フォルテシモ第2話



ビョウドウイン・ミナセ、18歳の夏。 
彼は戦闘集団「夏の劣情」に所属している。 
その日は局長のスワナイ・ミズエの許可を取って暇をもらった。 
O県O市の連日の戦闘で廃墟と化した街に繰り出した。 
彼は先日見つけたほぼ完全な形で残っていたコーヒー屋スター・フォックスで 
まったり連日の疲れを癒そうと考えていた。 
「ふーっ夏は暑いでんな。」 
急速な勢いで温暖化しつつある気候の中でミナセは呟いた。 
しかしミナセは茶色のダウンジャケットを着て首に青いマフラーを巻いている。 
理由は「好きだから」である。ミナセはそんなよく意味の分からない男だった。 
人間達が南極のコロニーに篭ってしまい誰も改修する事の無い死んだ街。 
一抹の寂しさと爽快感がミナセの胸に宿る。 
「スタフォ♪スタフォ♪なんか楽しくなってきたぞ。」 
ミナセは独り言を言いながら歩いていく。 
駅ビルの地下街にあるスター・フォックスに着いた。 
ギィと音を立たせて扉を開ける。 
「!!!」 
全身の毛がその刹那逆立つ。 
目前の店内に人影が見えた。 
対抗勢力である可能性が・・・ 
紐が白い黒のダッフルコートを着たショートカットで金髪碧眼の女だ。 
ミナセは背中に担いだ邪宗門を咄嗟に構える。 
しかし相手には大した反応は見られない。 
青い眼をぼんやり開けてミナセの方をぼんやり眺めている。 
並みの輩じゃない・・・ 
ミナセは感じた。 
相手は無反応だがミナセの心臓は激しく脈打っていた。 
「あなたはレッドラム・・・?」 
女が呟く。 
ミナセは狼狽する。 
「当たり前だ!!そういうお前は人間か!!?面倒くさいから殺してやろうか!!」 
女はゆっくりと顔にアルカイック・スマイルを貼り付ける。 
「良いよ。殺しても。」 
ミナセは頭に血が上った。 
「邪宗門!!!」 
ミナセがそう叫ぶと邪宗門の先端から水が噴出す。 
さらに水は形態を変え鋭利な刃物のような形を象る。 
水は女めがけて飛び出す。女の首に刃先が食い込もうとした瞬間・・・ 
女の背中から数本の触手が躍り出た。 
触手は赤いコード状で先端に様々な形の刃物がついている。 
首に迫る刃先を触手が弾く。 
水は無数の分子に分かれて霧散した。 
「ベーゼンドルファーは私をオートで守る。」 
テレーゼは呟いた。 
「やろう!!」 
ミナセは叫んでさらに邪宗門から水を出した。 
「待って!!」 
女が声を上げる。 
ミナセはピクリとして水の動きを止める。 
女は相変わらずアルカイック・スマイルを顔に貼り付けている。 
「私はテレーゼ。大脳特化型レッドラムでユダヤ人。今日は貴方達と取引しに来たのよ。」 
テレーゼは高い硬質なピアノのように響く声でそう言った。 
「此処はまだ生きてるわ。キャラメル・フラペチーノでも作ってくださらない?」 
テレーゼは事も無げにそう言った。