フォルテシモ 第五話 「決戦開始」



決戦当日。
O市の駅ビルの上に「夏の劣情」のメンバー19人が整列している。
テレーゼも一緒だ。
ミナセはミズエからテレーゼ博士を守り抜くよう命を受けた。
「涙法師」、「弥生」、「六波羅」のメンバー総勢103名は駅ビルから見下ろした
駐車場に集まっている。
「弥生」の局長の女の子カンナミ・イヨの使うバイオ生物インカニャンバが
その20メートルはあろうかという巨大な蛇状の体をくねらせているのが目を引いた。
インカニャンバは赤と青と白の迷彩柄の表皮を持ち頭に巨大な鹿のような角が生えている。
竜を彷彿とさせる形状に呪術的な文様のような色彩を帯びている。
「どいつから来るかな……」
黒服のナナミが相手を品定めする。
テレーゼが辺りを見回して不思議そうな顔をする。
「随分悠長なんですね。皆で集まって『よーいドン!』みたいな戦い方するんだ。
 学校じゃ習わなかったなぁ」
テレーゼは言った。
「ああ。これは『21世紀の精神異常者方式』の対戦ルールって言うんだ。
 先攻後攻をジャンケンで決めて一定距離離れて先攻のチームの中の一人が
 先に攻撃する。その後は混戦。皆方々で好きに戦う。今回うちらは後攻」
テレーゼは顔をそむける。
「馬鹿みたい」
「ああ……俺等はお前と違って馬鹿だ」
ミナセは言った。
テレーゼはその次の瞬間相手の方を見下ろした。
そして見た。
青いニット帽にレジスタンスのような格好をした男がこちらに向けて銃を構えた。
全身の毛が総毛立つ。
一瞬の風を感じた。
目を閉じてしまう。
何も起こらない。
目を開ける。
黒い影が目の前に有る。
スワナイ・ミズエだった。
右手がきつく握り締められている。
その手がパッと開かれる。
金属の粉がパラパラと落ちる。
どうやらミズエがライフルの銃弾を受け止めたらしかった。
「逝くぞーーーーーーーーーーー!」
ミズエが叫ぶ。
テレーゼはあまりの大声に両手で耳を塞ぐ。
それと同時に雨のような銃弾が降り注ぐ。
テレーゼは右手で顔を覆う。
ミナセが邪宗門で大気中の水を操作し5メートル四方の壁を作りテレーゼを守る。
センボンギとモリカワが前に躍り出る。
モリカワは新テレポン「追憶のテーマ」を爽快に吹き鳴らす。
下の集団が蜘蛛の子を散らすように散開する。
一瞬でコンクリートの地面に巨大な陥没が出来る。
散開した集団をセンボンギの新テレポン「ボボ」が狙う。
チューバ型のそれから吐き出された雷が十数人に命中する。
当てられた者達は黒焦げになる。
が、すぐに他の者に引きずられ逃げ出し回復が始まる。
ミナセの方をさっきの青のニット帽のスナイパーがしつこく狙っているようだ。
連続して弾がテレーゼとミナセを襲う。
「やばいぞその内水膜を破られる! テレーゼ! 動けるか!?」
ミナセが訊く。
「うん!」
テレーゼが答える。
「よし! 俺に負ぶされ!」
ミナセが言った。
そう聞いてテレーゼが一足にミナセの背中に負ぶさる。
ミナセは一足に隣のビルに飛び移る。
下のニット帽もついてくるようだ。
「良いぜ。潰してやる!」
ミナセは呟いた。

ホシマチ・ライマとスワナイ・ミズエはその時にはもう繁華街から遠ざかった
H田山の中に居た。
ミズエの足は恐ろしく速かったがライマのローラーブレード型テレポン
「深夜特急」の俊足によって五分以上に追いかけっこする事が出来た。
「待ちかねたぜ怪物。俺が歴史に名を刻んでやる!」
ライマが吼えた。
「ふっ……君あんまり面白くないなぁ」
ミズエが言った。
そしてテレポン「天帝妖狐」を構える。
半径20センチ長さ約1メートル40センチの真っ黒い棍棒状の形をしている。
ミズエはふっと笑む。
ライマはそれを見て背後に凄まじい寒気を覚える。
そして軍服の腰につけた二本の黒いトンファーを手に持つ。
そのテレポンの名は「爆音夢花火」。
ライマのとっておきの最高級テレポンだ。
物体に触れるとそのトンファーは前方向に爆発を起こす。
「さぁて! 逝くか!」
ライマが叫んだ。

