フォルテシモ第1話



黒い雨が顔を打つ。
3歳のビョウドウイン・ミナセは眼を覚ました。
白い簡素なTシャツとズボンがボロボロに破れている。
体中がひりひりと痛む。
腕を地について立ち上がり辺りを見回す。
焼け野原だ。
瓦礫の山。廃墟。方々で燻る火。頭上にたちこめる暗雲。
景色が全て黒で縁取られ地獄のような様相を呈していた。
「何があったの・・・?」
ミナセは独り言を呟く。
「母さん・・・父さん・・・ナナセさん・・・アゲハさん・・・何処に行ったの?」
其処で後ろを振り返る。
養護施設は比較的原型を留めているようだ。半壊といった所か。
しかしミナセはすぐ傍の壁に人の形の黒い染みが残っているのを見た。
其れに何の意味が有るのかはミナセには分からなかった。
「皆・・・何処に行ったの?」
ミナセはもう一度前に振り返る。
ふと、視界の片隅にキラリと光るものを見つける。
足を引きずりながらその方向に歩いていく。
体の節々がひどく痛んで少し涙が出た。
30メートルほど歩いて光の正体を見つける。
黒い禍々しい1メートル40センチほどの棍棒のような構造。
表面が艶かしく輝いている。
「ジャソーモンだ」
ミナセの母親、サエグサ・プラトのフェリポン邪宗門だった。
「母さん、これ置いて何処に行ったんだろう」
ミナセは不思議に思う。
邪宗門に取り付いて全身の力を使って引き抜こうとする。
顔を赤くくしゃくしゃにしながら全身全霊の力を込める。
「ぎぎぎ…!」
邪宗門の知に埋もれている部分が少し揺らぐ。
「ああああああああ!!」
渾身の力を込める。
涙がとめどなく溢れてきた。
「母さん…!!!」
ミナセは叫んだ。
その瞬間邪宗門がヴーンと機械音を放ち内部から青い光があふれ出た。
「!?」
驚くミナセ。
咄嗟に邪宗門から離れる。
「何…?」
ミナセが呟く。
邪宗門はプラトが使っていた時には何時も紫色に輝いていた。
ミナセは子供ながらに青い光に違和感を感じる。
ミナセは恐る恐るもう一度邪宗門を掴む。
もう一度力を込めて引き抜こうとする。
すると驚く事に少しの力で簡単に抜けてしまう。
ミナセは勢い余って後ろに4歩下がる。
邪宗門は一瞬でミナセが扱える重さまで軽くなった。
ミナセは狼狽する。
「こんなに軽いと母さん困っちゃうよ。馬鹿力なんだから」
ミナセは一人で呟く。
一陣の熱い風が吹き抜ける。
ミナセの心に何かがストンと落ちる。
その時にはもう納得して知っていたのだ。
母親サエグサ・プラトと父親ビョウドウイン・ムスイの死を。
全ての始まりの大地。
ミナセの髪で隠れていない方の左眼からツッと一筋涙が流れ落ちた。