言った。
「けっ。……俺がリーダーって柄じゃないのは知ってた。
 ただシガラミが……キズナがあった。フウガやあいつ等との……」
ライマが言った。
「私達と一緒に闘おうよ。見た事無い景色を見てみよう」
ミズエが言う。
「考え方ちょっと変えれば私達でも天国を見れるんだよ。
 私がそれを全てのレッドラムに教えてやるんだ。
 あなたは生まれてきても良い子だったんだよ。私がそれを証明してやる」
ライマはまだ窓の方を見ている。
「馬鹿が馬鹿言ってら……。俺は……馬鹿は好きだぜ……」
ライマがミズエの方に手を伸ばす。
ミズエの顔がパッと明るくなる。
ミズエは急いでその手を握った。
「うふふ……」
ミズエは笑っている。
太陽のような笑顔だ。
ライマは思った。