フォルテシモ第四話




H県の戦闘集団「涙法師」。
原爆ドームの地下にそのアジトがある。
局長の名はホシマチ・ライマ。
モスグリーンの軍服を着て茶髪の髪をスタイリング・ウォーターで無造作にセットしている。
爆音夢花火というトンファー型のテレポンを使う。
ライマはその日S県の戦闘集団「弥生」とK都の戦闘集団「六波羅」と連絡を取った。
内容はテレーゼを保持した「夏の劣情」を即刻潰す為に共同戦線を張ろうというものだった。
二つの隊はそれを承諾。同盟は成立した。
3つの隊を合わせると総勢は100名余りになる。
「夏の劣情」の組織員は20名足らずだという情報がある。
それはテレーゼの存在を無視すれば楽に勝てる戦いであるに違いなかった。
しかし不確定要員はテレーゼ。
彼女が新型のテレポンを量産すれば状況は一変する。
だから早期決戦が望まれた。
ライマは3つの隊の連携ができる体制を整えるのに急いでいた。
彼には一抹の不安がある。
「夏の劣情」と戦うにあたり、個々の戦力では自分達の方が劣っていると自覚していた。
「夏の劣情」のミナシタ・ナナミ。
彼女と何度か闘った事があるライマだったが一度も勝てたためしが無かった。
接戦にすらならない。
それほど戦闘力の差は絶望的だった。
ライマは前にナナミと闘った去年の冬から半年、
猛烈な修行を重ね力を蓄えた。
闇取引で新型テレポンも手に入れた。
ナナミのテレポンにそれほど得意な能力は備わっていない。
道具ではライマの方に分が有るといえるだろう。
「……」
ライマは武者震いを堪えた。
ついにナナミを殺せるかもしれない。
いや、殺すのだ。この作戦で。
ライマは座っている椅子の隅を握り締めた。
その時、部屋にキリアケ・フウガが入ってくる。
息を切らしている。走ってきたようだ。
「ライマ! 六波羅はナナちゃんも準備できたって明日にもO市に結集できるってさ!」
フウガが言った。
「分かった……。ナナか……奴ならナナミにも対抗できるかも……」
ライマは両手を組合して顔を埋める。
「ライマがやるんじゃないの? ナナミとは」
フウガが尋ねる。
「気が変わった。俺はミズエとやる。俺しかやれる奴がいねえ」
ライマは顔を上げて毅然とした態度でそう言った。
「ライマ……死なないでね。たかが科学者一匹。私は気にしすぎだと思うけどな。
 下手に動いたら『夏の劣情』が日本統一に王手をかける事になるんじゃないかって心配なんだよ」
フウガが言った。
「お前はそんな心配しなくて良い。モリカワやセンボンギを抑える事にだけ気を集中しろ」
フウガは俯く。
「分かったよ」
「決戦は明日だ」
ライマは自分に言い聞かせるように呟いた。

その頃「夏の劣情」では脱兎の勢いでテレーゼがテレポンを作りまくっていた。
設計図を入れるだけで全て自動でテレポンを作る機構を初めの数日で作ってしまい
それからずっと「夏の劣情」の科学班と共に設計図を作り続けている。
同時にアジトを改築し装備を整えアジトは針鼠の様相を呈した。
学ランで髪を立てた耳にピアスを付けた男モリカワは「追憶のテーマ」という
テレポンを作ってもらった。音波を使って攻撃するアルト・サックス状の武器で
モリカワの趣味がアルト・サックスである事を聞いたテレーゼが乗り気で
一時間で作ってしまった。
茶髪で外はねで学ランを着ている強面の男センボンギはチューバが趣味であり
チューバ型の朝顔から雷撃を発射する武器を作ってもらった。
ミナセの邪宗門もアップ・グレードされ大気中の水蒸気を自由に操れるようになった。
身の回りの水ならなんでも刃物などに変える事ができるのだ。
これで邪宗門はフェリポンからテレポンになる。
その日モリカワが汗だくでアジト内に帰ってきた。
「『涙法師』と『六波羅』と『弥生』がうちらを潰す為に動いてるって噂は本当だよ。
 買ったら代表三人にジャンケンして勝った所がテレーゼを奴隷にするつもりらしいぜ」
モリカワは言った。
「大変だぜお嬢さん。此処で奇跡的に悠々自適に暮らしてるが次は奴隷とは」
ミナセが言った。
「うちらは負けません。負けるつもりなの?お馬鹿なミナセさん」
テレーゼは団扇で顔を扇ぎながら言った。
「暑いんならダッフル・コート脱げば良いのに。変な奴だ」
「青マフラー巻いてよくそういう事言いますね。これが夏の狂気ってヤツですか」
テレーゼが言う。
「ああ。俺等は狂えば狂うほど強いんだ。お前もそうだろ? 科学者様」
テレーゼは眼を細める。
「私達は冷静でなきゃいけない。この隊では私がその役……」
テレーゼは人差し指を立てて唇に持って行く。
その時上の階で轟音が鳴り響く。
「ミズエさんが暴れてら……」
ミナセが呟く。
「ミズエさんは今までのこのアジトの装甲では100パーセント力を出し切って
 修行できなかったんだよ。私が改修して大そう喜んでらしたわ。
 彼女は世界的に見ても最強クラスのレッドラムよ」
ミナセは上方向を仰ぐ。
「知ってるよ。そんな事は。俺等があの人の足を引っ張ってんだ……」
ミナセは哀しそうに呟く。
テレーゼがそんなミナセを下から見上げる。
「大丈夫。私が貴方達強くする」
ミナセがヘッと笑う。
「俺達は無力だな……こんなチンチクリンの娘に救われてピンチになってる」
テレーゼはムッとした顔をする。
「チンチクリンなんて言わないで。私は此処で必要とされるんなら精一杯手助けするから」
「悪かったなチビ太」
テレーゼは一瞬顔の表情を固めて、笑った。
「やっぱレッドラムの方が楽しいや」
「意味分からん事言うなタコ」
人間の土地に居た時は始終精密機械のように扱われたテレーゼである。
今始めて生命の息吹を吸っている気持ちだった。
自分はこんな所では終わらない。
この人達と一緒に高みまで生き残るんだ。
テレーゼは思った。
決戦の日まであと一日。