キョウゴク・ナナとミナシタ・ナナミは最初居た駅ビルの駐車場で対峙した。
ナナは黒い着物を来て銀髪を後ろで小さくナイン・テールにしている。
身長は140センチほどである。
同じ日本刀使い。
どちらも剣を構えたまま微動だにしない。
「良いな。その刀。『山椒太夫』……だっけ?」
先にナナミが口を開いた。
「これが終わったらコレクションに加えてあげるよ。ナナちゃん」
「笑わせるな……」
ナナが口を開く。
「貴様等の隊は此処で終わりだ……よおくご存知なんだろ?強がるのはよせ」
ナナミは笑顔を顔に貼り付ける。
「私達……話すのはそんなに得意じゃないよね……
 皆に迷惑かかるし……とっとと終わりにしちゃいましょ」
ナナミは言った。
ナナは怒りを顔にあらわにする。
「滅殺……!」
ナナは小さく叫んだ。

「ボオオオオオオオオオオオオオン!」
インカニャンバの雄たけびが木霊する。
繁華街に沿って爆走する。
口から光り輝く赤色の熱線を吐くそれと多すぎる敵にセンボンギとモリカワは手を焼いた。
「くっそー! いくら武器が強くても多勢に無勢すぎるぞ!」
モリカワが言った。
「口を噤め! 気を抜くと死ぬぞ!」
道路を延々走りながらセンボンギが行った。
その時インカニャンバの熱線が二人を掠める。
「ぎゃああああああ!」
モリカワの右腕が吹っ飛んだ。
「お前は下がってろ! 逝くぞ『ボボ』!」
センボンギが雷撃を真正面からインカニャンバに発射する。
インカニャンバは一瞬ひるんだがなおも進行を止めない。
他の相手の構成員達の銃弾が2人を襲う。
「畜生! あんまり効いてねえ!」
センボンギが叫ぶ。
「当たり前だ!ニャンちゃんにそんなオモチャの雷撃、静電気みたいなもんだ!」
茶色い袈裟を着て黒髪を束ねた身長150センチほどのカンナミ・イヨが
インカニャンバの頭に乗って叫んでいる。
「センボンギ! あのチビ狙えあのチビ!」
モリカワが言う。
もう右腕は完全にもとの姿に戻っている。
「ナイス・アイデア! こんな所で死んでられねえ!」
センボンギが吼えた。
ミナセはビルの上を走りながら遠くのビルの上を走るニット帽の男に水撃を何度も浴びせた。
しかし男は身軽に全ての水撃をかわしてしまう。
「かなりデキる……!」
ミナセはかなりの焦りを覚える。
果たしてテレーゼを負ぶったままで勝てるのだろうか。
「ミナセ。私がベーゼンドルファーで援護するから何とか相手に接近してみて」
テレーゼが言う。
「駄目だ! お前を戦わせでもしたらミズエさんに殺される!」
ミナセが言う。
その刹那、テレーゼがミナセの頭を右手で強くぶつ。
ミナセがたじろぐ。
「馬鹿! 私をただのお荷物にするつもりなの!? やっと居場所が見つかったと思ったのに!
 そんなの嫌だよ! 私は…私は…」
テレーゼは泣き出した。
ミナセは酷く狼狽する。
「……ええいっ糞! 分かったよ! 分かった! 分かったから援護を頼む!」
ミナセが言った。
テレーゼの顔がパッと明るくなる。
「有難う!」
テレーゼが言った。
「てめっ……嘘泣きだっただろ今の……!」
ミナセが突っ込む。
「良いから早く! 気を抜くと死ぬよ!?」
テレーゼが言った。
スナイパーの弾丸がミナセの顎の下を掠める。
「やれやれ……」
ミナセは呟いてニット帽の居る道路の反対側までジャンプしようとする。
「逝くぞ!」
ミナセは叫んだ。